63 / 289
ラポール形成
【9】
しおりを挟む
「今日は、まどかちゃんとたくさんお話したものね。きっと楽しかったのね」
ダリアさんがそう言ってくれて嬉しくなる。
きっと次に訪れた時には忘れられてしまっているだろうが、今のこの時を大切にしようと思った。時間が気になって1度スマホを確認すれば、18:02を差している。
あまねくんも仕事終わったかな。スマホをバッグに戻して、おばあちゃんとの会話を続けた。
暫く話していると、律くんが着替えて戻ってきた。てっきり自室にこもって食事まで降りてこないんじゃないかと思っていたため、少し驚いた。
「律くんは、いつもこのくらいの時間に帰ってくるの?」
おばあちゃんの正面に腰掛けた律くんに話しかける。昼間ダリアさんが座っていた席の隣だ。
「日によります。時間がかかっていた案件も最近終えて、今日はクライアントと依頼内容を確認するだけだったので早く帰ってこれました」
「そっか……弁護士さんって毎回仕事内容変わるんだもんね……。大変だね」
「まあ……でも、勉強にはなります」
「すごいなぁ……。あまねくんもそうだけど、常に勉強し続けないとならない職業は大変だね」
「介護職は違うんですか?」
「うーん……認知症の研修とか、体に負担がかかりにくい介助の方法とかの勉強会なんかはあるけど勉強っていう勉強はしないかな。福祉法とかも直接関わるのはケアマネとかだから、現場の私達はあんまり……」
雅臣にも言われたことがあるけれど、資格を取るだけとって現在なにもしていない私は、律くんやあまねくんに比べれば努力も少ないだろう。
「体力仕事だと聞きます」
「そうだね。ずっと走り回ってるからね」
「走り回ってる?」
「うん。転びそうになったり、食べ物じゃないものを口に入れたり、暴れたり……。ナースコールが鳴りっぱなしになったり」
「壮絶ですね」
「まあ、しょうがないよね。家ではみられない人達がいるところだから」
「融通がきかないのは大変です」
「そうだけど……弁護士さんもそうじゃないの? 認知症はなくても聞き分けのいい人ばかりじゃないでしょう?」
「まあ……客だからと高圧的に出る人もいますけど、弁護士の場合は依頼を断ることもできるし、法律を持ち出せば半ば脅しのようなことも言えるので、クライアントとの立場で不利になることはあまりありません」
「じゃあ……検事さん?」
「それは厄介です」
彼は少しだけ笑ってくれた。
弁護士の仕事は、ドラマで見るくらいの浅はかな知識しかないけれど、こうやって少しでも律くんと会話が続くのは嬉しかった。
「裁判とかも行くんだよね?」
「たまに……。でも殆どが民事だし、一般的な依頼の場合、裁判に勝ち目がなければ行わないことの方が多いです。裁判は、よっぽどのことがあった場合だけだから、そんなにしょっちゅう行われるわけじゃありません。大体の人は和解金で納得されますしね」
「そっか……。利益が少なくても裁判が起こることもあるの?」
「本人が望めば。依頼費用を支払ってマイナスになる場合でも、社会的信用を取り戻すためだとか、プライドのためだとかって人もたまにいます」
「そっか……。裁判が多いのってどんな案件?」
「うーん……やっぱり離婚じゃないですか? 最近は、ハラスメントも増えたけど裁判すると社会的立場も危うくなるから示談で済ませることも多いですしね」
「やっぱ離婚かぁ……じゃあ、律くんも」
「俺は、受けません」
「え?」
「離婚って難しいんですよ。長引くばっかりでわりに合わない。それに、弁護士に頼めば離婚できるとか、親権とれるって思ってる無知な人が多いから、自分の主張ばっかりで全然話が進まない。それに対して親身に話を聞いて、根気よく寄り添っていくなんてこと、俺にできると思います?」
彼は苦虫を潰したような顔をして言った。嫌なことはとてもわかりやすい。
離婚の依頼、嫌いなんだなぁとこちらも苦笑してしまう。
ダリアさんがそう言ってくれて嬉しくなる。
きっと次に訪れた時には忘れられてしまっているだろうが、今のこの時を大切にしようと思った。時間が気になって1度スマホを確認すれば、18:02を差している。
あまねくんも仕事終わったかな。スマホをバッグに戻して、おばあちゃんとの会話を続けた。
暫く話していると、律くんが着替えて戻ってきた。てっきり自室にこもって食事まで降りてこないんじゃないかと思っていたため、少し驚いた。
「律くんは、いつもこのくらいの時間に帰ってくるの?」
おばあちゃんの正面に腰掛けた律くんに話しかける。昼間ダリアさんが座っていた席の隣だ。
「日によります。時間がかかっていた案件も最近終えて、今日はクライアントと依頼内容を確認するだけだったので早く帰ってこれました」
「そっか……弁護士さんって毎回仕事内容変わるんだもんね……。大変だね」
「まあ……でも、勉強にはなります」
「すごいなぁ……。あまねくんもそうだけど、常に勉強し続けないとならない職業は大変だね」
「介護職は違うんですか?」
「うーん……認知症の研修とか、体に負担がかかりにくい介助の方法とかの勉強会なんかはあるけど勉強っていう勉強はしないかな。福祉法とかも直接関わるのはケアマネとかだから、現場の私達はあんまり……」
雅臣にも言われたことがあるけれど、資格を取るだけとって現在なにもしていない私は、律くんやあまねくんに比べれば努力も少ないだろう。
「体力仕事だと聞きます」
「そうだね。ずっと走り回ってるからね」
「走り回ってる?」
「うん。転びそうになったり、食べ物じゃないものを口に入れたり、暴れたり……。ナースコールが鳴りっぱなしになったり」
「壮絶ですね」
「まあ、しょうがないよね。家ではみられない人達がいるところだから」
「融通がきかないのは大変です」
「そうだけど……弁護士さんもそうじゃないの? 認知症はなくても聞き分けのいい人ばかりじゃないでしょう?」
「まあ……客だからと高圧的に出る人もいますけど、弁護士の場合は依頼を断ることもできるし、法律を持ち出せば半ば脅しのようなことも言えるので、クライアントとの立場で不利になることはあまりありません」
「じゃあ……検事さん?」
「それは厄介です」
彼は少しだけ笑ってくれた。
弁護士の仕事は、ドラマで見るくらいの浅はかな知識しかないけれど、こうやって少しでも律くんと会話が続くのは嬉しかった。
「裁判とかも行くんだよね?」
「たまに……。でも殆どが民事だし、一般的な依頼の場合、裁判に勝ち目がなければ行わないことの方が多いです。裁判は、よっぽどのことがあった場合だけだから、そんなにしょっちゅう行われるわけじゃありません。大体の人は和解金で納得されますしね」
「そっか……。利益が少なくても裁判が起こることもあるの?」
「本人が望めば。依頼費用を支払ってマイナスになる場合でも、社会的信用を取り戻すためだとか、プライドのためだとかって人もたまにいます」
「そっか……。裁判が多いのってどんな案件?」
「うーん……やっぱり離婚じゃないですか? 最近は、ハラスメントも増えたけど裁判すると社会的立場も危うくなるから示談で済ませることも多いですしね」
「やっぱ離婚かぁ……じゃあ、律くんも」
「俺は、受けません」
「え?」
「離婚って難しいんですよ。長引くばっかりでわりに合わない。それに、弁護士に頼めば離婚できるとか、親権とれるって思ってる無知な人が多いから、自分の主張ばっかりで全然話が進まない。それに対して親身に話を聞いて、根気よく寄り添っていくなんてこと、俺にできると思います?」
彼は苦虫を潰したような顔をして言った。嫌なことはとてもわかりやすい。
離婚の依頼、嫌いなんだなぁとこちらも苦笑してしまう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる