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前進
【15】
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初めて漢方薬を飲んでから6時間が経過したため、次の分を内服した。漢方薬独特の味がするけれど、飲んだら何となく気持ちが軽くなるような気がしたから。
リビングに降りていくと、母は珍しく読書をしていた。単行本を広げて、グレーのソファーに腰を掛け、足を組んでいた。外観は和風の家だが、洋風の家に住みたいと母の希望もあり、リビングはフローリングである。
部屋によって、父の好みと母の好みとが別れているのが実家の特徴だ。
柔らかい布地のソファーは、母が父にねだって買ってもらったと喜んでいた。
あんなに口うるさい父も、惚れた弱味か母にだけは甘い。そんな母が生んだ子供なのだから、もう少し私のことも甘やかしてくれてといいと思う。
「珍しいね、読書なんて」
「ああ、起きてきたの? 目眩はどう?」
「今は何とも……薬が効いたみたい」
「そう、よかった。昔の本を引っ張り出してきたの。お父さんがいると、中々読書もさせてもらえないから」
「自分のことくらい自分でやらせればいいんだよ。何でもかんでもお母さんにやらせるから、負担が増えるんでしょ」
「まあね。でも、今更だから。何か飲む?」
「うん、甘いものあったっけ?」
「ミルクティーあるよ」
「じゃあ、それでいいや」
母は、本にしおりを挟んでから閉じると、ソファーの上に置いたまま立ち上がった。父は、昔ながらの亭主関白で家事の手伝いなどは一切しない人間だった。
生徒には、自分のことは自分でできるように自立しろだなんて言っている姿が目に浮かぶが、娘の私から言わせればちゃんちゃらおかしい。
ただ、母も今みたいに自分から率先して人の世話を焼きたがるタイプだから、2人の関係は成り立ってるのかもしれない。
「ねぇ、何でお父さんと結婚したんだっけ?」
「んー、お父さんがしつこかったの」
「えー。そうだっけ?」
昔、母から両親のなれ初めを聞いた気がするが、一部始終を覚えているわけではない。あの厳格な父がしつこく母につきまとっているところなんて想像もつかなかった。
「お母さん、他に好きな人がいたのにお父さんが全然諦めてくれなかったの」
「何それ……。気持ち悪」
娘の恋愛沙汰にはグズグズ言うくせに、自分だって恋に溺れたタイプじゃないか。
顔を歪めた私の前に、マグカップに入ったミルクティーが置かれた。守屋家で出されるようなオシャレなティーカップではない。
一家では、昔から何でもかんでもマグカップ。だから私も、何を飲むにしてもお気に入りのマグカップ1つで事足りてしまう。
「気持ち悪いか……そうだね」
母は、笑いながら否定はしなかった。私の向かいに座った母は、自分の分のミルクティーを一口飲み込んだ。
「お母さんの好きだった人、今どうしてるの?」
「ん? 菜々美と結婚したよ」
「え!? 友梨のお父さんってこと!?」
私は、驚きのあまりマグカップを落としそうになった。アパートではずっと使っていたくまのキャラクターが描かれたマグカップだ。これをもう5年以上は毎日使用している。
菜々美とは、母の高校時代からの友人で、友梨は私の同級生だ。娘同士が同い年ということで、2人が更に仲良くなったことも知っている。
小中学と同じだったし、クラスが同じになれば、学校帰りによく一緒に遊んだ。茉紀と仲良くなってからはあまり連絡も取り合わなくなり、高校からバラバラになったことで更に疎遠になった。たまにお知らせがくるSNSでは、子供の写真を載せているので、結婚して子供がいることくらいは知っている。
子供ができてから1度だけ彼女とあったが、それっきりになっていた。
そんな友梨のお父さんのことを母が好きだったなんて、娘の私としては衝撃的だった。
「確かに友梨のお父さんは中々のイケメンだけれど……」
「そうでしょ? 人気者だったの」
「お母さんと同じ年なんだっけ?」
「そう。同じ高校だったの。菜々美と旦那の隆ともう1人こうちゃんって男の子と仲良くて、よく遊んでたの」
「お母さんは、その時から友梨のお父さんが好きだったの?」
「ううん。その時は、お母さん別の高校に彼氏いたから」
「えー……」
何だか色々複雑そうで、ややこしい話を聞かされそうだと頭を整理するので精一杯だった。
リビングに降りていくと、母は珍しく読書をしていた。単行本を広げて、グレーのソファーに腰を掛け、足を組んでいた。外観は和風の家だが、洋風の家に住みたいと母の希望もあり、リビングはフローリングである。
部屋によって、父の好みと母の好みとが別れているのが実家の特徴だ。
柔らかい布地のソファーは、母が父にねだって買ってもらったと喜んでいた。
あんなに口うるさい父も、惚れた弱味か母にだけは甘い。そんな母が生んだ子供なのだから、もう少し私のことも甘やかしてくれてといいと思う。
「珍しいね、読書なんて」
「ああ、起きてきたの? 目眩はどう?」
「今は何とも……薬が効いたみたい」
「そう、よかった。昔の本を引っ張り出してきたの。お父さんがいると、中々読書もさせてもらえないから」
「自分のことくらい自分でやらせればいいんだよ。何でもかんでもお母さんにやらせるから、負担が増えるんでしょ」
「まあね。でも、今更だから。何か飲む?」
「うん、甘いものあったっけ?」
「ミルクティーあるよ」
「じゃあ、それでいいや」
母は、本にしおりを挟んでから閉じると、ソファーの上に置いたまま立ち上がった。父は、昔ながらの亭主関白で家事の手伝いなどは一切しない人間だった。
生徒には、自分のことは自分でできるように自立しろだなんて言っている姿が目に浮かぶが、娘の私から言わせればちゃんちゃらおかしい。
ただ、母も今みたいに自分から率先して人の世話を焼きたがるタイプだから、2人の関係は成り立ってるのかもしれない。
「ねぇ、何でお父さんと結婚したんだっけ?」
「んー、お父さんがしつこかったの」
「えー。そうだっけ?」
昔、母から両親のなれ初めを聞いた気がするが、一部始終を覚えているわけではない。あの厳格な父がしつこく母につきまとっているところなんて想像もつかなかった。
「お母さん、他に好きな人がいたのにお父さんが全然諦めてくれなかったの」
「何それ……。気持ち悪」
娘の恋愛沙汰にはグズグズ言うくせに、自分だって恋に溺れたタイプじゃないか。
顔を歪めた私の前に、マグカップに入ったミルクティーが置かれた。守屋家で出されるようなオシャレなティーカップではない。
一家では、昔から何でもかんでもマグカップ。だから私も、何を飲むにしてもお気に入りのマグカップ1つで事足りてしまう。
「気持ち悪いか……そうだね」
母は、笑いながら否定はしなかった。私の向かいに座った母は、自分の分のミルクティーを一口飲み込んだ。
「お母さんの好きだった人、今どうしてるの?」
「ん? 菜々美と結婚したよ」
「え!? 友梨のお父さんってこと!?」
私は、驚きのあまりマグカップを落としそうになった。アパートではずっと使っていたくまのキャラクターが描かれたマグカップだ。これをもう5年以上は毎日使用している。
菜々美とは、母の高校時代からの友人で、友梨は私の同級生だ。娘同士が同い年ということで、2人が更に仲良くなったことも知っている。
小中学と同じだったし、クラスが同じになれば、学校帰りによく一緒に遊んだ。茉紀と仲良くなってからはあまり連絡も取り合わなくなり、高校からバラバラになったことで更に疎遠になった。たまにお知らせがくるSNSでは、子供の写真を載せているので、結婚して子供がいることくらいは知っている。
子供ができてから1度だけ彼女とあったが、それっきりになっていた。
そんな友梨のお父さんのことを母が好きだったなんて、娘の私としては衝撃的だった。
「確かに友梨のお父さんは中々のイケメンだけれど……」
「そうでしょ? 人気者だったの」
「お母さんと同じ年なんだっけ?」
「そう。同じ高校だったの。菜々美と旦那の隆ともう1人こうちゃんって男の子と仲良くて、よく遊んでたの」
「お母さんは、その時から友梨のお父さんが好きだったの?」
「ううん。その時は、お母さん別の高校に彼氏いたから」
「えー……」
何だか色々複雑そうで、ややこしい話を聞かされそうだと頭を整理するので精一杯だった。
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