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婚姻届
【39】
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私があまねくんと古河先生のもとを訪れたのは1ヶ月くらい前だったと思う。
たった1ヶ月で、周りはこんなに変化するのだと驚かされる。
私もあまねくんと付き合い始めたのは、出会って1ヶ月経たない頃だった。夢中になったら、出会ってから付き合うまでの期間なんて関係ないのは、私にもよくわかる。
とにかく奏ちゃんが幸せになってくれたらそれでいい。
「それで、奏ちゃん……」
「ああ、雑誌ね」
最後まで言う前に、彼女は座席に置いてあったビニール袋から1冊の雑誌を取り出した。
私は、速くなる脈拍を感じながら、ページを開いた。
数ページ捲ると、すぐに現れた奏ちゃん。そんなにすぐいいページが起用されるわけじゃないなんて言っていたのに、1ページに大きく写るカッコいい奏ちゃん。
「わぁ! すごい! カッコいいね……」
口元を押さえて、ページを捲る。今度は男性モデルとのツーショットだ。ボーイッシュな奏ちゃんが、美しい女性らしさを全面に魅せている。
髪の長さもメイクも前ページと変わらない筈なのに、表情とポーズだけでこんなにも印象が変わるものなのかと驚かされる。
普段の奏ちゃんと一緒にいると、彼女は子供っぽさが抜けない少し手のかかる普通の女の子だ。無表情でいることが多いし、時折見せる笑顔も可愛い。
けれど、どの奏ちゃんとも違った。雑誌の写真を見るたび、彼女がプロなのだと思い知らされる。
「奏ちゃんだけど、奏ちゃんじゃないみたい」
綺麗でカッコよくて、ずっと見ていられる。律くんと似た雰囲気は纏っているけれど、女性としてのしなやかさや艶やかさは律くんにはないものだ。
奏ちゃんは、自分の魅せ方を知っている。私は、こんなにも釘付けになってしまうのだから。
1ページに大きく掲載されただけでも凄いことなのに、奏ちゃんのページは5ページにも及んだ。
もうこれは、奏ちゃんの特集ではないか。
「ねぇねぇ。こんなにいっぱい載っちゃって、その内表紙になっちゃったりするんじゃないの?」
「さすがに今のところ、表紙は無理だよ。その雑誌の表紙なんてそんな簡単に任せてもらえない。でも、パリで成功したら可能かもね」
「あ……そろそろそんな時期?」
「うん。ハイブランドのショーが9月23日から始まるの。だから今月の3週目には向こうに行くつもり」
「え!? 早くない!?」
「早くないよ。チャンスはある時に掴まないと。そんなようなこと言ったのあんたじゃなかった?」
そんなこと言ったかな? 妙に大人っぽくなってしまった奏ちゃんに、こちらの方がたじろぐ。
「そうだったかな……」
「適当だな。とにかくショーが終わるまでいるから2週間くらいは行ってくる」
「えー……。そんなに早く新婚旅行行けないよ」
「だから、別に見に来なくてもいいってば。そもそも招待されてないと見れないからね」
「そうなの!?」
「並んでれば見れる時もあるみたいだけど、目的のショーを見れるわけじゃないからね」
「えー……」
私は、項垂れるようにテーブルに伏せる。目的のファッションブランドにツテのある人がいれば……。
「あ! ダリアさんは?」
「ニューヨークのコレクションに何度も出場してるから、同じブランドがパリでも出すってなったら、見に来れるんじゃない?」
「じゃあさ!」
「待って。私がそこのオーディションに受かるかどうかわかんないから」
「ああ、そうか……。じゃあ、どっちみち結果がわかんないとしょんないのか」
「そうだね」
「出たいブランドはあるの?」
「あるよ。とりあえず、この雑誌で起用されているブランドには出ておきたいよね。そしたら、そのブランドの特集でもモデルとして起用される確率上がるし」
奏ちゃんなりにちゃんと考えているのだと感心する。とても、若い子に表紙を奪われたからと落ち込んでいた子と同一人物とは思えない。
やっぱり仕事を頑張る女性っていいなぁ。私も、働いていた時にはこんなふうにキラキラしてたのかなぁ。
すずらんを退職する前の自分を思い返し、あれからもう3ヶ月が経ってしまったのだと少し悲しくなった。
1ヶ月くらい休憩したらなんて思っていたのに、8月はあまねくんとずっと一緒にいたし、働かないことが当たり前になりつつあった。
頑張っている奏ちゃんを見たら、私もそろそろ仕事復帰に向けて頑張らなくちゃとやる気をもらえた気がした。
たった1ヶ月で、周りはこんなに変化するのだと驚かされる。
私もあまねくんと付き合い始めたのは、出会って1ヶ月経たない頃だった。夢中になったら、出会ってから付き合うまでの期間なんて関係ないのは、私にもよくわかる。
とにかく奏ちゃんが幸せになってくれたらそれでいい。
「それで、奏ちゃん……」
「ああ、雑誌ね」
最後まで言う前に、彼女は座席に置いてあったビニール袋から1冊の雑誌を取り出した。
私は、速くなる脈拍を感じながら、ページを開いた。
数ページ捲ると、すぐに現れた奏ちゃん。そんなにすぐいいページが起用されるわけじゃないなんて言っていたのに、1ページに大きく写るカッコいい奏ちゃん。
「わぁ! すごい! カッコいいね……」
口元を押さえて、ページを捲る。今度は男性モデルとのツーショットだ。ボーイッシュな奏ちゃんが、美しい女性らしさを全面に魅せている。
髪の長さもメイクも前ページと変わらない筈なのに、表情とポーズだけでこんなにも印象が変わるものなのかと驚かされる。
普段の奏ちゃんと一緒にいると、彼女は子供っぽさが抜けない少し手のかかる普通の女の子だ。無表情でいることが多いし、時折見せる笑顔も可愛い。
けれど、どの奏ちゃんとも違った。雑誌の写真を見るたび、彼女がプロなのだと思い知らされる。
「奏ちゃんだけど、奏ちゃんじゃないみたい」
綺麗でカッコよくて、ずっと見ていられる。律くんと似た雰囲気は纏っているけれど、女性としてのしなやかさや艶やかさは律くんにはないものだ。
奏ちゃんは、自分の魅せ方を知っている。私は、こんなにも釘付けになってしまうのだから。
1ページに大きく掲載されただけでも凄いことなのに、奏ちゃんのページは5ページにも及んだ。
もうこれは、奏ちゃんの特集ではないか。
「ねぇねぇ。こんなにいっぱい載っちゃって、その内表紙になっちゃったりするんじゃないの?」
「さすがに今のところ、表紙は無理だよ。その雑誌の表紙なんてそんな簡単に任せてもらえない。でも、パリで成功したら可能かもね」
「あ……そろそろそんな時期?」
「うん。ハイブランドのショーが9月23日から始まるの。だから今月の3週目には向こうに行くつもり」
「え!? 早くない!?」
「早くないよ。チャンスはある時に掴まないと。そんなようなこと言ったのあんたじゃなかった?」
そんなこと言ったかな? 妙に大人っぽくなってしまった奏ちゃんに、こちらの方がたじろぐ。
「そうだったかな……」
「適当だな。とにかくショーが終わるまでいるから2週間くらいは行ってくる」
「えー……。そんなに早く新婚旅行行けないよ」
「だから、別に見に来なくてもいいってば。そもそも招待されてないと見れないからね」
「そうなの!?」
「並んでれば見れる時もあるみたいだけど、目的のショーを見れるわけじゃないからね」
「えー……」
私は、項垂れるようにテーブルに伏せる。目的のファッションブランドにツテのある人がいれば……。
「あ! ダリアさんは?」
「ニューヨークのコレクションに何度も出場してるから、同じブランドがパリでも出すってなったら、見に来れるんじゃない?」
「じゃあさ!」
「待って。私がそこのオーディションに受かるかどうかわかんないから」
「ああ、そうか……。じゃあ、どっちみち結果がわかんないとしょんないのか」
「そうだね」
「出たいブランドはあるの?」
「あるよ。とりあえず、この雑誌で起用されているブランドには出ておきたいよね。そしたら、そのブランドの特集でもモデルとして起用される確率上がるし」
奏ちゃんなりにちゃんと考えているのだと感心する。とても、若い子に表紙を奪われたからと落ち込んでいた子と同一人物とは思えない。
やっぱり仕事を頑張る女性っていいなぁ。私も、働いていた時にはこんなふうにキラキラしてたのかなぁ。
すずらんを退職する前の自分を思い返し、あれからもう3ヶ月が経ってしまったのだと少し悲しくなった。
1ヶ月くらい休憩したらなんて思っていたのに、8月はあまねくんとずっと一緒にいたし、働かないことが当たり前になりつつあった。
頑張っている奏ちゃんを見たら、私もそろそろ仕事復帰に向けて頑張らなくちゃとやる気をもらえた気がした。
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