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赤髪の少女【28】

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 これからまた客がくると言った歩澄は、澪の頭を優しく撫でてから大広間へと向かっていった。

(昨日に続き今日も客人が来ているのか……。梓乃さんみたいな美人なら嫌だな)

 澪は、客人が何者であるかを聞いていなかった。城内が何故かぴりぴりとしており、皆気を張っているようだった。

(どんなお客様だろうか……)

 少しばかり気になりつつ廊下を歩く。目の前から男が歩いてきたため、道を開けた。その時、腰元の刀に目がいった。

「え?」

 思わず声が漏れた。一瞬見えたその鍔は玄浬だった。勧玄が何よりも大切にしていた刀を見間違える筈がなかった。

 なぜ、こんなところに。そう思い動きを止めた。その刹那、澪の声に反応した男が顔を見て「……りょう?」と声を掛けた。

 久々に呼ばれたその呼び方に、ばっと上を向く。藍色の髪に深翠の瞳。その出で立ちは、勧玄の面影を纏っていた。

「……え?」

「やっぱり、りょうだろ? 俺のこと忘れたのか?」

「……空穏くおん?」

「お! 覚えてんじゃん。久しぶりだなぁ!」

 そう言って空穏は、わしゃわしゃと澪の髪を粗っぽく撫でた。

「わっ……」

 その仕草は、勧玄によく似ていてうっすらと視界が滲む。

「しっかし、たった四年で変わったな……。昔はなんていうか、その……」

「化け物」

「う……そこまで言ってないだろ」

「いいよ。よく言われた。もう慣れてる」

 そう言って澪は笑ったが、慣れる筈などなかった。九重のいた小菅村では、村人達は皆優しかった。しかし、時に村を出て走りに行った際には、無理に発達した澪の体を見ては化け物だと言って、石を投げつけられたこともあったのだ。
 自分の体は他の者とは違う。そう知った時の悲しみといったらなかった。着物を着ていれば、他の女人と同じように見える体になった。それは勧玄のおかげに違いなかった。

「それよりどうしてここに?」

 澪がそう尋ねると「それは俺が聞きたい」そう言って顔をしかめた。

「私はその……」

 空穏には、匠閃郷の姫であることは言っていなかった。なんて言い訳をしたらいいか迷っていると「まあ、いいわ。事情があるなら……」と言って深くは聞かなかった。
 こういったところが勧玄と似ている、澪はそう思った。

「俺は今、洸烈郷統主の重臣として洸烈城にいるんだ」

「え……?」

「今日は、潤銘郷の統主に今後の統主評定の予定を伺いにきたんだ。まあ、交流も兼ねてだが」

 空穏の言葉を聞いて、澪は息を飲んだ。統主の重臣ということは、瑛梓や梓月と同じ位置にいることを差している。
 つまり、現段階では敵である。

「そう……なんだ……」

「澪がここにいるってことは、潤銘郷についたのか?」

 空穏は、責めるような物言いではなかったが、澪は少しだけ胸が痛んだ。

「そうじゃないんだけど……あの、勧玄様と私の刀を探してて……。それで、それ……」

 そう言って澪は玄浬を指差した。

「ああ……。去年盗まれてからようやく見つけて取り返したんだ」

「そう……。ごめん、勧玄様のこと……」

「ん? ああ、村の人達から聞いたよ」

「本当にごめん!」

 勧玄の最期の顔が鮮明に蘇り、澪の目から涙が溢れた。

「澪のせいじゃない。謝るな。まさかじいちゃんがやられるとは思ってなかったけどな」

 勧玄の孫である空穏は、少しだけ悲しそうに眉を下げた。
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