【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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再会

【5】

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 震えてきた手でぎゅっとハンドルを握る。彼が私がいつも通っているルートを把握しているわけではないとわかっていても、いつも通りには進めなかった。
 アパートの場所も知られてしまっているし、このまま帰ることはできない。

 私は15分程適当に車を走らせ、路肩に停車させた。バッグの中からスマホを取り出し、電話をかける。その主はあまねくんだ。

「まどかさん? どうしたの? 仕事終わった?」

 2回目のコールですぐに出た彼。声は弾んでいて、彼の表情が想像できるようだった。しかし、私はそんな彼に頬を緩めている場合ではない。
 汗が滲み出し、作業着の脇部分を濡らしている。じっとりとした感覚に嫌悪するが、それどころでもない。

「あまねくん! 雅臣が……」

「え? 何?」

「雅臣が出て来てたの! 今、職場の駐車場で待ち伏せされててっ……それで……」

 そこまで言って、唇が震えていることに気付いた。上下の歯がぶつかってカチカチと音を立てる。
 今になって更なる恐怖を感じた。

「まどかさん? ちょっと落ち着いて。雅臣って結城雅臣?」

「……うん」

「刑務所から出てきたってこと?」

「……うん。今会ったの。ねぇ、あまねくん……怖い」

「今どこ?」

「わかんない……適当に走っちゃったから。でも、アパートも知られてるし、帰れない」

「ナビでうちまでこれそう?」

「うん……」

「ごめん、俺も今仕事終わったところだから。急いで帰るからうちに向かってて」

「わかった」

「先ついたら中入ってていいから。暗証番号覚えてる?」

「……うん」

 1度だけ、彼よりも先に彼の家に上がったことがあった。
 私が休みで、彼が仕事の日。ご飯を作って待っていると言った私に「いつかは一緒に住みたいって思ってるから、教えておくね。先に上がってて」そう言って家の暗証番号を教えてくれた。
 あの時は、私のことを信用してくれているのだと心から嬉しく思え、感動した。いつか一緒に住めたらいいななんて未来を想像した。
 まさか、こんなふうに駆け込み寺のような扱いになるだなんて思ってもみなかった。

「……早く、帰って来て」

「わかってる。まどかさん、落ち着いて気を付けて来てよ」

「うん……。あまねくんの声聞いたら、ちょっとだけ安心した」

「そっか。とりあえず、今日は俺んち泊まればいいから家で話そう」

「うん」

 彼との電話を切り、深呼吸をする。バクバクとうるさい心臓が少しだけスピードを緩めた気がした。
 もう1度ハンドルを握る手に力を込めて、車を発進させた。
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