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再会
【6】
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彼に言われた通り、彼の家に先に上がらせてもらった。内側から鍵をかければようやく安心感が訪れた。
怖かった……。
何でこんなに早く出てくることができたのだろうか。私の中では、もう暫く刑務所の中にいると思っていたし、出てきたところで負債額が多過ぎてとても払えず路頭に迷うことになると想像していた。
それなのに彼は、余裕の笑みを浮かべ、羽振りがいいとも言っていた。
起業したというのは本当だろうか。1ヶ月前に出所していたとしたら、ありえない話ではない。税理士としては恐らくもう働けないだろうし、脱税して騒がれた人間をこんなに早くどこかの企業が雇うとも思えない。
それよりもなぜ、私の前に現れたかだ。私は、事件が起こる前に彼と別れていたし、彼の中ではあまねくんに振られた可哀想な女のままだ。
今更USBの存在など気にしているわけがないし、それならあまねくんの方にいくだろう。
何で私……。
今になって私の前に現れた意味も、理由もわからないまま。ただ、あの狂気に満ちた視線は忘れられない。何かされるんじゃないか。そんな恐怖を感じた。
彼は、本当に私の連絡先は知らないようで、スマホが鳴ることはなかった。ただ、あまねくんから家に着いたかどうかの確認は入っていた。
そんなあまねくんもすぐに帰ると言ったわりに中々帰ってはこなかった。鍵をかけて待っててとラインがきたきりだ。
あまねくんが朝までいたはずの空間で彼の帰りを待つ。普段なら彼の匂いに包まれて、とても贅沢な時間を過ごしていると実感できるのに、本人がいないその空間はただただ心細いだけだった。
暫くして、ようやく玄関で音がする。彼が帰って来たと急いで駆け付ければ、愛しい人の姿。
「無事でよかった。待ち伏せされてたって聞いたから心配だったんだ。大丈夫?」
「うん。とりあえずは何もされてない。……遅かったね」
「うん。遅くなってごめんね。早く帰りたかったんだけど、あの人のことも気になってさ。結城さんにはこの家教えてないからまず大丈夫かなって思って、あの人のことがわかりそうな友達に手当たり次第聞いてみた」
「……何かわかったの?」
「うん。出てきたのは先月みたい」
彼と話をしながらリビングに向かう。どうやら大々的に資産隠しや横領、申告漏れをしていたのは彼の父親と祖父にあたる人達だそうで、雅臣の支払い金額は結城家の財産で十分に支払える程度だったそうだ。
保釈金も支払って出所し、今では綺麗に未納分もないとのこと。彼の母親ももともとはいい家柄の娘だったようで、自分の子供だけは守ったそうだ。
起業の話もどうやら本当らしい。会社の素性は明らかではないが、差し押さえられていた車もマンションも戻り、以前のような暮らしをしているとのことだった。
怖かった……。
何でこんなに早く出てくることができたのだろうか。私の中では、もう暫く刑務所の中にいると思っていたし、出てきたところで負債額が多過ぎてとても払えず路頭に迷うことになると想像していた。
それなのに彼は、余裕の笑みを浮かべ、羽振りがいいとも言っていた。
起業したというのは本当だろうか。1ヶ月前に出所していたとしたら、ありえない話ではない。税理士としては恐らくもう働けないだろうし、脱税して騒がれた人間をこんなに早くどこかの企業が雇うとも思えない。
それよりもなぜ、私の前に現れたかだ。私は、事件が起こる前に彼と別れていたし、彼の中ではあまねくんに振られた可哀想な女のままだ。
今更USBの存在など気にしているわけがないし、それならあまねくんの方にいくだろう。
何で私……。
今になって私の前に現れた意味も、理由もわからないまま。ただ、あの狂気に満ちた視線は忘れられない。何かされるんじゃないか。そんな恐怖を感じた。
彼は、本当に私の連絡先は知らないようで、スマホが鳴ることはなかった。ただ、あまねくんから家に着いたかどうかの確認は入っていた。
そんなあまねくんもすぐに帰ると言ったわりに中々帰ってはこなかった。鍵をかけて待っててとラインがきたきりだ。
あまねくんが朝までいたはずの空間で彼の帰りを待つ。普段なら彼の匂いに包まれて、とても贅沢な時間を過ごしていると実感できるのに、本人がいないその空間はただただ心細いだけだった。
暫くして、ようやく玄関で音がする。彼が帰って来たと急いで駆け付ければ、愛しい人の姿。
「無事でよかった。待ち伏せされてたって聞いたから心配だったんだ。大丈夫?」
「うん。とりあえずは何もされてない。……遅かったね」
「うん。遅くなってごめんね。早く帰りたかったんだけど、あの人のことも気になってさ。結城さんにはこの家教えてないからまず大丈夫かなって思って、あの人のことがわかりそうな友達に手当たり次第聞いてみた」
「……何かわかったの?」
「うん。出てきたのは先月みたい」
彼と話をしながらリビングに向かう。どうやら大々的に資産隠しや横領、申告漏れをしていたのは彼の父親と祖父にあたる人達だそうで、雅臣の支払い金額は結城家の財産で十分に支払える程度だったそうだ。
保釈金も支払って出所し、今では綺麗に未納分もないとのこと。彼の母親ももともとはいい家柄の娘だったようで、自分の子供だけは守ったそうだ。
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