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前進
【14】
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「何か、売り込みみたいな電話。おばあちゃんが電話出てさ、何か買わされそうになってたんだよね」
「詐欺も多いみたいだから気を付けないとね」
「うん。すぐに電話変わったんだけど、何だかずっと説明してて嫌になっちゃった」
「そう……。何の営業だったの?」
「青汁」
「青汁?」
ブームなのか。昨日通販番組でやっていたのを思い出す。
「まあ、すぐに切ったからいいけど、怪しいから一応録音しておいたの。2度とかかってこないようにパパに番号設定しておいてもらおうかと思って」
「うん、それがいいね」
「ねぇ、何か元気ない。……こっちも調子狂うんだけど」
「うん……。色々考えちゃってね」
「体調悪いの?」
「……ストレスによる心の病気だと言われたよ」
「え!? 何、それ……」
「家に帰ってきたらだいぶ落ち着いたけど、柄にもなく取り乱しちゃってさ……。今冷静になってみると、まともな判断力がなくなってきてるんだなぁって思ったよ」
「大丈夫なの?」
「今はね。漢方薬出されてちょっと効いたのかな? なんて、そんな即効性はないと思うけど……病は気からって言うし、ちょっと気持ちが落ち着いた気がするのかも」
あんなに飲むのは嫌だと拒んだ薬も、1度思いきって飲んでみたら、不思議と抵抗はなくなった。
本当におかしい。普段の私なら、病院であんなふうに叫んだりしないのに。やはり心に余裕がなくなってきているのだろう。
こうして誰かと話している時だけは、いつもの自分を保っていられる気がした。
心の病気を理解してあげられる。寄り添ってあげられる。そんなものは、健康な人間だから言えることなのだと思い知らされた気がした。
自分の心が壊れていくかもしれない。そんな恐怖は、健康な人間にはわからない。
精神を病んでいくという現実から目を背けたくなる衝動。こんな感覚は、今まで感じたことなどなかった。
自分だったら、病気の人にも、心が傷付いた人にだって寄り添ってあげられる。そう思っていた健康だった時の自分が酷く傲慢に見えた。
「……あっくんは知ってるの?」
「知らないよ。ほんの数時間前に病院から帰って来たばかりだから。……あまねくんも大変な時に迷惑かけたくないし」
「ふーん……言わなきゃ言わないで心配すると思うけど」
「そう、だね……。でも正直、あまねくんの事務所が大変なことになってても私には何もできないし……。それなのに今心配事増やすのは重荷になる気がするから」
「……あんたっちって、お互いに気遣ってばっかりなんだね」
「え?」
奏ちゃんが電話の向こうで大きな溜め息をつく。
「我慢ばっかりしてるから体に負担かかるんだよ。何のためにあっくんがいるの? 病気になるくらい苦しいんなら思いっきり甘えればいいのに」
「……そういうわけにはいかないよ」
「かななんか、散々あっくんにもりっちゃんにも我が儘聞いてもらってるんだよ? あのお人好しが何もしてくれないわけないじゃん」
奏ちゃんの言葉に思わず笑ってしまう。そりゃ、あなたは我が儘三昧できるでしょうね。その性格だから。
久しぶりに笑った気がして、ぼーっとしていた頭が少しだけ冴えた気がする。
「奏ちゃんと一緒にしないでよ。手のかかる妹がいるのに、私まで我が儘言えないでしょ」
「手がかかるって誰が!? 言っとくけど、東京いって、かなり自立したからね」
「どこがよ。悪態ばっかりついて」
両親も大変そうじゃないか。自信を持って自立してると言い張るところが、すごいと思う。彼女にとっての自立とは、実家を出ることだろうか。
「あー、うるさい。心配して損した」
「心配してくれてたの?」
「……してないし! あっくんが可哀想だから電話かけてあげたの!」
「そうでしたか。ありがとうね」
「べ、別にあんたにお礼なんか言ってもらっても嬉しくないし」
「わかった、わかった。まあ……あまねくんには、また連絡するからさ」
「うん。あんまり悲しませないでよ」
「そうだね……」
「あっくんもあっくんだよ! ちょっと反対されたくらいでグズグズしてさ!」
それをあんたが言うかね。1番最初に私達のことを反対したのはあんたでしょうが。そうは思うが、この後が面倒になりそうなのでやめた。
きりのいいところで電話を切り、どっと疲れが押し寄せた。
パワフルなんだよな……。若さのせいか、性格のせいか、心身共に弱っている今の私には、彼女のテンションは刺激が強すぎた。
それでも、電話番号を見てクスクスと笑いが込み上げるのは、彼女の不思議な力なのかもしれない。
「詐欺も多いみたいだから気を付けないとね」
「うん。すぐに電話変わったんだけど、何だかずっと説明してて嫌になっちゃった」
「そう……。何の営業だったの?」
「青汁」
「青汁?」
ブームなのか。昨日通販番組でやっていたのを思い出す。
「まあ、すぐに切ったからいいけど、怪しいから一応録音しておいたの。2度とかかってこないようにパパに番号設定しておいてもらおうかと思って」
「うん、それがいいね」
「ねぇ、何か元気ない。……こっちも調子狂うんだけど」
「うん……。色々考えちゃってね」
「体調悪いの?」
「……ストレスによる心の病気だと言われたよ」
「え!? 何、それ……」
「家に帰ってきたらだいぶ落ち着いたけど、柄にもなく取り乱しちゃってさ……。今冷静になってみると、まともな判断力がなくなってきてるんだなぁって思ったよ」
「大丈夫なの?」
「今はね。漢方薬出されてちょっと効いたのかな? なんて、そんな即効性はないと思うけど……病は気からって言うし、ちょっと気持ちが落ち着いた気がするのかも」
あんなに飲むのは嫌だと拒んだ薬も、1度思いきって飲んでみたら、不思議と抵抗はなくなった。
本当におかしい。普段の私なら、病院であんなふうに叫んだりしないのに。やはり心に余裕がなくなってきているのだろう。
こうして誰かと話している時だけは、いつもの自分を保っていられる気がした。
心の病気を理解してあげられる。寄り添ってあげられる。そんなものは、健康な人間だから言えることなのだと思い知らされた気がした。
自分の心が壊れていくかもしれない。そんな恐怖は、健康な人間にはわからない。
精神を病んでいくという現実から目を背けたくなる衝動。こんな感覚は、今まで感じたことなどなかった。
自分だったら、病気の人にも、心が傷付いた人にだって寄り添ってあげられる。そう思っていた健康だった時の自分が酷く傲慢に見えた。
「……あっくんは知ってるの?」
「知らないよ。ほんの数時間前に病院から帰って来たばかりだから。……あまねくんも大変な時に迷惑かけたくないし」
「ふーん……言わなきゃ言わないで心配すると思うけど」
「そう、だね……。でも正直、あまねくんの事務所が大変なことになってても私には何もできないし……。それなのに今心配事増やすのは重荷になる気がするから」
「……あんたっちって、お互いに気遣ってばっかりなんだね」
「え?」
奏ちゃんが電話の向こうで大きな溜め息をつく。
「我慢ばっかりしてるから体に負担かかるんだよ。何のためにあっくんがいるの? 病気になるくらい苦しいんなら思いっきり甘えればいいのに」
「……そういうわけにはいかないよ」
「かななんか、散々あっくんにもりっちゃんにも我が儘聞いてもらってるんだよ? あのお人好しが何もしてくれないわけないじゃん」
奏ちゃんの言葉に思わず笑ってしまう。そりゃ、あなたは我が儘三昧できるでしょうね。その性格だから。
久しぶりに笑った気がして、ぼーっとしていた頭が少しだけ冴えた気がする。
「奏ちゃんと一緒にしないでよ。手のかかる妹がいるのに、私まで我が儘言えないでしょ」
「手がかかるって誰が!? 言っとくけど、東京いって、かなり自立したからね」
「どこがよ。悪態ばっかりついて」
両親も大変そうじゃないか。自信を持って自立してると言い張るところが、すごいと思う。彼女にとっての自立とは、実家を出ることだろうか。
「あー、うるさい。心配して損した」
「心配してくれてたの?」
「……してないし! あっくんが可哀想だから電話かけてあげたの!」
「そうでしたか。ありがとうね」
「べ、別にあんたにお礼なんか言ってもらっても嬉しくないし」
「わかった、わかった。まあ……あまねくんには、また連絡するからさ」
「うん。あんまり悲しませないでよ」
「そうだね……」
「あっくんもあっくんだよ! ちょっと反対されたくらいでグズグズしてさ!」
それをあんたが言うかね。1番最初に私達のことを反対したのはあんたでしょうが。そうは思うが、この後が面倒になりそうなのでやめた。
きりのいいところで電話を切り、どっと疲れが押し寄せた。
パワフルなんだよな……。若さのせいか、性格のせいか、心身共に弱っている今の私には、彼女のテンションは刺激が強すぎた。
それでも、電話番号を見てクスクスと笑いが込み上げるのは、彼女の不思議な力なのかもしれない。
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