【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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前進

【5】

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 母の声で起こされて、目が覚めた。

「ご飯、できてるよ」

「……いらない」

 仕事中はあんなに動き回っていたのだ。ここ最近急激に体を動かさなくなったものだから、カロリーが消費されるスピードもめっきり落ちたのだろう。
 朝から何も食べていないのに、空腹感はなかった。

「いらないって……何か食べたの?」

「ううん」

「何か食べないと元気出ないでしょ」

「元気なんていらないよ。することないし」

「そんなこと言ってないで何か口に入れなさい。こんな真っ暗い中でずっと寝てばっかりいて」

 真っ暗い中ったって、勝手に電気を点けて煌々としているじゃないか。眩しさに目を細め、頭から掛け布団を被る。

「寝るくらいしかやることないし」

「食べることも人としてやることでしょ」

「いらないってば。お腹空かない」

「……まったく。いつまでいじけてるの」

「……いじけてないよ」

 毎日人と話す仕事をしていたのに、何日も会話をしないでいると、こんなにも人と話すのが面倒に感じるのか。
 母の言葉が煩わしいと感じるのは、会話をしない生活に慣れ始めているからだろうか。それとも、久しぶりに千尋ちゃんと会話をして満たされたからだろうか。

「しょうがないでしょ。結城くんが外に出てきて危ない状態なんだから。あまねくんに会いに行ってどっかで見られたらどうするの」

「うるさいな……わかってるよ。何も言ってないじゃん」

「何も言ってないって、ご飯も食べずにぐずぐずしてるでしょうが」

「1食くらい食べなくても死なないよ」

「抜いたの1食じゃないでしょ」

「あー、もう。2、3日食べなくても人は死なないから。今までの蓄えもあるから大丈夫。お腹空いたら適当に食べるから」

 布団の中の酸素が薄くなってきて、そろそろ息が苦しくなってきた。早く電気を消して出ていってほしい。

「本当に、もう……。じゃあ、冷蔵庫に入れておくから勝手に食べなさいよ」

「うん」

 母も、あんなに言い訳を一生懸命考えたのに、父の機嫌1つで簡単に覆されたものだから、面白くないのだろう。
 それは私だって同じだ。トイレ以外は1日中このベッドの中にいる。

 あ……そういえば、一昨日も昨日もお風呂に入った記憶がない。
 まあ、いいか……誰にも会わないし。寝汗かいたってたかが知れてるし。

 私は、充電器とスマホを繋いでから、リモコンで電気を消す。今は暗い方が落ち着く。
 とりあえず気がすむまで眠ろうと再び目を閉じた。
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