81 / 289
ラポール形成
【27】
しおりを挟む
襖を開けると、味噌汁の匂いがした。
美味しそう、お腹空いた……そんなことを思いながら、匂いに釣られるようにしてダイニングまで行く。
テーブルの上に小分けして並べられた皿には、全てにラップがかけてある。
それらを真上から見下ろせるところまで近付くと、「起きたの? ご飯食べる?」と母が声をかけてきた。
「……食べる」
まだぼやぼやする頭を必死に働かせようとするが、うまいこといかない。
その席に腰をかけると、すぐに用意された温かいお茶を出された。何もしなくてもお茶が出てくると、余計に自分で何かをする気など起きない。
ご飯をよそってくれ、おかずを温めるかと聞かれたが、それはいいと断った。冷蔵庫に入っていたわけでもないし、冷たくて食べられない程ではないだろう。
「ねぇ、明日はもう向こうに帰るの?」
「うん……そのつもり」
「明日、夜勤明けでしょ?」
「うん」
「何時頃起きるの?」
「んー、わかんないけど、夕方じゃないかな? 残業になれば10時頃まで仕事かもしれないし」
「そう。あまねくんはくるの?」
食事を始めているのに、目の前の椅子に腰掛け、質問ばかりをしてくる母。ご飯くらいゆっくり食べさせて欲しい。
散々実家のありがたみを痛感したが、こういう時ばかりはやはり1人の方が楽だなんて思ってしまう。
「あまねくんねぇ……。来ないでしょ。明日月曜日だもん」
「何で月曜日だと来ないの?」
「だって、休み明けの仕事だよ? お母さん、今日から5日間働かなきゃって時に、夜出る気になる?」
「うーん……時と場合によるかな」
「例えば?」
「あまねくんに会えるなら外出るかも」
「……だから、あまねくんは来ないってば。そんなこと言ったって、そう何回も会わせないからね」
「えー……」
口を尖らせて面白くなさそうにしている母。
そんなにあまねくんが気に入ったのか。彼にだって仕事があって、生活があるのだから、そうそう毎日会えるわけではない。
「またうちに連れてくるから」
「いつ?」
「多分、来月」
「えー……」
「しょんないじゃん。休みないもん」
「まどかは仕事帰りにそのままくればいいじゃない」
「嫌だよ。遅番18:30までだよ? 残業でもすればすぐ19時回っちゃうし。着替えてあまねくんと合流したら20時近くなっちゃうじゃん」
「着替えなきゃいいじゃん」
「うんこついてるかもしれないのに? ここで洗ってくれんの?」
「……」
そこは黙るのね。
どうしてもあまねくんに会いたい様子の母。まあ、わかるけどね。わかるけど、彼もそんなに暇じゃないのであしからず。
何か言いたげな母をよそに、私は食事を続けた。
美味しそう、お腹空いた……そんなことを思いながら、匂いに釣られるようにしてダイニングまで行く。
テーブルの上に小分けして並べられた皿には、全てにラップがかけてある。
それらを真上から見下ろせるところまで近付くと、「起きたの? ご飯食べる?」と母が声をかけてきた。
「……食べる」
まだぼやぼやする頭を必死に働かせようとするが、うまいこといかない。
その席に腰をかけると、すぐに用意された温かいお茶を出された。何もしなくてもお茶が出てくると、余計に自分で何かをする気など起きない。
ご飯をよそってくれ、おかずを温めるかと聞かれたが、それはいいと断った。冷蔵庫に入っていたわけでもないし、冷たくて食べられない程ではないだろう。
「ねぇ、明日はもう向こうに帰るの?」
「うん……そのつもり」
「明日、夜勤明けでしょ?」
「うん」
「何時頃起きるの?」
「んー、わかんないけど、夕方じゃないかな? 残業になれば10時頃まで仕事かもしれないし」
「そう。あまねくんはくるの?」
食事を始めているのに、目の前の椅子に腰掛け、質問ばかりをしてくる母。ご飯くらいゆっくり食べさせて欲しい。
散々実家のありがたみを痛感したが、こういう時ばかりはやはり1人の方が楽だなんて思ってしまう。
「あまねくんねぇ……。来ないでしょ。明日月曜日だもん」
「何で月曜日だと来ないの?」
「だって、休み明けの仕事だよ? お母さん、今日から5日間働かなきゃって時に、夜出る気になる?」
「うーん……時と場合によるかな」
「例えば?」
「あまねくんに会えるなら外出るかも」
「……だから、あまねくんは来ないってば。そんなこと言ったって、そう何回も会わせないからね」
「えー……」
口を尖らせて面白くなさそうにしている母。
そんなにあまねくんが気に入ったのか。彼にだって仕事があって、生活があるのだから、そうそう毎日会えるわけではない。
「またうちに連れてくるから」
「いつ?」
「多分、来月」
「えー……」
「しょんないじゃん。休みないもん」
「まどかは仕事帰りにそのままくればいいじゃない」
「嫌だよ。遅番18:30までだよ? 残業でもすればすぐ19時回っちゃうし。着替えてあまねくんと合流したら20時近くなっちゃうじゃん」
「着替えなきゃいいじゃん」
「うんこついてるかもしれないのに? ここで洗ってくれんの?」
「……」
そこは黙るのね。
どうしてもあまねくんに会いたい様子の母。まあ、わかるけどね。わかるけど、彼もそんなに暇じゃないのであしからず。
何か言いたげな母をよそに、私は食事を続けた。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる