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変化する関係性

動き始める

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 私は休日を使って院長先生の元を尋ねた。まずは看護師長に話を通してもらい、看護部長と院長へと話がいった。

 1階にある多目的室に呼び出され、私は手に汗握る状態で向かった。私の隣には久我先生がいた。
 1人で解決しようと考えた。証拠はくれたし、これだけ揃っていれば大丈夫だろうと思えた。けれど、心細くて怖くて、1人で大人数を相手にできるかとだんだん不安になった。

 必要な証言する。そう、久我先生は言った。まだ信用なんてできないけれど、謝ってくれた事実はあるし、協力もしれくれた。
 相手からの申し出だったら受けてみるのもいいのかもしれない。そんなふうにも思った。

 全く関係ない咲季さんや慎さんを巻き込むわけにもいかないし、やっぱり選択肢としては久我先生しかなかった。

 穏やかな印象の院長だったが、顔付きは神妙である。無機質な多目的室には机が長方形に並べられ、真ん中にポッカリ穴が空いていた。私達はドアから入ってすぐ右隅に座った。
 私の左隣に久我先生。それから私の右に角を挟んで院長、看護部長、病棟看護師長。内容はほんの少しだけ話してあったため院長が話を切り出した途端、ゴクリと唾をのむ音が静寂の中に響いた。

「時系列で話してもらえますか?」

 そう言われ、私は全てを話した。それから久我先生にもらった動画と音声データも提示した。

 院長先生達の反応は、驚愕。それに尽きる。それからやってくる同情の声。女性である師長と部長は「これは立派な犯罪ですよ!」と憤りを顕にさせた。
 私のために怒ってくれる人がいる。それがこんなにも嬉しいものだということを忘れていた。

「これは民事で済ませられる問題ではありません。警察を介入させましょう」

 看護部長はそう言い、院長は顔面蒼白。やはり経営難を気にしてのことだろう。
 私としても刑事事件に発展し、裁判となるのは避けたかった。自分なりに調べたところ、裁判ともなれば判決までに何ヶ月も何年もかかることがあるとのことだった。
 怖い思いはしたが、最後まで及んだわけでもない。もちろん、許せないがあの人達のせいで何年もこの事件に縛られるのも嫌だと思った。
 そう考えると、本当に久我先生が助けてくれてよかったと思えた。あの時先生がこなかったら、私はきっと最後まで行為に進み泣き寝入りしなければながらなかったかもしれなかった。
 警察へ行ったら行ったで、何年もかかって、一部始終を男性警察官の前で話して判決が決まるのを待ったかもしれない。その間にも九瀬まりあの悪事は雲隠れしてのうのうと生活していたかもしれない。

 それを考えたら、民事で済ますことができるこの状況は幸いだったと思えた。
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