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再会
【36】
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「あまねくんも気を付けてね。また事務所に嫌がらせされるかもしれないし」
「うん、そうだね。あり得ると思う」
「……どうかした?」
最初は、私が不用心に施錠を怠ったことに、まだ少し怒っているのかもしれないと思った。けれど、彼はそういったことをいつまでも引きずるタイプではないだろう。ともすれば、彼の表情は何か考え事でもしているかのようだった。
「うん……何か、気になるんだよね」
「何が?」
「んー? 経営してる会社」
「臣くんの?」
「そう。たった1ヶ月で経営始めてそんなに早く軌道に乗るなんてあるかな」
彼は、雅臣に違和感を覚えたようだ。私だって、もう仕事を始めただなんて嘘なんじゃないかと思った。だけど、あまねくんの友達に調べてもらったら、その会社は実在すると教えてもらったのだ。
「でも、本人も余裕そうだったよね?」
「うん。それも引っ掛かるんだよなぁ……」
「税理士として働くのは難しいんだよね?」
「うん。無理だと思うよ。専門職だからさ。本来なら資格を剥奪されてもおかしくない。でも、ほとんど罪は父親が被ったし、本人は罰金刑で済みそうだって話だし……。うまいこといかないね」
「そっか……税理士が脱税しても、そんなもんなんだ」
「多分、父親の方は懲役になると思うよ。裁判も全然すすんでないって聞いたし。だから、税理士に戻るのは無理でしょ。それにしたってそんなに簡単に経営上手くいくかな? そっちの方が怪しい気がするんだよね」
彼は、顔をしかめている。前回の脱税もそうだったけれど、こういう時のあまねくんの勘はよく当たる。
「じゃあ……調べる?」
「うん。何か別の犯罪が見つかれば、そっちで起訴できるかもしれないし」
「でも……そんなにいくつも犯罪起こすかな?」
「あの人、頭はいいからね。脱税だって罰金刑で済むってことは、何か手を打ってたんだと思う。法律にひっかからないギリギリのところで何かしてる気がするんだよね」
「真面目に仕事してれば、いい大学出てるし、税理士だし、実家は資産家だしエリートだったのにね」
「自分で壊してどうするんだか」
「もったいないね」
「うん。税理士としては有能な人だったのに。人格って怖いね。あんなに恵まれてる家庭があっても欲ってなくならないのかな」
「……あまねくんだってサラブレッドじゃん」
弁護士とモデルの子供で、兄は弁護士、妹はモデル。自分は税理士なのだから。
「俺? 俺は違うよ。律はそうかもしれないけど。父さんだって、本当は俺のこと弁護士にしたかったんだよきっと。でも……俺はなれなかったから」
皮肉のつもりで言っただけだったが、あまねくんは愁いを帯びた顔で真っ直ぐ前を向きながら、そう言った。
父親と律くんの思いを知っている私は、そんなことないと思うものの、本人がとても気にしていることは否めない。
「気にすることないよ。うちなんて、全員教員免許持ってるんだよ? 私だけ違う仕事に就いちゃったし」
「そっか……。そう言えばそうだね」
「ね? でも、私は後悔してないよ。もしかしたら頑張って教員免許とれたかもしれないけど、きっと楽しいって思えなかったもん。でも、今の仕事は大変だけど楽しいこともやりがいもあるよ」
「まどかさんは、自分のやりたい仕事に就けたんだもんね」
あまねくんは、柔らかく笑ってこちらを向く。よく表情が変わる人だと思う。だから彼の表情で余計に一喜一憂する。この笑顔が好きだから、彼との何気ないやり取りも幸せに感じる。
「うん、そうだね。あり得ると思う」
「……どうかした?」
最初は、私が不用心に施錠を怠ったことに、まだ少し怒っているのかもしれないと思った。けれど、彼はそういったことをいつまでも引きずるタイプではないだろう。ともすれば、彼の表情は何か考え事でもしているかのようだった。
「うん……何か、気になるんだよね」
「何が?」
「んー? 経営してる会社」
「臣くんの?」
「そう。たった1ヶ月で経営始めてそんなに早く軌道に乗るなんてあるかな」
彼は、雅臣に違和感を覚えたようだ。私だって、もう仕事を始めただなんて嘘なんじゃないかと思った。だけど、あまねくんの友達に調べてもらったら、その会社は実在すると教えてもらったのだ。
「でも、本人も余裕そうだったよね?」
「うん。それも引っ掛かるんだよなぁ……」
「税理士として働くのは難しいんだよね?」
「うん。無理だと思うよ。専門職だからさ。本来なら資格を剥奪されてもおかしくない。でも、ほとんど罪は父親が被ったし、本人は罰金刑で済みそうだって話だし……。うまいこといかないね」
「そっか……税理士が脱税しても、そんなもんなんだ」
「多分、父親の方は懲役になると思うよ。裁判も全然すすんでないって聞いたし。だから、税理士に戻るのは無理でしょ。それにしたってそんなに簡単に経営上手くいくかな? そっちの方が怪しい気がするんだよね」
彼は、顔をしかめている。前回の脱税もそうだったけれど、こういう時のあまねくんの勘はよく当たる。
「じゃあ……調べる?」
「うん。何か別の犯罪が見つかれば、そっちで起訴できるかもしれないし」
「でも……そんなにいくつも犯罪起こすかな?」
「あの人、頭はいいからね。脱税だって罰金刑で済むってことは、何か手を打ってたんだと思う。法律にひっかからないギリギリのところで何かしてる気がするんだよね」
「真面目に仕事してれば、いい大学出てるし、税理士だし、実家は資産家だしエリートだったのにね」
「自分で壊してどうするんだか」
「もったいないね」
「うん。税理士としては有能な人だったのに。人格って怖いね。あんなに恵まれてる家庭があっても欲ってなくならないのかな」
「……あまねくんだってサラブレッドじゃん」
弁護士とモデルの子供で、兄は弁護士、妹はモデル。自分は税理士なのだから。
「俺? 俺は違うよ。律はそうかもしれないけど。父さんだって、本当は俺のこと弁護士にしたかったんだよきっと。でも……俺はなれなかったから」
皮肉のつもりで言っただけだったが、あまねくんは愁いを帯びた顔で真っ直ぐ前を向きながら、そう言った。
父親と律くんの思いを知っている私は、そんなことないと思うものの、本人がとても気にしていることは否めない。
「気にすることないよ。うちなんて、全員教員免許持ってるんだよ? 私だけ違う仕事に就いちゃったし」
「そっか……。そう言えばそうだね」
「ね? でも、私は後悔してないよ。もしかしたら頑張って教員免許とれたかもしれないけど、きっと楽しいって思えなかったもん。でも、今の仕事は大変だけど楽しいこともやりがいもあるよ」
「まどかさんは、自分のやりたい仕事に就けたんだもんね」
あまねくんは、柔らかく笑ってこちらを向く。よく表情が変わる人だと思う。だから彼の表情で余計に一喜一憂する。この笑顔が好きだから、彼との何気ないやり取りも幸せに感じる。
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