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赤髪の少女【10】

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 先程できたばかりだと持ってきたものである。その箱を澪に渡す。

「似合わないと言ったのは……あの色の事だ。お前にはそちらの方が似合う」

 歩澄は照れ隠しに視線を外した。中身を確認した澪は、胸が一杯になった。象牙色の美しい花であった。思わず息を呑んだ。花の周りにいくつもあしらってあるのはおそらく碧空石。梓月が贈ってくれたものよりも遥かに高価な物である。

「ほ、歩澄様……さすがにここまで高価な物はいただけません」

「梓月からの贈り物は受け取って私からの贈り物は突き返すのか?」

 歩澄は不機嫌そうに息をつく。

「そ、そのような事は……」

「それと、その傷の事についてはすまなかった……。本意ではない」

 歩澄は目を伏せ、瞳を揺らした。澪は気にしていたのかと目を見張ったが、直ぐに笑みを溢した。

「わかっておりますよ。私も気にしていません。……大切にしますね」

 何を言ってもこの髪飾りを受け取るしかなさそうだ。組敷かれた詫びの品としていただいておこう。そう澪は思い直すことにした。



 その日から澪は、毎日歩澄に贈られた髪飾りを付けていた。動く度に碧空石が輝いて見える。梓月の髪飾りとは違い、動いた時に垂れた装飾品が揺れないため、動きやすくもあった。

 不意に名前を呼ばれ、振り返るとそこには梓月の姿があった。

「あれ? 新しい髪飾り?」

 梓月はそう澪の髪を見て言ったが、嫌な予感がした。象牙色の花に、散りばめられた碧空石。まるで歩澄が「澪は私のものだ」と言わんばかりに主張しているようだったからだ。

「うん。歩澄様にいただいたの。潤銘郷の象徴だよね? ちょっと照れ臭いけど」

 澪はそう言って笑う。

(潤銘郷のじゃない。だ)

 梓月は平然を装い「……似合うね」と言った。

「ありがとう。梓月くんに貰ったのも大切に使わせてもらうね」

 歩澄にも「たまに変えるのも悪くはないかもな」と言われたのだった。二人の心中など知る由もない澪は、無垢な笑顔を梓月に向けた。

「うん。……歩澄様とは恋仲になったの?」

「え!? ち、違うよ!」

 澪は、あの宵の事を見透かされたかのように顔を真っ赤にさせ、否定した。

「そう。澪には好きな男がいるの?」

 梓月は、ただならぬ澪の反応に眉をひそめ、そう尋ねた。

「……幼い頃からの片想いなの。でも、会えなくて……。梓月くん、知らないかなぁ? 潤銘郷の出身らしいんだけど」

 澪の言葉を聞き、梓月は澪が潤銘郷に入り込んだのはその男を探すためかと察した。

「どんな人?」

 潤銘郷の出身者で匠閃郷へ出向いたことのある者。その年とこの郷を出た者を調べれば粗方検討はつく。梓月は、澪が想う男がどんな男か気になって仕方がなかった。

「それがね、高熱と毒のせいで覚えてないの。ただ、蒼くんって名前だった」

 澪がそう言った途端、梓月は目眩にも似た感覚に陥った。

「……年は?」

「うーん、私よりも少し上だと思うけど正確には……」

「そう。何年前の話?」

「十五年前」

「わかった。少し調べてみるよ」

「本当!?」

「うん。ところで澪、匠閃郷統主の……父親の本名を教えてくれる?」

 梓月の言葉に澪は訳がわからないと言ったように数回瞬きをした。

「本名? ……父の名前は憲明だけど」

「そう、わかった。それじゃ、何か知ることができたら報告する」

 梓月はそう言って笑みを見せた。

(やはりな……。澪は、統主になると役名で呼ばれるようになることを知らないようだな。幼い頃より郷の情勢について触れる機会がなかったのか。まずいな……)

 当然重臣である梓月は、歩澄の本名が蒼であることを知っている。そして、いつぞや歩澄が「匠閃郷には赤い髪をした女が生まれる村があるのだろうか」と調べ事をしていた。
 全ての辻褄が合ってしまった。恐らく気付いていないのは本人達だけ。梓月は確証を得るため十五年前の帳簿を調べようと思うものの、そうするまでもないことは目に見えていた。

 この事実、暫くは澪に気付かれないよう黙っていようと梓月は思った。
 ただ、いつの間に二人が髪飾りをやり取りするような仲になったのか。梓月には見当もつかないことであった。

 そんな梓月の考えとは裏腹に、運命は少しずつ動き出す。
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