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前進
【26】
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母が部屋を後にすると、あまねくんと顔を見合せてクスクスと笑った。あまねくんもかなりの演技派だと思う。よく笑わずに会話できたなぁと感心した。
「これでもう少しまどかさんと一緒にいられるね。俺、まどかさんに会うと癒されるから嬉しい」
「それは私もだよ。ねぇ、奏ちゃんから臣くんの嫌がらせが始まったって聞いたけど大丈夫なの?」
彼も被害者なわけで、隠れている私に代わってあまねくんが嫌がらせを受けているのが心配だった。
「うん。毎日のように電話がかかってきてさ。番号を拒否設定したんだけど、番号変えてかけてきたりファックス送ってきたりするから参ったよ」
「……事務所は?」
「結城さんのことは、以前顧客をとられた時に事務所の人達も認識してるし、俺のこと擁護してくれるんだ。だから、それで事務所のスタッフから煙たがられることはないけど、デタラメな情報が顧客にいかないかだけが心配」
「そっか……」
「まあ、結城さんが脱税して捕まったことも顧客は皆知ってるからさ、いざとなったら逆恨みってことを説明するけどね」
「それにしても酷いよね……。釈放された途端に嫌がらせするなんて……。早く判決出て欲しい」
「うん。でも……ちょっと、別の角度から攻められそうなんだ」
「え? どういう……」
「結城さんの立ち上げた会社がサンケアってところなんだけどさ」
「サンケア……」
何となくだが聞き覚えがあった。どこでだったかは思い出せない。
「株式会社だから、しっかりしたところだと思ってたんだけど、どうやら元あった会社の乗っ取りらしいんだよね」
「乗っ取り!?」
「うん。まあ、乗っ取り自体は株をいくつ所有しているかとか経営状況等でも決まるから、合法なんだけどね」
「そうなの?」
「うん。もし経営が傾いていて、経営がにっちもさっちもいかなくなったら、誰かに会社を譲れば自分が負債しなくて済むでしょ? そうなったら経営者にとってもありがたいなんてこともある」
「確かに……」
「でも、大きな会社が自分の子会社として買い取ることがあっても、そこ1本でやっていくはの厳しいでしょ。悪徳なのが、もともとそこは結城さんが経営コンサルしていた会社なんだよ」
私には言っていることがよくわからなかった。ゆっくり説明してもらってようやくわかったのは、もともと税理士として経営コンサルを担当していた株式会社が今の自分の会社であるということ。
経営事情を全て知り、金の動きを見てきた雅臣は、最初からその会社を乗っ取るつもりだった。
株が暴落した時に、仲間達に大量に購入させ、それをかき集めて株の51%以上を手に入れることに成功した。
元の経営者は雅臣にすがるような形で会社を譲渡したが、本来は雅臣の計画通りだったということだ。
経営は数年間赤字が続いており、現在も赤字。また、雅臣の仲間の1人が別の会社を経営しており、雅臣が買い取った会社を評価したことで現在注目され始めていた。
その一方で、赤字にも関わらず架空の売上額を報告していたそうだ。
「だから今、虚偽の有価証券報告書を財務局長に提出した疑いがかけられてるの。それが本当なら、証券取引法違反で捕まえられる」
「じゃあ……」
「うん。それに、同時進行で高齢者をターゲットにした詐欺紛いなこともしているみたいんなんだ」
「詐欺!?」
「そう。その虚偽の売り上げを実際に黒字にするために、強行手段を取ってるみたい」
「それが本当なら……」
「うん。でも、やっぱりあの人賢いよ。証拠が全然出てこない」
あまねくんは、まるで感心しているかのように腕を組んで唸る。
「感心してる場合じゃないでしょ」
「そうだね。ごめん、同じ税理士としてあんなに巧みに人と金を動かせるって凄いなって思って。あれをいい方向に使ったら絶対もっと成功したのになぁ……」
「巧みにったって、あの人の場合は悪巧みだもんね」
「そう。まだまだ犯罪の匂いがするから、もう少し頑張る。友達にも、株に詳しい奴とか経営者もいるからさ、ちょっと協力してもらうね」
いつものことだが、彼の人脈には脱帽する。この人望だからこそ、彼の周りに人が集まるのだろうが。
判決が出るまで何も身動きができないと思っていたが、別の犯罪が絡んでいればまた暫く勾留できるかもしれない。
うっすらと希望の道が見えて、私が体調を崩している間に、あまねくんがここまで調べてくれていたことに感動した。
私もくよくよしていられない。ちゃんと薬を飲んで、病院へ通って自分の病気と向き合わなければいけない。自分が受け入れなければ、治るものも治らないだろうと少しだけ前向きになれた。
「これでもう少しまどかさんと一緒にいられるね。俺、まどかさんに会うと癒されるから嬉しい」
「それは私もだよ。ねぇ、奏ちゃんから臣くんの嫌がらせが始まったって聞いたけど大丈夫なの?」
彼も被害者なわけで、隠れている私に代わってあまねくんが嫌がらせを受けているのが心配だった。
「うん。毎日のように電話がかかってきてさ。番号を拒否設定したんだけど、番号変えてかけてきたりファックス送ってきたりするから参ったよ」
「……事務所は?」
「結城さんのことは、以前顧客をとられた時に事務所の人達も認識してるし、俺のこと擁護してくれるんだ。だから、それで事務所のスタッフから煙たがられることはないけど、デタラメな情報が顧客にいかないかだけが心配」
「そっか……」
「まあ、結城さんが脱税して捕まったことも顧客は皆知ってるからさ、いざとなったら逆恨みってことを説明するけどね」
「それにしても酷いよね……。釈放された途端に嫌がらせするなんて……。早く判決出て欲しい」
「うん。でも……ちょっと、別の角度から攻められそうなんだ」
「え? どういう……」
「結城さんの立ち上げた会社がサンケアってところなんだけどさ」
「サンケア……」
何となくだが聞き覚えがあった。どこでだったかは思い出せない。
「株式会社だから、しっかりしたところだと思ってたんだけど、どうやら元あった会社の乗っ取りらしいんだよね」
「乗っ取り!?」
「うん。まあ、乗っ取り自体は株をいくつ所有しているかとか経営状況等でも決まるから、合法なんだけどね」
「そうなの?」
「うん。もし経営が傾いていて、経営がにっちもさっちもいかなくなったら、誰かに会社を譲れば自分が負債しなくて済むでしょ? そうなったら経営者にとってもありがたいなんてこともある」
「確かに……」
「でも、大きな会社が自分の子会社として買い取ることがあっても、そこ1本でやっていくはの厳しいでしょ。悪徳なのが、もともとそこは結城さんが経営コンサルしていた会社なんだよ」
私には言っていることがよくわからなかった。ゆっくり説明してもらってようやくわかったのは、もともと税理士として経営コンサルを担当していた株式会社が今の自分の会社であるということ。
経営事情を全て知り、金の動きを見てきた雅臣は、最初からその会社を乗っ取るつもりだった。
株が暴落した時に、仲間達に大量に購入させ、それをかき集めて株の51%以上を手に入れることに成功した。
元の経営者は雅臣にすがるような形で会社を譲渡したが、本来は雅臣の計画通りだったということだ。
経営は数年間赤字が続いており、現在も赤字。また、雅臣の仲間の1人が別の会社を経営しており、雅臣が買い取った会社を評価したことで現在注目され始めていた。
その一方で、赤字にも関わらず架空の売上額を報告していたそうだ。
「だから今、虚偽の有価証券報告書を財務局長に提出した疑いがかけられてるの。それが本当なら、証券取引法違反で捕まえられる」
「じゃあ……」
「うん。それに、同時進行で高齢者をターゲットにした詐欺紛いなこともしているみたいんなんだ」
「詐欺!?」
「そう。その虚偽の売り上げを実際に黒字にするために、強行手段を取ってるみたい」
「それが本当なら……」
「うん。でも、やっぱりあの人賢いよ。証拠が全然出てこない」
あまねくんは、まるで感心しているかのように腕を組んで唸る。
「感心してる場合じゃないでしょ」
「そうだね。ごめん、同じ税理士としてあんなに巧みに人と金を動かせるって凄いなって思って。あれをいい方向に使ったら絶対もっと成功したのになぁ……」
「巧みにったって、あの人の場合は悪巧みだもんね」
「そう。まだまだ犯罪の匂いがするから、もう少し頑張る。友達にも、株に詳しい奴とか経営者もいるからさ、ちょっと協力してもらうね」
いつものことだが、彼の人脈には脱帽する。この人望だからこそ、彼の周りに人が集まるのだろうが。
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うっすらと希望の道が見えて、私が体調を崩している間に、あまねくんがここまで調べてくれていたことに感動した。
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