【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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前進

【12】

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「一さん、泣かなくて大丈夫です。お薬は、怖いですかね」

 そう言われ、首を縦に振る。薬に頼ったら、依存してしまうかもしれない。薬漬けになったら、そこから脱しられなくなるかもしれない。
 そうなったら、私もずっと異常者として生きていかなければならない。
 そんなのは嫌だ。

「僕と少しお話をしましょうか。今の不安や嫌なこと、教えて下さい。それで楽になったら、お薬はやめましょう」

「……本当ですか?」

「はい。でも、解熱剤は出します。いいですね」

「……はい」

 単なる解熱剤なら、風邪の時にだって出されるし、別にかまわない。

「お母さんが一緒でも話せますか?」

 そう聞かれて、少し考える。傍にいてもらいたい気持ちと、思うように話せないかもしれないという気持ちが混在する。

「まどか、お母さん外にいるから。先生に話を聞いてもらいなさい」

 母の方からそう提案され、私は古河という医者と2人で話すことになった。診察室のドアは閉められ、2人だけの空間。知らない人間と2人きりだというのに、何故か恐怖はなかった。

「何でも話して下さい。個人情報なので、僕から話が漏れることはありません。今、1番辛いことはなんですか?」

 そう言われて、私は事件のことを話し始めた。ハイジさんにだって言わなかったのに。茉紀には家庭があるし、彼女にも愚痴はあるし、自分の気持ちばかりを優先させて話すことはできなかった。
 あまねくんとは、全ての内容を共感できて、私に寄り添ってくれるけれど、会いたくても会えなくて、私のために一生懸命になってくれているのに、これ以上愚痴を溢すこともできなかった。

 住み慣れたアパートから、実家に帰ったこと。アパートでは、リビングで日向ぼっこするのが好きだったこと。どうしても欲しくて一括で買った車は、ナンバーを知られてしまって、乗れなくなってしまったこと。
 家に閉じ込められて、彼氏とも会えなくなったこと。外に出たら危険が伴うために、気分転換に外出することもできないこと。

 それらを全て吐き出した。彼は、相槌をうちながら、時におうむ返しをしながら、私の話を聞いてくれた。
 「辛かったですね」そう言われると、涙は溢れて止まらなくなった。

 言いたいことを全て曝け出すと、幾分か心が軽くなった気がした。

 結局薬は処方されたが、飲んでも飲まなくてもいいと言われたら、気持ちは楽だった。鎮痛剤と漢方薬。医師は、私が拒否した通り、精神安定剤は出さなかった。
 それだけでもよかったと帰宅してから解熱剤を飲んだ。そして、暫くしてから漢方薬を飲んでみた。
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