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再会
【58】
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「私はそろそろ帰りますので大丈夫です」
父親の方を向き、そう伝えるとキッチンから「え? まどかちゃんご飯食べていかないの?」とダリアさんの声がする。
「いつもいつもご馳走になってしまって申し訳ないので。今日は帰ります」
「えー……。遠慮しないで食べていってくれればいいのに」
パタパタとスリッパの音を立ててこちらに向かってくるダリアさん。
あまねくんは、ソファーから立ち上がって私の隣に並び「こんな変な事件に巻き込まれちゃって、まどかさんのご両親も心配してるんだよ。あんまり引き留めるのも悪いから、送ってくよ」と私の代わりにダリアさんに答える。
「そう? まあ、こんなことになって、親御さんは心配よね……。おばあちゃんもさっきから欠伸ばっかりしているし、早く寝かせてあげたいしね。でも、落ち着いたらまたお茶しましょ」
「はい、是非!」
またお茶会に誘って貰えたことが嬉しくて、笑顔が込み上げる。今度はどんなお茶が出てくるのかと今から楽しみだ。
車の鍵を持ったあまねくんから、チャラと音がする。私もバッグを持ち、彼の家族に再度挨拶をしようと振り返る。
「おばあちゃん!?」
急に奏ちゃんが大声を出すものだから、驚いてダイニングテーブルの方へと視線を移した。
先程まで笑顔で話していたおばあちゃんは、首を横に倒して体は脱力しているように見えた。
ただならぬ気配に、急いで駆け寄る。目は半開きで、両手はだらんと下に垂れ下がっている。
「おばあちゃん! おばあちゃん!」
奏ちゃんが、おばあちゃんの両肩をもってゆさゆさと揺さぶるが、反応がない。
奏ちゃん越しに見ても意識がないのがわかった。
何で……。今の今まで元気だったのに。
「おい! どうなってるんだ! ダリア、すぐに救急車を!」
いつも冷静な父親も、取り乱したかのようにダリアさんに救急車の依頼をする。
「奏、退いて! おばあちゃん!?」
律くんは、奏ちゃんの手を引いておばあちゃんとの間に入り込む。普段からよく身の回りの世話をしてくれている律くんが、1番心配する気持ちはよくわかる。
律くんが、同じように呼び掛けるが、やはり反応がない。
「ちょっと律くん、見せて」
律くんさえも冷静さを失っているようで、必死に声をかけている。律くんに声をかけて場所を変わってもらう。
おばあちゃんの手首を持ち、橈骨に触る。脈は触れる。ただ、じっとりと汗をかいている。額にも大量の汗。そして意識消失。
この症状は見たことがあった。
「ダリアちゃんがね、先にどうぞって言ってくれたんだけど、1人でご飯は寂しいからって私が断ったんだよ」
おばあちゃんがさっき言っていた言葉。ダリアさんも欠伸ばかりしていたと言っていた。
「あなた! 救急車、すぐに来てくれるって!」
ダリアさんの叫ぶ声が聞こえる。
「おばあちゃん!」
「おばあちゃん!」
色んな声が聞こえる。こんな時だからこそ、家族の絆をみられた気がした。
現在の時刻は20時23分。普段なら、おばあちゃんはとっくに食事を終えて、これから眠る時間帯だ。
おばあちゃんは、持病に糖尿病がある。恐らく低血糖。
「奏ちゃん! おばあちゃんの巾着の中にブドウ糖あるでしょ?」
「ブドウ糖!? どれ!?」
「奏、貸して。俺が見る」
律くんが奏ちゃんから巾着を奪い取り、中からブドウ糖の入った袋を取り出した。粒になっているブドウ糖を1粒受け取り、おばあちゃんの口の端から左人差し指を突っ込んで、こじ開けた。
ブドウ糖を口の中に押し込み、間違って飲み込んでしまわないよう、指の腹で舌に押し付ける。
「……低血糖?」
律くんは私の隣に屈み、眉を下げてこちらを見る。
「多分。それなら、これで意識が戻るはず」
家族が見守る中、糖分が吸収されていくのを待つ。舌が乾燥しているのか、時間がかかる。私は、奏ちゃんが慌てて手を離し、床に転がっていた水を手にとる。
キャップを開けて、手のひらに少しだけ出した。1度ブドウ糖を口内から取り出し、軽く水に浸してから、もう1度元に戻す。舌に擦り付けるように上下に動かした。
暫くすると、おばあちゃんが何度か瞬きをし、私と視線がぶつかる。
ブドウ糖ごと指を引き抜き、「おばあちゃん、わかりますか?」と声をかける。
「……まどかちゃんかね? あれ? 私はどうしちゃったのかしら」
おばあちゃんは、不思議そうに家族全員の顔をぐるっと見渡した。
意識が戻った。よかった。
家族の皆も安堵したのか、息をつく音が聞こえた。
父親の方を向き、そう伝えるとキッチンから「え? まどかちゃんご飯食べていかないの?」とダリアさんの声がする。
「いつもいつもご馳走になってしまって申し訳ないので。今日は帰ります」
「えー……。遠慮しないで食べていってくれればいいのに」
パタパタとスリッパの音を立ててこちらに向かってくるダリアさん。
あまねくんは、ソファーから立ち上がって私の隣に並び「こんな変な事件に巻き込まれちゃって、まどかさんのご両親も心配してるんだよ。あんまり引き留めるのも悪いから、送ってくよ」と私の代わりにダリアさんに答える。
「そう? まあ、こんなことになって、親御さんは心配よね……。おばあちゃんもさっきから欠伸ばっかりしているし、早く寝かせてあげたいしね。でも、落ち着いたらまたお茶しましょ」
「はい、是非!」
またお茶会に誘って貰えたことが嬉しくて、笑顔が込み上げる。今度はどんなお茶が出てくるのかと今から楽しみだ。
車の鍵を持ったあまねくんから、チャラと音がする。私もバッグを持ち、彼の家族に再度挨拶をしようと振り返る。
「おばあちゃん!?」
急に奏ちゃんが大声を出すものだから、驚いてダイニングテーブルの方へと視線を移した。
先程まで笑顔で話していたおばあちゃんは、首を横に倒して体は脱力しているように見えた。
ただならぬ気配に、急いで駆け寄る。目は半開きで、両手はだらんと下に垂れ下がっている。
「おばあちゃん! おばあちゃん!」
奏ちゃんが、おばあちゃんの両肩をもってゆさゆさと揺さぶるが、反応がない。
奏ちゃん越しに見ても意識がないのがわかった。
何で……。今の今まで元気だったのに。
「おい! どうなってるんだ! ダリア、すぐに救急車を!」
いつも冷静な父親も、取り乱したかのようにダリアさんに救急車の依頼をする。
「奏、退いて! おばあちゃん!?」
律くんは、奏ちゃんの手を引いておばあちゃんとの間に入り込む。普段からよく身の回りの世話をしてくれている律くんが、1番心配する気持ちはよくわかる。
律くんが、同じように呼び掛けるが、やはり反応がない。
「ちょっと律くん、見せて」
律くんさえも冷静さを失っているようで、必死に声をかけている。律くんに声をかけて場所を変わってもらう。
おばあちゃんの手首を持ち、橈骨に触る。脈は触れる。ただ、じっとりと汗をかいている。額にも大量の汗。そして意識消失。
この症状は見たことがあった。
「ダリアちゃんがね、先にどうぞって言ってくれたんだけど、1人でご飯は寂しいからって私が断ったんだよ」
おばあちゃんがさっき言っていた言葉。ダリアさんも欠伸ばかりしていたと言っていた。
「あなた! 救急車、すぐに来てくれるって!」
ダリアさんの叫ぶ声が聞こえる。
「おばあちゃん!」
「おばあちゃん!」
色んな声が聞こえる。こんな時だからこそ、家族の絆をみられた気がした。
現在の時刻は20時23分。普段なら、おばあちゃんはとっくに食事を終えて、これから眠る時間帯だ。
おばあちゃんは、持病に糖尿病がある。恐らく低血糖。
「奏ちゃん! おばあちゃんの巾着の中にブドウ糖あるでしょ?」
「ブドウ糖!? どれ!?」
「奏、貸して。俺が見る」
律くんが奏ちゃんから巾着を奪い取り、中からブドウ糖の入った袋を取り出した。粒になっているブドウ糖を1粒受け取り、おばあちゃんの口の端から左人差し指を突っ込んで、こじ開けた。
ブドウ糖を口の中に押し込み、間違って飲み込んでしまわないよう、指の腹で舌に押し付ける。
「……低血糖?」
律くんは私の隣に屈み、眉を下げてこちらを見る。
「多分。それなら、これで意識が戻るはず」
家族が見守る中、糖分が吸収されていくのを待つ。舌が乾燥しているのか、時間がかかる。私は、奏ちゃんが慌てて手を離し、床に転がっていた水を手にとる。
キャップを開けて、手のひらに少しだけ出した。1度ブドウ糖を口内から取り出し、軽く水に浸してから、もう1度元に戻す。舌に擦り付けるように上下に動かした。
暫くすると、おばあちゃんが何度か瞬きをし、私と視線がぶつかる。
ブドウ糖ごと指を引き抜き、「おばあちゃん、わかりますか?」と声をかける。
「……まどかちゃんかね? あれ? 私はどうしちゃったのかしら」
おばあちゃんは、不思議そうに家族全員の顔をぐるっと見渡した。
意識が戻った。よかった。
家族の皆も安堵したのか、息をつく音が聞こえた。
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