【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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【10】

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「動けるようになったの?」

「まだ目眩はするけど、さっきほどじゃない……」

「吐き気は?」

「ない」

 目眩も重症になれば、嘔吐する人もいると聞く。幸いなことにそこまで酷い状態ではなさそうだ。

「じゃあ、病院行ってみようか」

「うん……ねぇ、私3日くらいお風呂入ってない」

「そうなの!? きったな……」

 それでも親かと言いたくなる程、汚いものを見るような目をする母。夜勤明けでどんなに疲れていても、シャワーを浴びてから寝ていた私を知っている母からすれば、今の状況に衝撃を覚えるのも頷ける。

「シャワー……」

「浴びれるの?」

「……わかんないけど。でも、頭もぎとぎとだし」

「その表現汚いからやめて」

 どこまでも酷い母親だ。
 熱を測ってみると、37.8℃だった。

「熱もあるし、本当はシャワー浴びない方がいいけどね。まあ、気になるならさっさと浴びてきちゃいなさい。シーツはお母さんが変えておくから」

「うん……」

 倦怠感は依然としてあるものの、今ならシャワーも浴びられそうな気がした。病院に行くくらい、汚くたってかまわないのかもしれない。しかし、いつまでも不潔でいるのも、気が滅入る原因なのかもしれない。

 久しぶりのシャワーは、浴びてしまえば心地良いものだった。目を閉じて頭からお湯をかぶれば、目眩も少し楽になったように感じた。

 支度をしてから病院に行く。かかりつけのクリニックにいったのだけれど、風邪の症状もなく、目眩があること、環境が一気に変わったことで、心因性のものではないかと紹介状を渡された。
 大きい病院に行くようにと、総合病院宛だった。封筒には心療内科と書かれている。

「私、行きたくない」

 母が運転する車の中で、封筒を握りしめてそう言った。

「何行ってるの。原因がわかった方がいいでしょ」

「私、おかしくないもん」

「環境が変わってストレスがかかってるかもしれないでしょ。おかしいから行くわけじゃないの」

「だって、心療内科って……精神科でしょ? きっとご飯食べていなかったからふらふらしただけ。私の頭はおかしくない!」

「わかったから、大きな声出さないでよ。一応頭のCTもとってもらうって言ってたし、脳神経のほうなら、そっちの先生にみてもらってって言われたでしょ」

 そんなこと言ったって……私は、自殺願望もないし、サイコパスな感情もない。それなのに、精神科にかかれなんて酷すぎる。
 ただ少し怠くて、熱があって、目眩がするだけだ。それなのに精神科だなんて……。

 昔、実習で訪れた精神病院の情景が蘇る。患者は皆目が虚ろで、距離感がやたらと近かった。異常な程水をがぶ飲みしていたり、何度も何度も手を洗っては、出血していたり。
 隔離室では、大声とドンッという壁を打つ音。私は、あの人達とは違う。
 そう思いたいけれど、私が今からかかろうとしているのは、そういった類いのところ。
 私は、まだまともだ。

 必死に行きたくないと訴えたが、母は聞き入れてはくれなかった。待合所では、誰かに見られている気がして、髪で顔を隠した。こんなところ、誰にも見られたくない。
 できたら、名前を呼ばないで欲しい。そう思うのに、大きな声で名前を呼ばれて発狂しそうになる。
 もし知り合いにでも見られたら……そう思うと恐ろしくて動悸がした。胸が苦しくなって、その場に踞る。

「ちょ、まどか!?」

 母の声が聞こえるが、呼吸ができなくなり、意識が朦朧とした。目眩が激しくなり、何かを考えることさえ、困難になった。

 気が付くと、ベッドの上に寝かされていた。

「まどか!? 気が付いた?」

 覗き込んだ母が、安堵の表情を見せた。天井の照明が眩しかった。真っ白な綺麗なシーツに覆われたベッド。周りにはいくつも機械があったが、電源は入れられていなかった。

「あ、一さん目が覚めましたか?」

 看護師と思われる40代くらいの女性が、声をかけてきた。黒髪のショートカットが年齢を感じさせるのか、本当の年齢などわからない。あまり化粧気のないのっぺりとした顔で、「先生に声をかけてきますね」と言った。
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