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前進
【52】
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車に乗り込むと「あー、苛々する」とご立腹な奏ちゃん。先程の表情を見ていればわかる。
「まあまあ。やっぱり律くんに似てるからね」
「まだそれ言う?」
あからさまな態度に笑いながら「だって似てるもん。でも、やっぱり律くんは男の子だなぁって思うけど、奏ちゃんは綺麗だよ」と言えば、少し照れたように「何それ……」と呟いた。
「早く雑誌でないかなぁ。買いに行くのに」
「まだ撮影してないから」
奏ちゃんは、そう言ってようやく笑ってくれた。
帰りにスーパーに寄り、奏ちゃんが食べたいものの材料を選んだ。ずっと実家や守屋家に籠っていたから、こんなふうに買い物をするのは久しぶりだった。
いい気分転換になり、心は晴れやかで、とても気持ちがいい。
奏ちゃんを誘ってダリアさんと3人で夕食の支度をする。
奏ちゃんの包丁さばきが危なっかしくて、ダリアさんとひやひやしながら、時々悲鳴を上げた。
「奏ちゃん、普段料理しないの?」
「しない。手が荒れたり怪我したら困るでしょ?」
「うーん……。そうか、そうか? 手のパーツモデルじゃないんだからそこまで気を遣わなくても……」
「モデルは指先まで綺麗じゃなきゃダメなの! そうでしょ、お母さん」
「うん、まあね。でもいくらなんでもここまで料理ができないなんて思ってなかったよ」
ふふっとダリアさんは笑うが、奏ちゃんは面白くなさそうに口を尖らせている。
こんなに綺麗でスタイルがよくて、有名人で人気者の奏ちゃん。そんな彼女が致命的な料理下手だと知って、どこか親近感が湧いてしまう。
完璧な人間なんていないんだなぁなんて思うが、彼女の母親は極めて完璧に近い。
しっかり切れずに3、4枚繋がってしまっているいちょう切りのにんじんを摘まんで、私ももう少し頑張ろうと心の中で呟いた。
7人で食卓を囲むのは初めてだった。そもそも奏ちゃんと食事を共にするのが初めてだったから。
なんだかんだいつも彼女は、ここに帰ってきていても自室に籠っていて私と一緒に食事をしたがらなかった。それが、今では私の隣で一緒に箸をつついている。
不思議な光景だ。
「ねぇ……律が2人いるみたいで落ち着かないんだけど」
あまねくんが、居心地が悪そうに対面している律くんと、私の奥に座る奏ちゃんを交互に見ながら言う。
「今日ね、奏とまどかちゃんがハグしながらイチャイチャしてたから、お母さんてっきり律が帰ってきてるのかと思って焦っちゃったの」
ダリアさんがそう言えば、その場が「え?」と凍りつく。私と奏ちゃんが抱き合っていたのが、相当信じられなかったのだろう。
「いや、あのね。奏ちゃんが大きな仕事が決まったって言うから嬉しくて、ついね」
弁解するかのようにあまねくんに言えば、「でも、抱きつくのはどうなの?」と少し拗ねる彼。
「そうね。お母さんも律との浮気現場に遭遇したのかと思って、見ちゃいけないものを見たかと思ったわ」
ダリアさんもそこまで言わなくてもいいのに……と思った時には「まどかさんに触っていいのは俺だけなんだからね」と律くんに箸の先を向ける。
「待って、何で俺? 俺無関係だけど」
律くんは、顔をしかめて面白くなさそうにしている。完全なるとばっちりなのだから仕方がない。
「奏ちゃん、律くんに似てカッコよくなったしさ、雰囲気も変わって仕事の幅も増えると思うんだ。そしたらあまねくんも嬉しいでしょ?」
少し話題をずらそうとしたのに「律に似てカッコよくなったって、まどかさん律のことカッコいいと思ってるってこと?」なんて、そんな部分だけ拾う。
地雷を踏んでしまったようで、助けを求めるように律くんを見れば、他人事のように笑っている。いや、笑い事じゃない。
「まあまあ。やっぱり律くんに似てるからね」
「まだそれ言う?」
あからさまな態度に笑いながら「だって似てるもん。でも、やっぱり律くんは男の子だなぁって思うけど、奏ちゃんは綺麗だよ」と言えば、少し照れたように「何それ……」と呟いた。
「早く雑誌でないかなぁ。買いに行くのに」
「まだ撮影してないから」
奏ちゃんは、そう言ってようやく笑ってくれた。
帰りにスーパーに寄り、奏ちゃんが食べたいものの材料を選んだ。ずっと実家や守屋家に籠っていたから、こんなふうに買い物をするのは久しぶりだった。
いい気分転換になり、心は晴れやかで、とても気持ちがいい。
奏ちゃんを誘ってダリアさんと3人で夕食の支度をする。
奏ちゃんの包丁さばきが危なっかしくて、ダリアさんとひやひやしながら、時々悲鳴を上げた。
「奏ちゃん、普段料理しないの?」
「しない。手が荒れたり怪我したら困るでしょ?」
「うーん……。そうか、そうか? 手のパーツモデルじゃないんだからそこまで気を遣わなくても……」
「モデルは指先まで綺麗じゃなきゃダメなの! そうでしょ、お母さん」
「うん、まあね。でもいくらなんでもここまで料理ができないなんて思ってなかったよ」
ふふっとダリアさんは笑うが、奏ちゃんは面白くなさそうに口を尖らせている。
こんなに綺麗でスタイルがよくて、有名人で人気者の奏ちゃん。そんな彼女が致命的な料理下手だと知って、どこか親近感が湧いてしまう。
完璧な人間なんていないんだなぁなんて思うが、彼女の母親は極めて完璧に近い。
しっかり切れずに3、4枚繋がってしまっているいちょう切りのにんじんを摘まんで、私ももう少し頑張ろうと心の中で呟いた。
7人で食卓を囲むのは初めてだった。そもそも奏ちゃんと食事を共にするのが初めてだったから。
なんだかんだいつも彼女は、ここに帰ってきていても自室に籠っていて私と一緒に食事をしたがらなかった。それが、今では私の隣で一緒に箸をつついている。
不思議な光景だ。
「ねぇ……律が2人いるみたいで落ち着かないんだけど」
あまねくんが、居心地が悪そうに対面している律くんと、私の奥に座る奏ちゃんを交互に見ながら言う。
「今日ね、奏とまどかちゃんがハグしながらイチャイチャしてたから、お母さんてっきり律が帰ってきてるのかと思って焦っちゃったの」
ダリアさんがそう言えば、その場が「え?」と凍りつく。私と奏ちゃんが抱き合っていたのが、相当信じられなかったのだろう。
「いや、あのね。奏ちゃんが大きな仕事が決まったって言うから嬉しくて、ついね」
弁解するかのようにあまねくんに言えば、「でも、抱きつくのはどうなの?」と少し拗ねる彼。
「そうね。お母さんも律との浮気現場に遭遇したのかと思って、見ちゃいけないものを見たかと思ったわ」
ダリアさんもそこまで言わなくてもいいのに……と思った時には「まどかさんに触っていいのは俺だけなんだからね」と律くんに箸の先を向ける。
「待って、何で俺? 俺無関係だけど」
律くんは、顔をしかめて面白くなさそうにしている。完全なるとばっちりなのだから仕方がない。
「奏ちゃん、律くんに似てカッコよくなったしさ、雰囲気も変わって仕事の幅も増えると思うんだ。そしたらあまねくんも嬉しいでしょ?」
少し話題をずらそうとしたのに「律に似てカッコよくなったって、まどかさん律のことカッコいいと思ってるってこと?」なんて、そんな部分だけ拾う。
地雷を踏んでしまったようで、助けを求めるように律くんを見れば、他人事のように笑っている。いや、笑い事じゃない。
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