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再会
【57】
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最初は婚約の報告に訪れた守屋家。広い敷地に大きな家、立派な門構え。何度この家を訪れたものか。
ダリアさんとおばあちゃんとの穏やかなお茶会をした場所でもあるというのに、今では物騒な話しかしていない。
雅臣は早ければあと3日で出てくるとのことだった。検察官とのやりとりは未だに続いており、あまねくんの父親が何かと動いてくれている。
私の車は、ナンバーが見えないように家の駐車場の奥に停めてあるし、念のためシートをかけてある。
ただ、厄介なのは苗字。ここらでは珍しい一という苗字は知られれば私の家しかない。終わりだ。表札を隠すのは不自然であり、近所の人に変な噂でも立てられたら余計に気付かれやすい。
あまねくんの父親からのアドバイスとしては、とにかく周りには自然に振る舞うこと。そして、SNSの類いには触れないこと。友達との写真の掲載も控えてもらうこと。
今の時代どこから情報が漏れるかわからない。便利な世の中になったが、犯罪者にとっても便利になってしまった。
ひっそりとした生活を余儀なくされることにまた不安を覚える。
一頻り話が終わると、弁護士の顔から一変して、彼氏の父親の顔に戻る。
緊張感が解かれて、彼も少しでも穏やかな時間をと気遣ってくれているようだった。
久しぶりにおばあちゃんとも会えて、少し会話をした。
「まどかちゃんは、最近遅い時間にしか来てくれないけど、忙しいの?」
「少しだけ。私のこと、覚えていてくれたんですか?」
「忘れないよ。いい子だからね」
にっこりと笑ってくれて心が暖まる。前回来た時には、おばあちゃんは寝てしまっていてろくに話もできなかったから。今日会えてよかった。
「ご飯まだなんですよね? すみません、私のせいで遅くなっちゃって」
「まどかちゃんのせいじゃないよ。ダリアちゃんがね、先にどうぞって言ってくれたんだけど、1人でご飯は寂しいからって私が断ったんだよ」
お茶を口に運びながらおばあちゃんは言う。こんな広いお家で1人でご飯はたしかに寂しいか。
さすがに毎回お邪魔する度に夕食をご馳走になるのも気が引けて、そろそろおいとましようかと話を切り上げようとする。
「……え、いたんだ」
そんな中、記憶の中では嫌なものに分類される声が聞こえて、声の主に目がいく。
でたな、守屋奏。
いつの間にかリビングに入ってきている彼女。自室に籠っていたのか、部屋着姿に大きなお団子ヘアーで登場した。どんな格好をしていても可愛いのが癪に障る。
「こんばんわ。奏ちゃん」
「何か面倒なことに巻き込まれてるんでしょ? あなたのせいでうちの家族は大忙しよ。……疫病神なの?」
気怠そうに私と視線を合わせず、一直線に冷蔵庫に向かいながら口だけはそんな言葉を放つ。
「奏、なんてことを言うんだ。毎回、毎回。いい加減つっかかるのはやめなさい」
呆れた様子の父親は、静かにそう言う。もう、彼女の愛想のなさにも、不謹慎さにも慣れ始めている。
悪態ついているくらいが彼女らしいのかもしれない。
「弁護引き受けるって言い出したのはこっちだし、周も今回のことに関わってるんだから、一概に彼女の持ち込んだ面倒事ともいえないからね」
途中から私と父親との話に加わってくれた律くんも、腕を組ながら視線だけを奏ちゃんに向けて言う。
彼女は、冷蔵庫からペットボトルに入った水を取り出し、無言のまま1口、2口と飲み込んだ。
無視ですか。都合の悪いことは聞こえないふりするんだから。そもそも、東京在住の彼女がどうしているのだ。
面倒事に巻き込まれていると知っているなら、ここのところ頻繁に守屋家に訪れていることも知っているだろうに。
私に会いたくないのなら、彼女だって確認してから実家に帰ってくればいい。彼女の態度を見ていたら、そう思わずにいられなかった。
ダリアさんとおばあちゃんとの穏やかなお茶会をした場所でもあるというのに、今では物騒な話しかしていない。
雅臣は早ければあと3日で出てくるとのことだった。検察官とのやりとりは未だに続いており、あまねくんの父親が何かと動いてくれている。
私の車は、ナンバーが見えないように家の駐車場の奥に停めてあるし、念のためシートをかけてある。
ただ、厄介なのは苗字。ここらでは珍しい一という苗字は知られれば私の家しかない。終わりだ。表札を隠すのは不自然であり、近所の人に変な噂でも立てられたら余計に気付かれやすい。
あまねくんの父親からのアドバイスとしては、とにかく周りには自然に振る舞うこと。そして、SNSの類いには触れないこと。友達との写真の掲載も控えてもらうこと。
今の時代どこから情報が漏れるかわからない。便利な世の中になったが、犯罪者にとっても便利になってしまった。
ひっそりとした生活を余儀なくされることにまた不安を覚える。
一頻り話が終わると、弁護士の顔から一変して、彼氏の父親の顔に戻る。
緊張感が解かれて、彼も少しでも穏やかな時間をと気遣ってくれているようだった。
久しぶりにおばあちゃんとも会えて、少し会話をした。
「まどかちゃんは、最近遅い時間にしか来てくれないけど、忙しいの?」
「少しだけ。私のこと、覚えていてくれたんですか?」
「忘れないよ。いい子だからね」
にっこりと笑ってくれて心が暖まる。前回来た時には、おばあちゃんは寝てしまっていてろくに話もできなかったから。今日会えてよかった。
「ご飯まだなんですよね? すみません、私のせいで遅くなっちゃって」
「まどかちゃんのせいじゃないよ。ダリアちゃんがね、先にどうぞって言ってくれたんだけど、1人でご飯は寂しいからって私が断ったんだよ」
お茶を口に運びながらおばあちゃんは言う。こんな広いお家で1人でご飯はたしかに寂しいか。
さすがに毎回お邪魔する度に夕食をご馳走になるのも気が引けて、そろそろおいとましようかと話を切り上げようとする。
「……え、いたんだ」
そんな中、記憶の中では嫌なものに分類される声が聞こえて、声の主に目がいく。
でたな、守屋奏。
いつの間にかリビングに入ってきている彼女。自室に籠っていたのか、部屋着姿に大きなお団子ヘアーで登場した。どんな格好をしていても可愛いのが癪に障る。
「こんばんわ。奏ちゃん」
「何か面倒なことに巻き込まれてるんでしょ? あなたのせいでうちの家族は大忙しよ。……疫病神なの?」
気怠そうに私と視線を合わせず、一直線に冷蔵庫に向かいながら口だけはそんな言葉を放つ。
「奏、なんてことを言うんだ。毎回、毎回。いい加減つっかかるのはやめなさい」
呆れた様子の父親は、静かにそう言う。もう、彼女の愛想のなさにも、不謹慎さにも慣れ始めている。
悪態ついているくらいが彼女らしいのかもしれない。
「弁護引き受けるって言い出したのはこっちだし、周も今回のことに関わってるんだから、一概に彼女の持ち込んだ面倒事ともいえないからね」
途中から私と父親との話に加わってくれた律くんも、腕を組ながら視線だけを奏ちゃんに向けて言う。
彼女は、冷蔵庫からペットボトルに入った水を取り出し、無言のまま1口、2口と飲み込んだ。
無視ですか。都合の悪いことは聞こえないふりするんだから。そもそも、東京在住の彼女がどうしているのだ。
面倒事に巻き込まれていると知っているなら、ここのところ頻繁に守屋家に訪れていることも知っているだろうに。
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