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いざ、潤銘郷へ【10】
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「匠閃郷出身の民も、今では潤銘郷の民だ。私達には守っていく義務がある」
瑛梓がそう続けると、澪は大きく目を見開いた。澪は、奴隷のように扱われる匠閃郷の民の姿を想像していた。そのため、そのような裕福な暮らしができていることにも、潤銘郷の民と同じように扱っていることにも驚きを隠せなかった。
「貴女方、宗方家の一族がこの郷で何と言われているか知っているか?」
「いえ……」
「無慈悲な統主。貧しい民には食も仕事も与えず、裕福な民からはあるだけ年貢を搾取する。小さな村が滅びようとも、目も向けない」
そこまで言われては、澪には返す言葉がなかった。事実だったからだ。
瑛梓が言うように、五年程前ある小さな村が滅んだ。その日の内に村人全員が死んだのだ。その時とて、統主は他の貧しい村に何の措置もとらなかった。
「事実です。統主とは名ばかりで、政においても家臣に任せきり。家臣は家臣で、統主の目が離れているのをいいことに城内の経費を自由に使っていました」
「……だろうな。その証に側室とその周りについていた家臣だけは、良質なものを身に付けていた」
「……」
「匠閃郷の中には、まだ潤銘郷で暮らす匠閃郷出身の身内が大勢いる。その統主の下で暮らす民達を哀れみ、屋敷まで不安を唱えにくる民が後を絶たない」
「そうでしたか……」
一度潤銘郷に入ってしまえば簡単には出ることはできない。しかし、匠閃郷に置いてきた残りの一族はどうしているのか。自分達ばかりがいい暮らしをし、あやつらは何処かで野垂れ死んでいるのではないか。それを考えると生きた心地がしないのは当然のこと。
澪が住んでいた村人達の中にも、潤銘郷で暮らす民を身内にもつ者がいたかもしれない。そう考えると、村人達を守らなければと勝手に思っていた自分が浅はかに思えた。
「潤銘郷で暮らす民の身内は、匠閃郷で暮らしていても私達の民も同然だ。その民に対して不利益を及ぼすようであれば、それが誰であろうと始末する。本来民を守るべき統主であれば尚更な」
瑛梓の言葉を聞いて、神室家が宗方家一族を皆殺しにしようとした理由がわかった。
城に仕える者も同罪。そう捉え、城内の人間全てを殺したのだろう。
恐らく瑛梓は嘘などついてはいない。匠閃郷の民を守るために、匠閃郷統主を殺したのだ。
しかしそれはあくまでも口実に過ぎない。他にも理由があるやもしれない。歩澄の考えがわからない内は、安易に信用もできない。そう考える澪は、納得はしたが神室家を信じるまでには至らなかった。
瑛梓がそう続けると、澪は大きく目を見開いた。澪は、奴隷のように扱われる匠閃郷の民の姿を想像していた。そのため、そのような裕福な暮らしができていることにも、潤銘郷の民と同じように扱っていることにも驚きを隠せなかった。
「貴女方、宗方家の一族がこの郷で何と言われているか知っているか?」
「いえ……」
「無慈悲な統主。貧しい民には食も仕事も与えず、裕福な民からはあるだけ年貢を搾取する。小さな村が滅びようとも、目も向けない」
そこまで言われては、澪には返す言葉がなかった。事実だったからだ。
瑛梓が言うように、五年程前ある小さな村が滅んだ。その日の内に村人全員が死んだのだ。その時とて、統主は他の貧しい村に何の措置もとらなかった。
「事実です。統主とは名ばかりで、政においても家臣に任せきり。家臣は家臣で、統主の目が離れているのをいいことに城内の経費を自由に使っていました」
「……だろうな。その証に側室とその周りについていた家臣だけは、良質なものを身に付けていた」
「……」
「匠閃郷の中には、まだ潤銘郷で暮らす匠閃郷出身の身内が大勢いる。その統主の下で暮らす民達を哀れみ、屋敷まで不安を唱えにくる民が後を絶たない」
「そうでしたか……」
一度潤銘郷に入ってしまえば簡単には出ることはできない。しかし、匠閃郷に置いてきた残りの一族はどうしているのか。自分達ばかりがいい暮らしをし、あやつらは何処かで野垂れ死んでいるのではないか。それを考えると生きた心地がしないのは当然のこと。
澪が住んでいた村人達の中にも、潤銘郷で暮らす民を身内にもつ者がいたかもしれない。そう考えると、村人達を守らなければと勝手に思っていた自分が浅はかに思えた。
「潤銘郷で暮らす民の身内は、匠閃郷で暮らしていても私達の民も同然だ。その民に対して不利益を及ぼすようであれば、それが誰であろうと始末する。本来民を守るべき統主であれば尚更な」
瑛梓の言葉を聞いて、神室家が宗方家一族を皆殺しにしようとした理由がわかった。
城に仕える者も同罪。そう捉え、城内の人間全てを殺したのだろう。
恐らく瑛梓は嘘などついてはいない。匠閃郷の民を守るために、匠閃郷統主を殺したのだ。
しかしそれはあくまでも口実に過ぎない。他にも理由があるやもしれない。歩澄の考えがわからない内は、安易に信用もできない。そう考える澪は、納得はしたが神室家を信じるまでには至らなかった。
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