【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

文字の大きさ
132 / 289
再会

【32】

しおりを挟む
「あの……もちろん、自分のことも心配なんですけど……あまねくんは大丈夫なんでしょうか?」

 両手を組んでぎゅっと握る。私の父が言ったように、あまねくんの職場は知られてしまっている。引っ越した私のアパートを見て、私に近付けなくなったら、あまねくんの方に行くかもしれない。

「それも十分可能性があります。周が職場で待ち伏せされたり、嫌がらせを受けるようなこともあるかもしれません」

「……じゃあ、どうしたら……」

「残念ながら、そこに予防策はありません。周は現段階で実際に被害にあったわけではないですし」

「そんな……」

「周、笠原さんにはあらかじめ言っておきなさい。もしかしたら前回みたいに事務所に直接電話をかけてくることもあるかもしれない」

 父親があまねくんの方を向き、そう言うと、あまねくんは静かに頷いて「わかった」と一言答えた。

 前回の脱税の時だって、発端はあまねくんの事務所から顧客が盗られて、俺に協力しろと電話がかかってきたのだった。
 
 実際に会ったことはないのだけれど、笠原さんとはあまねくんが勤める税理士事務所の経営者兼税理士だ。
 あまねくんの父親の事務所も、笠原さんが担当しており、毎年の確定申告もお願いしているとのことだった。
 そのため、父親の収益は笠原さんには筒抜けだが、そこは個人情報だと言って息子のあまねくんにも教えてもらえなかったと肩をすくめていた。 

 そんな笠原さんは、前回の事件の時にも協力して下さり、職員の団結力もあって雅臣を捕まえることに成功した。もちろん、国税庁が動き、証拠を押さえられたからこそではあるのだが。

「でも、私の時みたいに待ち伏せさせて、襲われでもしたら大変です……」

 私が自宅で捕まり、組敷かれたように、急に襲われでもしたら怪我をするかもしれない。

「そこは大丈夫じゃないかな」

 発言権を父親に委ねていた律くんは、ふっと微笑んでそう言った。

「え?」

「周、強いよ。素人相手ならまず周に怪我させるとか無理ですから」

 律くんは、おかしそうにふふっと笑う。

「そうなの? だから、家でも?」

 そういえば、アパートで雅臣が伸びていた。何の音もせず、数十秒で。あまねくんは何者なんだろうか。

「そんな顔しないでよ、まどかさん。別に特別なことしてないよ。学生時代に合気道をやってたんだ」

「合気道? ……聞いたことはあるけど……」
 
 空手や柔道と違ってあまり想像ができなかった。本当に言葉を聞いたことがあるくらい。

「簡単に入れば護身術かな。投げ技が多いから、殴ったり蹴ったりはしない。相手に怪我をさせないのが合気道。って言っても、未熟だと大怪我させるし、自分もするけどね」

 あまねくんは、困ったように眉を下げて笑う。笑顔が天使のようなあまねくんが、そんな物騒な技をいくつも持っているだなんて考えられなかった。

「昔は、身代金目的で変な大人が近付いてきたりしたんです。だから、幼い頃から武道を習わされてきました」

「じゃあ……律くんと奏ちゃんも?」

「俺は、極真空手。奏も合気道。最初に始めたのは俺だったんですけど、周も奏も殴るのは嫌って言って合気道に。奏はもともとモデルを目指していたから見えるところに傷が残るのも嫌だって言ってましたしね」

 妙に納得してしまった。性格の差が出ているような気がした。律くんだって普通にしている分には、空手をやっているようには見えないのに。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

処理中です...