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愛情
【18】
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「まあまあ、ダリア。私も結婚したのが31の時だったし、律もまだまだ勉強中の身だから」
「そうだよ。俺だって忙しいんだ。父さんもよく、ようやく実績も信用もつき始めたこんな時期に結婚したなって思うよ」
「律もそう反発するんじゃない。金城くんからよくやってくれてるって聞いてるよ。仕事に夢中になるのもいいけれど、父さん達みたいに素敵な出会いがあればきっと考え方も変わるさ」
淡々と話す律くんに、なだめる父。
律くんは、この穏やかな夫婦のどちらにも似ていない性格とも思える、少し冷めた考え方の持ち主のようだ。
「律くんっていつもあんな感じ?」
「うん、昔から。でも、悪いやつじゃないんだ。あんなんで面倒見はいいし。学生時代は勉強見てくれたりもしたよ」
「そうなんだ……兄弟仲はいいって言ってたもんね」
「うん。あれでいてばあちゃんの面倒も1番見てくれてるし、なんだかんだ実家にいてあげてるしね。俺も妹もここ出ちゃったし」
「あ……そっか。確かにおばあさんに対しては優しいなって思ったよ」
「うん。皆おばあちゃん子だったから。子供の頃は、父さんが事務所建てたばかりで忙しくて全然遊んでくれなくてさ。母さんがずっと家にいたけど、それでも特に律と奏はばあちゃんにべったりだった気がする」
「あまねくんは?」
「俺は……」
「お母さん子だよね。そんな気がするよ」
「えー……」
「あまねくん、甘えん坊だもんね」
「え? そんなふうに見える? 俺、わりとしっかりしてきたと思ってたんだけどな……」
律くんの方がお兄さんだからというのもあるかとは思うが、彼と比べるとやはりあまねくんは甘えたがりに見える。
お母さんを独り占めしてべったり甘えていた幼少期を簡単に想像できて、少し笑えた。
「2人、仲良いのね」
あまねくんとクスクス笑って話をしていれば、見られていたのかニッコリ笑ってこちらを見ている母。
食事も美味しいし、家族団欒の中でこんなにも自然に会話をさせてもらえて幸せだ。律くんは少し癖がありそうだけれど、おばあちゃんに対する優しさは本物だろうし、拒否はされていないようなので、これから仲良くなれたらいいなと思う。
突然ブー、ブーとバイブ音が鳴り、あまねくんがパンツの後ろポケットを探る。
「あ、奏からだ」
あまねくんは、おそらく妹さんからかかってきたのであろう電話をとって、立ち上がる。
「もしもし。……うん、うん」
会話をしながらリビングを出ていく。確かにマナーとしては、食事中の席で電話はどうかと思うけれど、家族の前だし相手は妹さんだし、彼女1人を家族の前に置いていくのはいかがなものか。
あまねくんがいたから自然と会話ができていたということもあり、彼がいなくなった途端、緊張感が増す。
せっかく穏やかに過ごせていたのに、何を切り出せばいいのだろう。
「周は、ご迷惑をかけていませんか?」
場の雰囲気に困惑しかけていたのだけれど、父親がそう切り出してくれたことで、安堵する。
「いえいえ。むしろ、私の方がお世話になっています。いつも助けていただいて、一緒にいてもらえると心強いです」
「あら? 本当? あの子、けっこう甘えん坊なところあるから心配よ」
それは、さっき私達も話していました。
「周は、少し卑屈なところがあるので燻って悪い癖が出なければいいのですが……」
「そうですか?」
「ええ。実は、周ももともとは弁護士志望だったんです。律はいつも成績トップで、弁護士資格もとり、今は私の友人の元で働いています」
「わぁ……律くんも弁護士さんなんですね」
ちらっと律くんを見るけれど、彼は何も言わずに黙々と食事をしている。
「しかし、周は成績が伸び悩んでいた時期もありましてね。それで大学を辞めようかと思っていた時もありました」
「それは……彼から聞きました」
「そうですか。周は、そんなことまで打ち明けられる程、あなたのことを信頼しているんですね」
「そうなのでしょうか……」
「あの子は、あまり自分のことを口にしたがりませんから。私達も、律と周を比較してきたつもりもありませんし、奏の上京を認めたように、周にもやりたいことをやるように伝えてあったのですが、どうも伝わりきれずにずっと劣等感を抱いてきたようです」
父親の話を聞いて、あの時「あまねくんは弁護士にならなかったの?」なんて軽率な発言をしなくてよかったと心底思った。
時折伺える彼の自信のなさは、そういったところからくるのかもしれない。
「そうだよ。俺だって忙しいんだ。父さんもよく、ようやく実績も信用もつき始めたこんな時期に結婚したなって思うよ」
「律もそう反発するんじゃない。金城くんからよくやってくれてるって聞いてるよ。仕事に夢中になるのもいいけれど、父さん達みたいに素敵な出会いがあればきっと考え方も変わるさ」
淡々と話す律くんに、なだめる父。
律くんは、この穏やかな夫婦のどちらにも似ていない性格とも思える、少し冷めた考え方の持ち主のようだ。
「律くんっていつもあんな感じ?」
「うん、昔から。でも、悪いやつじゃないんだ。あんなんで面倒見はいいし。学生時代は勉強見てくれたりもしたよ」
「そうなんだ……兄弟仲はいいって言ってたもんね」
「うん。あれでいてばあちゃんの面倒も1番見てくれてるし、なんだかんだ実家にいてあげてるしね。俺も妹もここ出ちゃったし」
「あ……そっか。確かにおばあさんに対しては優しいなって思ったよ」
「うん。皆おばあちゃん子だったから。子供の頃は、父さんが事務所建てたばかりで忙しくて全然遊んでくれなくてさ。母さんがずっと家にいたけど、それでも特に律と奏はばあちゃんにべったりだった気がする」
「あまねくんは?」
「俺は……」
「お母さん子だよね。そんな気がするよ」
「えー……」
「あまねくん、甘えん坊だもんね」
「え? そんなふうに見える? 俺、わりとしっかりしてきたと思ってたんだけどな……」
律くんの方がお兄さんだからというのもあるかとは思うが、彼と比べるとやはりあまねくんは甘えたがりに見える。
お母さんを独り占めしてべったり甘えていた幼少期を簡単に想像できて、少し笑えた。
「2人、仲良いのね」
あまねくんとクスクス笑って話をしていれば、見られていたのかニッコリ笑ってこちらを見ている母。
食事も美味しいし、家族団欒の中でこんなにも自然に会話をさせてもらえて幸せだ。律くんは少し癖がありそうだけれど、おばあちゃんに対する優しさは本物だろうし、拒否はされていないようなので、これから仲良くなれたらいいなと思う。
突然ブー、ブーとバイブ音が鳴り、あまねくんがパンツの後ろポケットを探る。
「あ、奏からだ」
あまねくんは、おそらく妹さんからかかってきたのであろう電話をとって、立ち上がる。
「もしもし。……うん、うん」
会話をしながらリビングを出ていく。確かにマナーとしては、食事中の席で電話はどうかと思うけれど、家族の前だし相手は妹さんだし、彼女1人を家族の前に置いていくのはいかがなものか。
あまねくんがいたから自然と会話ができていたということもあり、彼がいなくなった途端、緊張感が増す。
せっかく穏やかに過ごせていたのに、何を切り出せばいいのだろう。
「周は、ご迷惑をかけていませんか?」
場の雰囲気に困惑しかけていたのだけれど、父親がそう切り出してくれたことで、安堵する。
「いえいえ。むしろ、私の方がお世話になっています。いつも助けていただいて、一緒にいてもらえると心強いです」
「あら? 本当? あの子、けっこう甘えん坊なところあるから心配よ」
それは、さっき私達も話していました。
「周は、少し卑屈なところがあるので燻って悪い癖が出なければいいのですが……」
「そうですか?」
「ええ。実は、周ももともとは弁護士志望だったんです。律はいつも成績トップで、弁護士資格もとり、今は私の友人の元で働いています」
「わぁ……律くんも弁護士さんなんですね」
ちらっと律くんを見るけれど、彼は何も言わずに黙々と食事をしている。
「しかし、周は成績が伸び悩んでいた時期もありましてね。それで大学を辞めようかと思っていた時もありました」
「それは……彼から聞きました」
「そうですか。周は、そんなことまで打ち明けられる程、あなたのことを信頼しているんですね」
「そうなのでしょうか……」
「あの子は、あまり自分のことを口にしたがりませんから。私達も、律と周を比較してきたつもりもありませんし、奏の上京を認めたように、周にもやりたいことをやるように伝えてあったのですが、どうも伝わりきれずにずっと劣等感を抱いてきたようです」
父親の話を聞いて、あの時「あまねくんは弁護士にならなかったの?」なんて軽率な発言をしなくてよかったと心底思った。
時折伺える彼の自信のなさは、そういったところからくるのかもしれない。
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