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前進
【13】
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母は、医師とどんな話をしたのかを聞かなかった。帰りにケーキ屋さんに寄って、苺のタルトを1つ買ってもらった。
学生の頃、体調不良で学校を休み、受診した時も、こんなふうに何か食べたいものをと寄り道してくれた。
懐かしい思い出が蘇り、少し心が暖まった。
あまねくんと出会ったばかりの頃、彼はケーキが好きで時々仕事帰りにケーキ屋さんに寄ると言っていたのを思い出した。
私が作ったチョコレートケーキも美味しそうに食べてくれた。一緒に作ったチーズケーキは大成功だった。
このケーキも一緒に食べたかったな……。
あまねくん、会いたいよ……。
懐かしい気持ちはいっぱいになったけれど、ケーキの味はよくわからなかった。
朝のながらみの方が美味しく感じるなんて、私の舌もおかしくなってしまったのだろう。
自室に戻り、またぼーっとしているとスマホが鳴った。
びくりと体を震わせて画面を見ると、知らない番号からだった。
鳥肌が全身を駆け抜ける。昨日と同じ番号かもしれない。
雅臣だったらどうしよう……。でも、番号が知れたら役に立つかもしれないし……。
恐怖が募る中、通話ボタンを押した。耐えられなかったら切って着信拒否してしまえばいい。
「もしもし……」
「やっと出た。昨日もかけたんだけど」
ぶっきらぼうな声は、若い女性だった。話し方と声から、思いあたる人物は1人しかいない。
「……奏ちゃん?」
「何で電話でないの?」
「……知らない番号だったから」
前回彼女と電話した時には、アプリを使用していたから端末にかかってきたのはこれが初めてだった。
「サイン乗っ取られてさ、スマホ変えたの」
「え!? 本当にそんなことあるの」
「あったの。あっくんから番号聞いて直接かけた」
「そう……なんだ」
スマホ変えたなら、またサインを登録すればいいと思うのだけれど、すぐにでも電話する程の用があったのだろうか。
「ねぇ、あっくんと会ってないの?」
「え? うん……、あれから会ってない」
「何で? あの結城って人が釈放されたから?」
「うん。いつ実家がバレるかわかんないから、家から出してもらえなくてさ……」
「そう……。あの人から、あっくんの事務所に嫌がらせが始まったみたいなの」
「え!?」
何かしてくるかもしれない。そうは思っていたけれど、あまねくんから直接連絡もきていないし、まさかそんなことになっているだなんて思ってもみなかった。
「事務所にも迷惑かけてるって落ち込んでて……しかも、まどかさんと別れさせられちゃうかもしれないって言ってたから……」
「そっか。父が感情的になって、別れろって言ったの」
迎えにきてくれたことになっていたあまねくんに対し、危険な中私を連れ回しただなんだって言いがかりをつけ、逢いにきてくれたあまねくんを追い返したと後になって聞いた。
「……私が反対したから?」
「え?」
「初めてうちに来た時、私が反対したから結婚できなかったんでしょ? あの時、結婚してたら、こんなふうにバラバラにならなかったじゃん……」
「あー……、それは違うよ」
彼女の言葉にへこんで、現実から目を背けて、あまねくんともすれ違ったけど、それで更に信頼を深めることができたのも事実だし。
「あの時は、うちへの挨拶もまだだったし、全然準備もできてなかったからさ。スムーズに結婚に至ってたとしても、元彼が現れたら結局実家に戻されてただろうし」
「……その結城って人のことで、あっくんちょこちょこ家に帰ってきてるみたいだけど、元気ないってりっちゃんも心配してた。……結婚するって言った時、あんなに嬉しそうだったのに……」
「今はしょうがないよ……。私もずっと会いたいけどさ、あまねくんの家まで知られちゃったら危険だし」
「何でこうなっちゃったのかな……。私は、あっくんには、幸せになって欲しかっただけなのに……。家にも変な電話かかってきたりするし」
「変な電話?」
奏ちゃんの言葉に、体勢を整えて耳を傾ける。
学生の頃、体調不良で学校を休み、受診した時も、こんなふうに何か食べたいものをと寄り道してくれた。
懐かしい思い出が蘇り、少し心が暖まった。
あまねくんと出会ったばかりの頃、彼はケーキが好きで時々仕事帰りにケーキ屋さんに寄ると言っていたのを思い出した。
私が作ったチョコレートケーキも美味しそうに食べてくれた。一緒に作ったチーズケーキは大成功だった。
このケーキも一緒に食べたかったな……。
あまねくん、会いたいよ……。
懐かしい気持ちはいっぱいになったけれど、ケーキの味はよくわからなかった。
朝のながらみの方が美味しく感じるなんて、私の舌もおかしくなってしまったのだろう。
自室に戻り、またぼーっとしているとスマホが鳴った。
びくりと体を震わせて画面を見ると、知らない番号からだった。
鳥肌が全身を駆け抜ける。昨日と同じ番号かもしれない。
雅臣だったらどうしよう……。でも、番号が知れたら役に立つかもしれないし……。
恐怖が募る中、通話ボタンを押した。耐えられなかったら切って着信拒否してしまえばいい。
「もしもし……」
「やっと出た。昨日もかけたんだけど」
ぶっきらぼうな声は、若い女性だった。話し方と声から、思いあたる人物は1人しかいない。
「……奏ちゃん?」
「何で電話でないの?」
「……知らない番号だったから」
前回彼女と電話した時には、アプリを使用していたから端末にかかってきたのはこれが初めてだった。
「サイン乗っ取られてさ、スマホ変えたの」
「え!? 本当にそんなことあるの」
「あったの。あっくんから番号聞いて直接かけた」
「そう……なんだ」
スマホ変えたなら、またサインを登録すればいいと思うのだけれど、すぐにでも電話する程の用があったのだろうか。
「ねぇ、あっくんと会ってないの?」
「え? うん……、あれから会ってない」
「何で? あの結城って人が釈放されたから?」
「うん。いつ実家がバレるかわかんないから、家から出してもらえなくてさ……」
「そう……。あの人から、あっくんの事務所に嫌がらせが始まったみたいなの」
「え!?」
何かしてくるかもしれない。そうは思っていたけれど、あまねくんから直接連絡もきていないし、まさかそんなことになっているだなんて思ってもみなかった。
「事務所にも迷惑かけてるって落ち込んでて……しかも、まどかさんと別れさせられちゃうかもしれないって言ってたから……」
「そっか。父が感情的になって、別れろって言ったの」
迎えにきてくれたことになっていたあまねくんに対し、危険な中私を連れ回しただなんだって言いがかりをつけ、逢いにきてくれたあまねくんを追い返したと後になって聞いた。
「……私が反対したから?」
「え?」
「初めてうちに来た時、私が反対したから結婚できなかったんでしょ? あの時、結婚してたら、こんなふうにバラバラにならなかったじゃん……」
「あー……、それは違うよ」
彼女の言葉にへこんで、現実から目を背けて、あまねくんともすれ違ったけど、それで更に信頼を深めることができたのも事実だし。
「あの時は、うちへの挨拶もまだだったし、全然準備もできてなかったからさ。スムーズに結婚に至ってたとしても、元彼が現れたら結局実家に戻されてただろうし」
「……その結城って人のことで、あっくんちょこちょこ家に帰ってきてるみたいだけど、元気ないってりっちゃんも心配してた。……結婚するって言った時、あんなに嬉しそうだったのに……」
「今はしょうがないよ……。私もずっと会いたいけどさ、あまねくんの家まで知られちゃったら危険だし」
「何でこうなっちゃったのかな……。私は、あっくんには、幸せになって欲しかっただけなのに……。家にも変な電話かかってきたりするし」
「変な電話?」
奏ちゃんの言葉に、体勢を整えて耳を傾ける。
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