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前進
【24】
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2人でまどろんでいると、下から大きな声がした。咄嗟に父が帰ってきたと勘づいた私達は、顔を見合わせた。
あまねくんの足の間から抜け出して、頭1つ分出るくらい小さくドアを開いた。
声は更に大きく聞こえ、父が吠えているのがわかる。
耳を傾けると、言葉すらも聞き取れた。
「何で勝手なことをするんだ! もしあの男が後でもつけられてこの家が知られたらどうするつもりだ! まどかに危険が及ぶなら、その根元を絶つのが確実だろう!」
いかにも父が言いそうなことだ。数ある解決策の中で、誰もが納得するものをなんてことは考えない。原因があるのなら、なりふり構わず、その原因を取っ払ってしまえばいい。そんな乱暴な考え方をするのだ。
「あなたはいつもそうね。まどかが危険じゃなければ、まどかの気持ちはどうでもいいんだ」
父に反して、冷静な母の声が階段のすぐ下から聞こえる。恐らく階段を上がって、あまねくんを追い出そうとしている父に言っているのだろう。
「あの子、あなたに彼と引き離されてから体調崩したんだから。今日だって精神科にかかったのよ」
「精神科?」
「自律神経失調症だって言われたの。ただでさえ結城くんのことで怯えて暮らしてるのに、彼とまで引き離されてストレスが溜まらないわけないでしょ。好きだった仕事だって辞めたのよ」
「なんだ、その訳のわからない病気は。精神病なんてものは、気合いが足りないやつがなる病気なんだ」
「気合い? 気合いだけでなんでも解決できたら病気になんてならないでしょ」
「働かずに生活させてもらってるんだ。その分際でストレスもクソもないだろう」
父の言い分に腹が立った。きっと世の中、こういう考え方の人間は多い。あまねくんみたいに皆が皆心配してくれるわけではない。
拳をぎゅっと握りしめ、憤りを抑える。
「そうですか。ならいいわ。私はまどかと一緒に出ていきます。あなた1人なら、この家に留まっていても安心でしょう?」
「おい、何でそうなるんだ。大体、生活費だって……」
「まどかはもう大人です。1ヶ月もすれば新しい職場を探して自分の生活費くらい稼げるわよ。この7年間そうやって自分で生活してきたんだから。私も定年まで働くし、あなたの食事を作らなくていい分、時間に余裕ができます。どうぞ、あなたはストレスフリーな環境で1人で過ごしたら? その方がまどかにとっても私にとってもストレスは少なくてすむから」
「何を言ってるんだ。じゃあ、俺の飯は誰が作るんだ」
「自分で作ればいいじゃない。子供じゃあるまいし。自分のことくらい自分でなさいよ。まどかに生活させてもらってる分際だなんて言って。自分だって、食事を作ってもらってる分際で偉そうなことを言って。悪いけど、私だって働いて生活費出してるんですからね。あなたに養ってもらっているつもりなんてこれっぽっちもありません。まどかは、私が産んだ子です。あの子を侮辱するなら、あなたでも許しませんからね!」
最後の最後にキツイ母の一言が聞こえた。私は、あまり母に怒られた記憶がない。父に怒られ、泣いているのをいつも慰めてくれたのは母だった。
だから、母が怒るところなど見たことがないに等しいのだけれど、口調からは相当憤慨していることが伺える。
あんな父に対して、こんなにも強気な母を私は初めて見た。
「そんなに怒ることないだろ……。俺はただ、まどかが安全に……」
「まどかが体を壊したのにあなたは安全を守れたって言い張るんですか?」
「いや、だからそれは……」
「いつもいつも自分の主張ばかりを押し付けて。子供じゃないんだから、少しは人の気持ちも考えなさい。あなたは、数学だけ教えてればいいかもしれないけどね、人の心は数字じゃ解決できないのよ!」
あの父が子供のように怒られているかと思うと、何だか少し笑えてきた。声を出さないように、肩を震わせて笑いを堪える。
あまねくんの足の間から抜け出して、頭1つ分出るくらい小さくドアを開いた。
声は更に大きく聞こえ、父が吠えているのがわかる。
耳を傾けると、言葉すらも聞き取れた。
「何で勝手なことをするんだ! もしあの男が後でもつけられてこの家が知られたらどうするつもりだ! まどかに危険が及ぶなら、その根元を絶つのが確実だろう!」
いかにも父が言いそうなことだ。数ある解決策の中で、誰もが納得するものをなんてことは考えない。原因があるのなら、なりふり構わず、その原因を取っ払ってしまえばいい。そんな乱暴な考え方をするのだ。
「あなたはいつもそうね。まどかが危険じゃなければ、まどかの気持ちはどうでもいいんだ」
父に反して、冷静な母の声が階段のすぐ下から聞こえる。恐らく階段を上がって、あまねくんを追い出そうとしている父に言っているのだろう。
「あの子、あなたに彼と引き離されてから体調崩したんだから。今日だって精神科にかかったのよ」
「精神科?」
「自律神経失調症だって言われたの。ただでさえ結城くんのことで怯えて暮らしてるのに、彼とまで引き離されてストレスが溜まらないわけないでしょ。好きだった仕事だって辞めたのよ」
「なんだ、その訳のわからない病気は。精神病なんてものは、気合いが足りないやつがなる病気なんだ」
「気合い? 気合いだけでなんでも解決できたら病気になんてならないでしょ」
「働かずに生活させてもらってるんだ。その分際でストレスもクソもないだろう」
父の言い分に腹が立った。きっと世の中、こういう考え方の人間は多い。あまねくんみたいに皆が皆心配してくれるわけではない。
拳をぎゅっと握りしめ、憤りを抑える。
「そうですか。ならいいわ。私はまどかと一緒に出ていきます。あなた1人なら、この家に留まっていても安心でしょう?」
「おい、何でそうなるんだ。大体、生活費だって……」
「まどかはもう大人です。1ヶ月もすれば新しい職場を探して自分の生活費くらい稼げるわよ。この7年間そうやって自分で生活してきたんだから。私も定年まで働くし、あなたの食事を作らなくていい分、時間に余裕ができます。どうぞ、あなたはストレスフリーな環境で1人で過ごしたら? その方がまどかにとっても私にとってもストレスは少なくてすむから」
「何を言ってるんだ。じゃあ、俺の飯は誰が作るんだ」
「自分で作ればいいじゃない。子供じゃあるまいし。自分のことくらい自分でなさいよ。まどかに生活させてもらってる分際だなんて言って。自分だって、食事を作ってもらってる分際で偉そうなことを言って。悪いけど、私だって働いて生活費出してるんですからね。あなたに養ってもらっているつもりなんてこれっぽっちもありません。まどかは、私が産んだ子です。あの子を侮辱するなら、あなたでも許しませんからね!」
最後の最後にキツイ母の一言が聞こえた。私は、あまり母に怒られた記憶がない。父に怒られ、泣いているのをいつも慰めてくれたのは母だった。
だから、母が怒るところなど見たことがないに等しいのだけれど、口調からは相当憤慨していることが伺える。
あんな父に対して、こんなにも強気な母を私は初めて見た。
「そんなに怒ることないだろ……。俺はただ、まどかが安全に……」
「まどかが体を壊したのにあなたは安全を守れたって言い張るんですか?」
「いや、だからそれは……」
「いつもいつも自分の主張ばかりを押し付けて。子供じゃないんだから、少しは人の気持ちも考えなさい。あなたは、数学だけ教えてればいいかもしれないけどね、人の心は数字じゃ解決できないのよ!」
あの父が子供のように怒られているかと思うと、何だか少し笑えてきた。声を出さないように、肩を震わせて笑いを堪える。
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