【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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いざ、潤銘郷へ【3】

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 澪は、最後尾で馬を走らせていた。先程まで隣にいた筈の兵士がいなくなり、変わりに自らの足で走っていた隣郷の姫の姿を見つけて兵士達は目を見開く。

「お前、なぜ……」

「具合が悪そうでしたので」

 そう平然と言ってのけた澪の前には、馬にしなだれる男の姿。

「具合が……?」

 隣を走る兵士、五平ごへいは顔を強ばらせて聞き返す。齢二十五の五平は、黒い短髪で額にはうっすらと汗を滲ませていた。

「ええ。倒れそうだったので、介抱して差し上げたのです」

 澪が表情を変えずに言う。

(嘘だ!)

 澪の周りを囲み、一緒に進む兵士達は全員がそう思い、顔をひきつらせた。
 歩澄の刀を避けた時には偶然かとも思ったが、徳昂を圧倒させたあの動きを見ている兵士達。仮に徳昂が手を抜いて負けた振りをしていたとしても、確実に自分達よりも戦闘力が高いであろうことは認識していた。

「その男をどうするつもりだ……」

「どうするって……潤銘郷に連れて行くのではないのですか? それとも、置いていけと?」

 澪が射るような目線を向けると、右隣にいる五平は「い、いや……」と狼狽えた。
 馬の走る音が、律動よく鳴り響く中、景色も前から後ろへと流れて行く。

(何て眼をする女だ……。俺達を殺るつもりか……)

 男の背中に嫌な汗が伝う。敵郷は倒し、人質同様の姫は虐げられるようにして走らされていた筈。それなのに、いつの間にか隣にいるその女は、お前などいつでも殺せると言っているように見えた。

「五平、姫は?」

 男は聞き覚えのある声に、すぐにそちらを向く。主の瑛梓だ。五平は瑛梓の家来である。下っ端の自分にも日々気にかけてくれるところに慈悲深さを感じ、麗しくも強いその武力への尊敬は言葉には表せない程だった。

「そ、それが……」

 五平が瑛梓と反対側に顔を向ける。当然その先には颯爽と馬を乗りこなす匠閃郷の姫の姿。

「……なぜ、馬に?」

 瑛梓は一瞬目を見開いたが、徳昂との激闘を見せつけられた後だ。馬を乗りこなすくらいでは驚きはしなかった。
 距離を詰めれば、澪の前で馬に揺られる琥太郎こたろうの姿を見つけ、些かそれには驚いた。

「何をした……?」

 歩澄に殺されかけた時には不憫にも思ったが、徳昂と同等に対戦できる相手として警戒すれば、場合によっては許すまじと目を細めた。

「……気を失っているだけです。大きな怪我はさせていません。潤銘郷につく頃には気が付くでしょう」

 澪は、この男に嘘は通用しないと、僅かな殺気を感じてそう答えた。
 恐らく馬を奪ったこの男も瑛梓の家来なのだろうと澪は察する。

「……そうか。馬を奪うのであればそれくらいのことはするか」

 澪が嘘は言っていないと判断した瑛梓は、琥太郎の安否を確認したことで少し冷静さを取り戻した。
 そして、琥太郎の力では当然この女には敵わないだろうと諦めも付く。気絶させた琥太郎をその辺に置いてきたとあれば、この場で斬りかかってやるが、こうして一緒に連れているのだ。少しくらいは大目に見ようと澪の出方を伺った。
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