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前進
【37】
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考えてみれば、あまねくんとはまだ出会って1年経っていない。こんなにいつも傍にいてくれて、たくさんの時間を共有しているのに。
雅臣とは5年も付き合っていたけれど、彼と過ごした月日よりも遥かに濃厚で、深い。
「どっかに観光に行くのもいいけどさ、ゆっくり温泉に行くのもいいよね」
「あー、リラックスできそう」
「ね。誰も知り合いがいないところで1週間くらいずっと2人でいるの」
考えただけで夢のようだ。結婚すればずっと同じ屋根の下で暮らすのだけれど、お互いに仕事があれば一緒にいられる時間は限られる。それなのに、1週間一時も離れずに一緒にいられたら、どんなに嬉しいだろうか。
あまねくんの知らない一面を、きっともっと知る機会になるだろう。
ずっと現実と向き合ってきたのだ。たまには現実逃避したっていいじゃないか。2人だけの世界を味わってみたかった。
「それって素敵だね」
「まどかさんもそう思ってくれる?」
「うん」
「そしたらさ、毎日寝坊でもいい?」
ベッドに寝転がったあまねくんが、子供のようにはにかんで言う。
「毎日起きるのお昼過ぎになっちゃうね」
朝が弱いあまねくんは、いつまでも寝てしまうから、1日が半分になってしまいそうだ。
私も、あまねくんの隣にごろっと横たわる。
「でもさ、時間も気にせず寝たい時に寝て、起きたい時に起きて、それが毎日って幸せだよね。学生の夏休みみたい」
「いやぁ、うちはお父さんが夏休みでも朝から起こしに来たからそんな生活は皆無だったよ」
「……想像つくね」
「でしょ? 逆にあまねくんはそんな生活してたんだ?」
「うーん……。実言うと、俺もあんまりないんだよね。小学生の頃には、律が高校受験で、徹夜で勉強してたりしててさ、俺夜食に凄い憧れてたの」
「何それ」
夜食に憧れる小学生のあまねくんを想像したら、可愛すぎて思わず笑ってしまった。
「ホント、ホント。母さんがさ、また美味そうなの用意するんだよね。小学生ながらにそれがどうしても食べたくて、律の真似して遅くまで勉強してた」
「夜食目的で?」
「今考えるとそうだよね。俺が中学上がってから成績よかったのは、多分夜食のおかげ」
あまねくんも、おかしそうにうつ伏せになってゲラゲラ笑っている。
夜食目的で勉強頑張れるなんて、そんな単純な時代があまねくんにもあったのかと微笑ましくなる。
「小学生の頃のあまねくん、可愛かったんだろうなぁ……」
「可愛くないよ」
彼は、枕に顔を埋めて表情を隠す。これは、絶対可愛いな。
「ねぇ、卒業アルバムとかないの?」
「ない」
「嘘じゃん。見せてよ」
「やだよ。子供の頃の写真なんかないもん」
「見たい」
「だめ」
「すんごい可愛いもんだから、見せるの嫌なんでしょ」
少しだけ出ている頬を指でつつけば、くるっとこちらを向いて「可愛くないってば。まどかさん、すぐそうやってからかうんだから」と口を尖らせて言った。
ぐいっと顔が近付いて、あまねくん側に横向きでいた私の唇に、触れるだけのキスをした。
ついばむように、何度もちゅっちゅっと軽く触れる。
「ふふ。何、くすぐったい」
「子供の頃の俺より、まどかさんの方が断然可愛いよ」
そう言う彼は、キスをやめる気などないようで、喋ろうとする私の言葉を遮るかのように続けるものだから、ぎゅっと口を結んだまま笑ってしまう。
「いっぱいキスするの、久しぶりだね」
腰に手を回されてぐっと引き寄せられると、一気に距離が近くなる。
どうしよう、ドキドキする……。
この部屋に入ってからすぐにエアコンをつけなかったため、じっとりと汗が滲みはじめていた。
雅臣とは5年も付き合っていたけれど、彼と過ごした月日よりも遥かに濃厚で、深い。
「どっかに観光に行くのもいいけどさ、ゆっくり温泉に行くのもいいよね」
「あー、リラックスできそう」
「ね。誰も知り合いがいないところで1週間くらいずっと2人でいるの」
考えただけで夢のようだ。結婚すればずっと同じ屋根の下で暮らすのだけれど、お互いに仕事があれば一緒にいられる時間は限られる。それなのに、1週間一時も離れずに一緒にいられたら、どんなに嬉しいだろうか。
あまねくんの知らない一面を、きっともっと知る機会になるだろう。
ずっと現実と向き合ってきたのだ。たまには現実逃避したっていいじゃないか。2人だけの世界を味わってみたかった。
「それって素敵だね」
「まどかさんもそう思ってくれる?」
「うん」
「そしたらさ、毎日寝坊でもいい?」
ベッドに寝転がったあまねくんが、子供のようにはにかんで言う。
「毎日起きるのお昼過ぎになっちゃうね」
朝が弱いあまねくんは、いつまでも寝てしまうから、1日が半分になってしまいそうだ。
私も、あまねくんの隣にごろっと横たわる。
「でもさ、時間も気にせず寝たい時に寝て、起きたい時に起きて、それが毎日って幸せだよね。学生の夏休みみたい」
「いやぁ、うちはお父さんが夏休みでも朝から起こしに来たからそんな生活は皆無だったよ」
「……想像つくね」
「でしょ? 逆にあまねくんはそんな生活してたんだ?」
「うーん……。実言うと、俺もあんまりないんだよね。小学生の頃には、律が高校受験で、徹夜で勉強してたりしててさ、俺夜食に凄い憧れてたの」
「何それ」
夜食に憧れる小学生のあまねくんを想像したら、可愛すぎて思わず笑ってしまった。
「ホント、ホント。母さんがさ、また美味そうなの用意するんだよね。小学生ながらにそれがどうしても食べたくて、律の真似して遅くまで勉強してた」
「夜食目的で?」
「今考えるとそうだよね。俺が中学上がってから成績よかったのは、多分夜食のおかげ」
あまねくんも、おかしそうにうつ伏せになってゲラゲラ笑っている。
夜食目的で勉強頑張れるなんて、そんな単純な時代があまねくんにもあったのかと微笑ましくなる。
「小学生の頃のあまねくん、可愛かったんだろうなぁ……」
「可愛くないよ」
彼は、枕に顔を埋めて表情を隠す。これは、絶対可愛いな。
「ねぇ、卒業アルバムとかないの?」
「ない」
「嘘じゃん。見せてよ」
「やだよ。子供の頃の写真なんかないもん」
「見たい」
「だめ」
「すんごい可愛いもんだから、見せるの嫌なんでしょ」
少しだけ出ている頬を指でつつけば、くるっとこちらを向いて「可愛くないってば。まどかさん、すぐそうやってからかうんだから」と口を尖らせて言った。
ぐいっと顔が近付いて、あまねくん側に横向きでいた私の唇に、触れるだけのキスをした。
ついばむように、何度もちゅっちゅっと軽く触れる。
「ふふ。何、くすぐったい」
「子供の頃の俺より、まどかさんの方が断然可愛いよ」
そう言う彼は、キスをやめる気などないようで、喋ろうとする私の言葉を遮るかのように続けるものだから、ぎゅっと口を結んだまま笑ってしまう。
「いっぱいキスするの、久しぶりだね」
腰に手を回されてぐっと引き寄せられると、一気に距離が近くなる。
どうしよう、ドキドキする……。
この部屋に入ってからすぐにエアコンをつけなかったため、じっとりと汗が滲みはじめていた。
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