131 / 289
再会
【31】
しおりを挟む
守屋家の中に入ると、珍しく父親の方が先にいて、律くんはまだいなかった。
ダリアさんとおばあちゃんには先週お茶会に呼んでいただいて会ったばかりだったが、律くんと父親とは、先月会ったきりだった。
律くんの頬を叩いてしまった日以来ということだ。叩いた張本人が、今度は昔の男に叩かれてやってくるのだから、おかしな話だ。
若干の気まずさを感じながら、父親に挨拶すれば「まだ顔が腫れてますね。……可哀想に。女性の顔を殴るなんて、許せないですね」そう言って顔をしかめた。
昨日帰宅してから、冷却ジェルシートを頬に貼って寝たものだから、熱感はだいぶ治まり、腫れも小さくなった。予防的に口腔内に口内炎用の軟膏を塗布したことが功を奏したのか、粘膜は細胞で保護されており、普通に飲食する分にはしみなくなっていた。
早期対応って素晴らしい。
とはいえ、切れてしまった口角は治りが悪く、忘れて欠伸をすれば激痛が走るし、大口を開けて食事することはできない。
不便になったものだ。加齢のせいで代謝が悪くなり、傷の治りも遅い。肌の修復にも時間がかかるし、痕が残らなければいいのだけれど……。
夕食を食べる時間がなかったため、ダリアさんが是非食べて言ってと勧めてくれた。顔を殴られていると知っていたからか、暖かい天ぷら蕎麦だった。蕎麦なら少しずつすすって食べられる。ありがたい。
天ぷらも大きな海老がどーんと乗っているわけではなく、一口サイズの海老の天ぷらがちりばめられていた。
これは嬉しい。大きな海老にかぶりつくだなんて、この口角では絶対に不可能だ。
何気ない配慮がとても嬉しかった。その反面、私の都合で今日の晩御飯が決まってしまったようで、少し申し訳ない気持ちになる。
食事が済んだ頃に、律くんが帰宅した。
「顔、大丈夫なんですか?」
私と視線を合わせた第一声がそれだった。
「う、うん。冷やしたら少し腫れも治まった」
「そうですか」
私が彼の頬を叩いたことなどまるで気にしていないような素振りで、「とりあえず着替えてきていいですか」と言った。
律くんが着替えてくるのを待ってから、私達は、リビングで話をすることになった。
先に食事をと律くんに促したのだけれど、断られてしまった。
私とあまねくんは、私の実家でしたように交互に経緯を説明した。
「おそらく向こうは弁護士をつけてくると思うので、まどかさんもつけた方がいいでしょう。相手に懲役を言い渡すには、裁判での証言は必要不可欠になります。ただ、先程世間に知られて記者が駆けつけたら困るというところに関しては、実名を出さず、つい立てを用意し、容姿がわからないようにすることは可能です」
「そうなんですか?」
「被害者であれば、特に尊厳は守られます。弁護士側が徹底的に配慮すれば、まず表にでることはないでしょう」
あまねくんの父親は、そう言って少し微笑んでくれた。
「脱税の前科と、今回の罪とで関連性がないので、更に罪が重くなることはないかと思いますが、ストーカーによる住居侵入や傷害、強姦未遂などがありますから、罰金刑で収まることはないでしょう」
「じゃあ……懲役はつくってことですか?」
「ええ。ただ、何年つくかは裁判官次第なので何とも言えませんね。それに、実刑判決が下されるまでの間、一旦釈放となる可能性も高いです。まどかさんに近付かないよう規制はかかるでしょうが、その間に近付かれる危険は大いにあります。引っ越しは必須ですね」
雅臣が一旦釈放される。そう思うと、鳥肌が立った。あまねくんと繋がっていると知られてしまったし、もしかしたら私だけでなく、あまねくんにも危険が及ぶかもしれない。
ダリアさんとおばあちゃんには先週お茶会に呼んでいただいて会ったばかりだったが、律くんと父親とは、先月会ったきりだった。
律くんの頬を叩いてしまった日以来ということだ。叩いた張本人が、今度は昔の男に叩かれてやってくるのだから、おかしな話だ。
若干の気まずさを感じながら、父親に挨拶すれば「まだ顔が腫れてますね。……可哀想に。女性の顔を殴るなんて、許せないですね」そう言って顔をしかめた。
昨日帰宅してから、冷却ジェルシートを頬に貼って寝たものだから、熱感はだいぶ治まり、腫れも小さくなった。予防的に口腔内に口内炎用の軟膏を塗布したことが功を奏したのか、粘膜は細胞で保護されており、普通に飲食する分にはしみなくなっていた。
早期対応って素晴らしい。
とはいえ、切れてしまった口角は治りが悪く、忘れて欠伸をすれば激痛が走るし、大口を開けて食事することはできない。
不便になったものだ。加齢のせいで代謝が悪くなり、傷の治りも遅い。肌の修復にも時間がかかるし、痕が残らなければいいのだけれど……。
夕食を食べる時間がなかったため、ダリアさんが是非食べて言ってと勧めてくれた。顔を殴られていると知っていたからか、暖かい天ぷら蕎麦だった。蕎麦なら少しずつすすって食べられる。ありがたい。
天ぷらも大きな海老がどーんと乗っているわけではなく、一口サイズの海老の天ぷらがちりばめられていた。
これは嬉しい。大きな海老にかぶりつくだなんて、この口角では絶対に不可能だ。
何気ない配慮がとても嬉しかった。その反面、私の都合で今日の晩御飯が決まってしまったようで、少し申し訳ない気持ちになる。
食事が済んだ頃に、律くんが帰宅した。
「顔、大丈夫なんですか?」
私と視線を合わせた第一声がそれだった。
「う、うん。冷やしたら少し腫れも治まった」
「そうですか」
私が彼の頬を叩いたことなどまるで気にしていないような素振りで、「とりあえず着替えてきていいですか」と言った。
律くんが着替えてくるのを待ってから、私達は、リビングで話をすることになった。
先に食事をと律くんに促したのだけれど、断られてしまった。
私とあまねくんは、私の実家でしたように交互に経緯を説明した。
「おそらく向こうは弁護士をつけてくると思うので、まどかさんもつけた方がいいでしょう。相手に懲役を言い渡すには、裁判での証言は必要不可欠になります。ただ、先程世間に知られて記者が駆けつけたら困るというところに関しては、実名を出さず、つい立てを用意し、容姿がわからないようにすることは可能です」
「そうなんですか?」
「被害者であれば、特に尊厳は守られます。弁護士側が徹底的に配慮すれば、まず表にでることはないでしょう」
あまねくんの父親は、そう言って少し微笑んでくれた。
「脱税の前科と、今回の罪とで関連性がないので、更に罪が重くなることはないかと思いますが、ストーカーによる住居侵入や傷害、強姦未遂などがありますから、罰金刑で収まることはないでしょう」
「じゃあ……懲役はつくってことですか?」
「ええ。ただ、何年つくかは裁判官次第なので何とも言えませんね。それに、実刑判決が下されるまでの間、一旦釈放となる可能性も高いです。まどかさんに近付かないよう規制はかかるでしょうが、その間に近付かれる危険は大いにあります。引っ越しは必須ですね」
雅臣が一旦釈放される。そう思うと、鳥肌が立った。あまねくんと繋がっていると知られてしまったし、もしかしたら私だけでなく、あまねくんにも危険が及ぶかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる