【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

文字の大きさ
187 / 289
前進

【25】

しおりを挟む

「わかったから……少し落ち着きなさい」

「落ち着いていられるわけないでしょ。今日は、あまねくんには泊まっていってもらいます。まどかの体調が戻るまで、彼にはこの家に好きに出入りできるようにしますからね」

「それとこれとは話が違うだろ!」

「文句があるなら離婚してもいいのよ」

「離婚!?」

「どうなの? まどかの気持ちを考える気はあるの? ないの? 大体、あの子はあなたのことが嫌でこの家を出ていったんですからね」

「馬鹿を言うな。職場に近い方がいいって言って出てったんじゃないか」

「仕事で疲れて帰ってきてるのに叩き起こしたり、休みの日にぐずぐず言われたら誰だって嫌になりますよ。そのまどかがここに帰ってくることだってストレスだったんですからね。そのことをちゃんと弁えておいて下さいよ」

「な……」

 ついに言葉を失った父。ショックだったのか、何かを考えているのか。

「とにかく、納得いかないなら一旦私達はホテルにでも泊まって、アパートでも探します。1人で考えたらいいんじゃないかしら」

「で、出ていけとは言ってないだろ……」

「じゃあ、いいのね? 今日はあの子達を一緒にいさせて、文句は言わないこと」

「……勝手にしろ」

 母の勝利だった。あの父が折れたのだ。 惚れた弱味というのは恐ろしい。父にとっては、母の料理が食べられなくなることも、離婚することも耐え難いことなのだろう。
 
 私とあまねくんは、顔を見合せ、吹き出した。

「俺もああなりそう」

 あまねくんが笑いながらそう言うから、「私はあんなに怖くないよ。半ば脅しだからね」と手を振って否定した。

 母は説得すると言っていたが、あれは完全に脅しだ。自立している女性は強いなぁとつくづく思う。
 くよくよしていたけれど、あんな母を見ていたら、やはり1ヶ月休んだらちゃんと働いて生活費を稼ごうと思った。
 今だって退職金で、生活費として今月の5万は渡してある。決して無料《タダ》でおいてもらっているわけではないのに、あの言い方は些か腹が立つ。 
 母が、はっきり言ってくれて嬉しいのとともに、とても頼もしく感じた。
 母は強し。決して迷信ではない。

 階段を昇る音が聞こえて、私とあまねくんは、そっとドアを閉じた。
 急いでテレビをつけ、私はベッドへ、あまねくんは座椅子へと戻る。
 何事もなかったかのように装えば、ドアがノックされた。

 返事をするとドアが開き、母が顔を出した。

「お父さん、納得してくれたから、よかったらあまねくんも今夜は泊まっていってくれないかな? 明日も仕事だと思うけど」

「ご迷惑じゃないんですか?」

「うちは全然いいの。まどかもその方が安心でしょ?」

「あまねくんがいいなら……」

 翌日が仕事でも、私がアパート暮らしの時にはお互いに泊まったりしていた。あまねくんさえ良ければ、私はまだ一緒にいたい。

「俺は大丈夫。明日の支度してから出てきたし」

「じゃあ、決まりね。お風呂も沸かしておくから入って」

「あ……シャワー浴びてきたので、それは大丈夫です」

「そう? じゃあ、寝間着は……」

 首を傾げて考える母に、「私の大きめのスウェットあるから大丈夫」と答えた。
 ゆったりと着られるものが欲しくて買ったスウェット。細身のあまねくんなら入るだろう。

「それじゃあ、いっか。あまねくん、悪いけどまどかのことお願いね」

 そう言って母は、先程まで父と口論になっていたとは思えない程穏やかな顔で出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...