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婚姻届
【38】
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初めて来たカフェだった。こんなところにカフェがあるなんて知らなかった。落ち着いた雰囲気で、若い女の子が好みそうなカフェではない。
彼氏さんの趣味だろうか。そう思いながら店内に入る。ぐるっと店内を見渡すが、奏ちゃんらしき人物は見当たらない。
奥の席に男女2人組がいるが、後ろ姿はナチュラルブラウンのロングストレートの髪が特徴的だった。
左側にはスーツ姿の男性が1人、単行本を広げてコーヒーカップを持っている。手前には明らかに女性3人組だし、店を間違えたか。
その内に店員がやって来て声をかけられた。待ち合わせだと伝えると、奥の席へと案内させられる。
いや、ここはだって人違い……。あれ?
テーブルから数メートル手前で足を止めた。私服だから一瞬気付かなかったが、見覚えのある顔だった。
「古河先生!?」
「あ、こんにちは」
やはり本人だったようで、彼はその場に立ち上がってこちらに頭を下げた。まさか、彼とプライベートで出くわすことがあるだなんて思っていなかった。
女性と2人でいるということは、彼もデートだろうか。悪いところに声をかけちゃったなと申し訳ない気持ちで、女性の方を見る。
「すぐわかった?」
そう言って振り向いたのは、他でもない奏ちゃんだった。
「え!? 誰!? じゃなくて、髪」
「誰って……。ウィッグだよ。あの格好だと声かけられてしょんないんだ。変装ってわけじゃないんだけど、この格好の方がいくらかマシ」
「ああ……そっか。今、人気者だもんね。って、そう言えば彼氏さんて……え? まさかだよね?」
私は、奏ちゃんと古河医師を交互に見やる。しかし、古河医師は立ち上がったまま、「あの、奏ちゃんとお付き合いさせていただいています。古河朋樹と申します」と頭を下げられた。
いやいやいやいや。自己紹介はしてもらわなくても知っているけれども。
「えー……えー? どうしてそうなった?」
私は、素朴な疑問を奏ちゃんに投げ掛けた。
「とりあえず、座れば?」
彼女は、私の視線を逸らし、コーヒーを数口飲んだ。これは、おそらく照れている。
奏ちゃんの恋愛事情なんて聞いたことはないけれど、彼女が照れるくらいだから、彼のことを好きなのだろう。
「いつからですか?」
奏ちゃんは、照れたまま話してくれなさそうなので、彼女の隣に腰を掛け、古河医師に目を向けた。
彼もその場に座り、私の視線を捕らえた。
「以前、一さんが診察に来てくれた時、僕が周と幼い頃の友人だったとわかりましたよね?」
「はい」
「あれから、すぐ周の家に遊びに行ったんです。あの時、連絡先を交換したので」
「あ、行かれたんですね」
そんな話、あまねくんから聞かなかったぞ。一応古河先生は、私の主治医でもあるのに。
「はい。そこにたまたま奏ちゃんがいて、その前に一さんと一緒に会ったことを周に話したんです。不快な思いをさせてしまったので、お詫びに食事をご馳走させてもらうことになりまして……あとは、まあ……自然な流れで」
「はぁ……そうでしたか。そんなこともあるんですね」
「余計なこと言わなくていいのに」
「はは。ごめんね。君のお姉さんになる人だから、ちゃんと説明しておきたくて」
ツンツンしている奏ちゃんに、優しく微笑む古河医師。ほうほう、これは確かにお似合いかもしれない。
精神科医の古河医師なら、奏ちゃんの強気な性格にも上手く対応できるだろう。そして、根はいい子だということにもすぐに気付くはずだ。
人に勘違いされて、邪険にされがちの奏ちゃんにとって、古河医師の優しさは律くんやあまねくんに似たものを感じるかもしれない。
お兄ちゃん大好きな奏ちゃんが、古河医師を好きになったとしても、何もおかしなことではなかった。
「私は、お似合いだと思うよ。よかったね」
「……本当?」
「うん!」
奏ちゃんの目を見て笑いかければ、彼女は少しだけ微笑んでくれた。
彼氏さんの趣味だろうか。そう思いながら店内に入る。ぐるっと店内を見渡すが、奏ちゃんらしき人物は見当たらない。
奥の席に男女2人組がいるが、後ろ姿はナチュラルブラウンのロングストレートの髪が特徴的だった。
左側にはスーツ姿の男性が1人、単行本を広げてコーヒーカップを持っている。手前には明らかに女性3人組だし、店を間違えたか。
その内に店員がやって来て声をかけられた。待ち合わせだと伝えると、奥の席へと案内させられる。
いや、ここはだって人違い……。あれ?
テーブルから数メートル手前で足を止めた。私服だから一瞬気付かなかったが、見覚えのある顔だった。
「古河先生!?」
「あ、こんにちは」
やはり本人だったようで、彼はその場に立ち上がってこちらに頭を下げた。まさか、彼とプライベートで出くわすことがあるだなんて思っていなかった。
女性と2人でいるということは、彼もデートだろうか。悪いところに声をかけちゃったなと申し訳ない気持ちで、女性の方を見る。
「すぐわかった?」
そう言って振り向いたのは、他でもない奏ちゃんだった。
「え!? 誰!? じゃなくて、髪」
「誰って……。ウィッグだよ。あの格好だと声かけられてしょんないんだ。変装ってわけじゃないんだけど、この格好の方がいくらかマシ」
「ああ……そっか。今、人気者だもんね。って、そう言えば彼氏さんて……え? まさかだよね?」
私は、奏ちゃんと古河医師を交互に見やる。しかし、古河医師は立ち上がったまま、「あの、奏ちゃんとお付き合いさせていただいています。古河朋樹と申します」と頭を下げられた。
いやいやいやいや。自己紹介はしてもらわなくても知っているけれども。
「えー……えー? どうしてそうなった?」
私は、素朴な疑問を奏ちゃんに投げ掛けた。
「とりあえず、座れば?」
彼女は、私の視線を逸らし、コーヒーを数口飲んだ。これは、おそらく照れている。
奏ちゃんの恋愛事情なんて聞いたことはないけれど、彼女が照れるくらいだから、彼のことを好きなのだろう。
「いつからですか?」
奏ちゃんは、照れたまま話してくれなさそうなので、彼女の隣に腰を掛け、古河医師に目を向けた。
彼もその場に座り、私の視線を捕らえた。
「以前、一さんが診察に来てくれた時、僕が周と幼い頃の友人だったとわかりましたよね?」
「はい」
「あれから、すぐ周の家に遊びに行ったんです。あの時、連絡先を交換したので」
「あ、行かれたんですね」
そんな話、あまねくんから聞かなかったぞ。一応古河先生は、私の主治医でもあるのに。
「はい。そこにたまたま奏ちゃんがいて、その前に一さんと一緒に会ったことを周に話したんです。不快な思いをさせてしまったので、お詫びに食事をご馳走させてもらうことになりまして……あとは、まあ……自然な流れで」
「はぁ……そうでしたか。そんなこともあるんですね」
「余計なこと言わなくていいのに」
「はは。ごめんね。君のお姉さんになる人だから、ちゃんと説明しておきたくて」
ツンツンしている奏ちゃんに、優しく微笑む古河医師。ほうほう、これは確かにお似合いかもしれない。
精神科医の古河医師なら、奏ちゃんの強気な性格にも上手く対応できるだろう。そして、根はいい子だということにもすぐに気付くはずだ。
人に勘違いされて、邪険にされがちの奏ちゃんにとって、古河医師の優しさは律くんやあまねくんに似たものを感じるかもしれない。
お兄ちゃん大好きな奏ちゃんが、古河医師を好きになったとしても、何もおかしなことではなかった。
「私は、お似合いだと思うよ。よかったね」
「……本当?」
「うん!」
奏ちゃんの目を見て笑いかければ、彼女は少しだけ微笑んでくれた。
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