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ラポール形成
【24】
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実家に帰ってからは、両親を前に私も結婚したい人がいることを告げた。
本当は、お酒の入っていない真面目な場面で言うのが筋だろうが、とりあえずは父の機嫌がいい今、ワンクッションおいて置こうという寸法だ。
「結婚? 何だ、付き合っている男がいるなんて言ってなかったじゃないか」
てっきり勢いであっさり承諾してくれると思っていたのに、そんな言葉を返されてしまった。雅臣と付き合っていたことは、母親には伝えてあった。
ただ、父はどこの男だの、職業はなんだのあれこれ詮索してくる気がして言っていなかったのだ。だから、雅臣のことはもちろん、あまねくんのことなら尚更知らなくて当然だった。
「まどかだってもう30過ぎてるんだし、彼氏の1人や2人いるわよ」
母が間に入ってくれるが、彼氏が2人いたことは今までない。余計なことは言わないで欲しい。
「ちゃんとお付き合いしてるし、向こうの家族には合わせてもらった」
「なに? こっちには挨拶もないのにか?」
「だから、こっちに挨拶するために事前にお父さんに話したんでしょ」
「……何の仕事をしてる人なんだ」
「税理士さんだよ」
「税理士?……何でまたお前なんかを欲しがったんだろうな」
それは、娘に対してあんまりにも失礼じゃないか?
確かに学歴も収入も申し分ないけれど、私だってそんな彼と対等に会話をできるくらいの一般教養はあるつもりだ。
「あのねぇ……彼は、私の性格を好きになってくれたの。今時、いいとこのお嬢様じゃなくても税理士さんと結婚できるんだから」
「ほう……それで、いくつだ?」
「27歳」
「年下じゃないか!」
またそれか。どこへ行ってもその反応。いい加減うんざりする。
あまねくんは、時々子供っぽいけれど、考え方はしっかりしているし、同年代の男性よりも余程大人だと思う。年齢だけで判断するのはやめていただきたい。
「でも、礼儀正しいいい子だったわよ」
すかさず母が入り込む。イケメンの息子が欲しくてたまらない母は、ひとえに私の味方だ。
「何だ、奈穂子はもう会ったのか」
「この前、たまたまね。一緒にお夕飯作ってたのよ」
「嫁入り前の女の家に上がり込んでたのか!?」
父親は怪訝そうな顔をして言う。そんな10代や20代の小娘でもあるまいし……。
「もう、お父さん! 私達、結婚するつもりで真剣に付き合ってるんだよ? そりゃ家くらいくるよ。それにちゃんと挨拶したいって言ってくれてるんだからいいでしょ!? これで行き遅れたら、お父さんのせいだからね」
ちょっと強気に出れば、ぐっと黙る父。姉が同棲を始めると言った際、最初は反対していた父。
ようやく認めたと思ったが、姉達が一向に籍を入れないものだから、逆に焦り始めた父。その時のことを思い出しているのだろうか、行き遅れという言葉に反応する。
「まあ……そうだな。まだ若いなら、これからいくらでも働けるだろうし、貰い手がいるうちに貰ってもらわなきゃだな」
自分に言い聞かせるようにしてそんなことを言っている。よかった、何とかなりそう。
「そうでしょ? それに優しくて明るくていい子だよ? お父さんとお母さんのことも、お姉ちゃんが結婚しちゃうのに、私まで結婚したら寂しくなっちゃうかなって心配してくれてたんだから」
「まあまあまあまあまあ……。なんていい子」
大袈裟なくらい母が反応する。お母さん、ちょっと黙ってて。
本当は、お酒の入っていない真面目な場面で言うのが筋だろうが、とりあえずは父の機嫌がいい今、ワンクッションおいて置こうという寸法だ。
「結婚? 何だ、付き合っている男がいるなんて言ってなかったじゃないか」
てっきり勢いであっさり承諾してくれると思っていたのに、そんな言葉を返されてしまった。雅臣と付き合っていたことは、母親には伝えてあった。
ただ、父はどこの男だの、職業はなんだのあれこれ詮索してくる気がして言っていなかったのだ。だから、雅臣のことはもちろん、あまねくんのことなら尚更知らなくて当然だった。
「まどかだってもう30過ぎてるんだし、彼氏の1人や2人いるわよ」
母が間に入ってくれるが、彼氏が2人いたことは今までない。余計なことは言わないで欲しい。
「ちゃんとお付き合いしてるし、向こうの家族には合わせてもらった」
「なに? こっちには挨拶もないのにか?」
「だから、こっちに挨拶するために事前にお父さんに話したんでしょ」
「……何の仕事をしてる人なんだ」
「税理士さんだよ」
「税理士?……何でまたお前なんかを欲しがったんだろうな」
それは、娘に対してあんまりにも失礼じゃないか?
確かに学歴も収入も申し分ないけれど、私だってそんな彼と対等に会話をできるくらいの一般教養はあるつもりだ。
「あのねぇ……彼は、私の性格を好きになってくれたの。今時、いいとこのお嬢様じゃなくても税理士さんと結婚できるんだから」
「ほう……それで、いくつだ?」
「27歳」
「年下じゃないか!」
またそれか。どこへ行ってもその反応。いい加減うんざりする。
あまねくんは、時々子供っぽいけれど、考え方はしっかりしているし、同年代の男性よりも余程大人だと思う。年齢だけで判断するのはやめていただきたい。
「でも、礼儀正しいいい子だったわよ」
すかさず母が入り込む。イケメンの息子が欲しくてたまらない母は、ひとえに私の味方だ。
「何だ、奈穂子はもう会ったのか」
「この前、たまたまね。一緒にお夕飯作ってたのよ」
「嫁入り前の女の家に上がり込んでたのか!?」
父親は怪訝そうな顔をして言う。そんな10代や20代の小娘でもあるまいし……。
「もう、お父さん! 私達、結婚するつもりで真剣に付き合ってるんだよ? そりゃ家くらいくるよ。それにちゃんと挨拶したいって言ってくれてるんだからいいでしょ!? これで行き遅れたら、お父さんのせいだからね」
ちょっと強気に出れば、ぐっと黙る父。姉が同棲を始めると言った際、最初は反対していた父。
ようやく認めたと思ったが、姉達が一向に籍を入れないものだから、逆に焦り始めた父。その時のことを思い出しているのだろうか、行き遅れという言葉に反応する。
「まあ……そうだな。まだ若いなら、これからいくらでも働けるだろうし、貰い手がいるうちに貰ってもらわなきゃだな」
自分に言い聞かせるようにしてそんなことを言っている。よかった、何とかなりそう。
「そうでしょ? それに優しくて明るくていい子だよ? お父さんとお母さんのことも、お姉ちゃんが結婚しちゃうのに、私まで結婚したら寂しくなっちゃうかなって心配してくれてたんだから」
「まあまあまあまあまあ……。なんていい子」
大袈裟なくらい母が反応する。お母さん、ちょっと黙ってて。
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