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失われた村【6】
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匠閃郷へ入り、更に進む。草原を抜け、町に入ると門番が立っており、馬を止められた。ここから先は、他郷の入郷を禁止している。
「刀の依頼かな?」
白髭を長く伸ばした老人は歩澄に声をかけた。一目で潤銘郷の人間だとわかったのだろう。腰に差した刀を一瞥し「依頼ならここで賜ります故」と言った。
「こんにちは、善知鳥さん」
澪は馬から降り、老人に声をかけた。
「ありゃ……なんだ、澪ちゃんかい?」
老人は、皺の多い皮膚を引き上げ、驚いたように目を見開いた。
「うん。久しぶり」
「何だい、何だい! 急に出てったきり戻っちゃ来ねぇから皆心配してただよ!」
澪が笑いかけると、老人は嬉しそうに声を張り上げて笑みを溢した。
この老人、善知鳥は匠閃郷全般の仕事を取り締まる役人である。物造りに長けている匠閃郷へは建造物や武具、家具など様々な依頼が届く。この場で依頼を受け、其々の匠への仲介を行うのだ。
当然九重の元にも鍛刀の依頼は相次ぎ、その度に善知鳥が仲介に入っている。小菅村に澪がやってきた日より、九重から紹介を受け、村人と同様八年間世話になった人物である。
「急に出ていってごめん。久しぶりに村の皆に会いにきたの」
「そうかい! そうだったかい! そりゃ喜ぶよー! お松ちゃんなんかね、毎日のように澪ちゃん、澪ちゃん言ってんだ」
善知鳥は早口にそう言った。お松ちゃんとは、小菅村村長の妻である。九重と勧玄が亡くなった日より、近くで澪を支え続けた人物だ。
「会えるの楽しみ! 今日はね、お客さんを連れてきたの。……入れてもらえるかなぁ?」
澪は眉を下げて顔の前で手を合わせた。
「お客さんって……この方は潤銘郷の人じゃあないかい?」
馬から降りて澪の隣に並んだ歩澄に目を向けてから善知鳥は言った。
「うん。そうなの。潤銘郷で知り合ったの」
「潤銘郷で……? 何たって……あそこはここよりも入るのに難しいだろうに」
「そうなんだけどね、訳あって。命を救ってもらったり……恩人さんなの」
澪はいくつか理由を考えたが、そう答えた。嘘ではない。実際に助けたのは梓月と楊ではあるが、潤銘郷の人間に助けられたことには変わりない。
「はぁー、そうかいそうかい。それはどうもありがとうございました」
そう言って善知鳥は歩澄に深々と頭を下げた。その姿に、歩澄は少しだけ表情を緩めた。
「しっかし、こんなに高貴なお方と知り合いとはねぇ。澪ちゃんもやりおるねぇ」
どんなに質素な衣装に着替えようとも、生まれもった歩澄の育ちの良さは佇まいに現れてしまう。善知鳥が一目見て高貴の人間であると見抜くのは自然な事であった。
「う、うん。いい人に助けられてよかったよ。皆にも紹介したくて……」
「澪ちゃんの命の恩人とあっちゃ、入れないわけにはいかないよ! すぐに銀さんを呼んでくるから待ってな!」
持っていた帳簿を握りしめ、善知鳥は背を向ける。銀さんとは小菅村の村長のことである。同じ程の年である二人は仲が良く、度々共に酒を飲んでは昔の思い出を語るのを生き甲斐にしている程である。
「善知鳥さん! いいよ、いいよ! まだお勤め中でしょ? 直接小菅村に行くから」
澪が慌てて引き留めると「そ、そうかい?」と悄気た顔をした。
「善知鳥さんもお勤めが終わったら来てね。改めて紹介するから」
澪がそう笑うと、善知鳥はにんまりと笑い何度も頷いた。
善知鳥とその仲間達に見送られ、澪と歩澄は小菅村を急いだ。
「お前はえらく気に入られているのだな」
先程の善知鳥の様子を思い出し、歩澄は歯を出して笑った。
「私は孫程の年ですからね。祖父とも仲が良かったですし」
「そうか。お前はこの村では愛されて育ったのだな」
「はい! ここの村人達は皆いい人達ですよ!」
澪は久しぶりに訪れた見慣れた光景を目にし、気持ちを昂らせていた。
「刀の依頼かな?」
白髭を長く伸ばした老人は歩澄に声をかけた。一目で潤銘郷の人間だとわかったのだろう。腰に差した刀を一瞥し「依頼ならここで賜ります故」と言った。
「こんにちは、善知鳥さん」
澪は馬から降り、老人に声をかけた。
「ありゃ……なんだ、澪ちゃんかい?」
老人は、皺の多い皮膚を引き上げ、驚いたように目を見開いた。
「うん。久しぶり」
「何だい、何だい! 急に出てったきり戻っちゃ来ねぇから皆心配してただよ!」
澪が笑いかけると、老人は嬉しそうに声を張り上げて笑みを溢した。
この老人、善知鳥は匠閃郷全般の仕事を取り締まる役人である。物造りに長けている匠閃郷へは建造物や武具、家具など様々な依頼が届く。この場で依頼を受け、其々の匠への仲介を行うのだ。
当然九重の元にも鍛刀の依頼は相次ぎ、その度に善知鳥が仲介に入っている。小菅村に澪がやってきた日より、九重から紹介を受け、村人と同様八年間世話になった人物である。
「急に出ていってごめん。久しぶりに村の皆に会いにきたの」
「そうかい! そうだったかい! そりゃ喜ぶよー! お松ちゃんなんかね、毎日のように澪ちゃん、澪ちゃん言ってんだ」
善知鳥は早口にそう言った。お松ちゃんとは、小菅村村長の妻である。九重と勧玄が亡くなった日より、近くで澪を支え続けた人物だ。
「会えるの楽しみ! 今日はね、お客さんを連れてきたの。……入れてもらえるかなぁ?」
澪は眉を下げて顔の前で手を合わせた。
「お客さんって……この方は潤銘郷の人じゃあないかい?」
馬から降りて澪の隣に並んだ歩澄に目を向けてから善知鳥は言った。
「うん。そうなの。潤銘郷で知り合ったの」
「潤銘郷で……? 何たって……あそこはここよりも入るのに難しいだろうに」
「そうなんだけどね、訳あって。命を救ってもらったり……恩人さんなの」
澪はいくつか理由を考えたが、そう答えた。嘘ではない。実際に助けたのは梓月と楊ではあるが、潤銘郷の人間に助けられたことには変わりない。
「はぁー、そうかいそうかい。それはどうもありがとうございました」
そう言って善知鳥は歩澄に深々と頭を下げた。その姿に、歩澄は少しだけ表情を緩めた。
「しっかし、こんなに高貴なお方と知り合いとはねぇ。澪ちゃんもやりおるねぇ」
どんなに質素な衣装に着替えようとも、生まれもった歩澄の育ちの良さは佇まいに現れてしまう。善知鳥が一目見て高貴の人間であると見抜くのは自然な事であった。
「う、うん。いい人に助けられてよかったよ。皆にも紹介したくて……」
「澪ちゃんの命の恩人とあっちゃ、入れないわけにはいかないよ! すぐに銀さんを呼んでくるから待ってな!」
持っていた帳簿を握りしめ、善知鳥は背を向ける。銀さんとは小菅村の村長のことである。同じ程の年である二人は仲が良く、度々共に酒を飲んでは昔の思い出を語るのを生き甲斐にしている程である。
「善知鳥さん! いいよ、いいよ! まだお勤め中でしょ? 直接小菅村に行くから」
澪が慌てて引き留めると「そ、そうかい?」と悄気た顔をした。
「善知鳥さんもお勤めが終わったら来てね。改めて紹介するから」
澪がそう笑うと、善知鳥はにんまりと笑い何度も頷いた。
善知鳥とその仲間達に見送られ、澪と歩澄は小菅村を急いだ。
「お前はえらく気に入られているのだな」
先程の善知鳥の様子を思い出し、歩澄は歯を出して笑った。
「私は孫程の年ですからね。祖父とも仲が良かったですし」
「そうか。お前はこの村では愛されて育ったのだな」
「はい! ここの村人達は皆いい人達ですよ!」
澪は久しぶりに訪れた見慣れた光景を目にし、気持ちを昂らせていた。
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