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失われた村【16】
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「わ、わかっておる……。そのような怖い目で見るな。余は反省しているのだ……」
千依のことを言っているのだと、皇成にも理解ができた。前回、あの場では何とか誤魔化すこともできたが、燈獅子のことも嘘だと気付かれ、もう逃げ場はないとようやく観念した。
「頼寿は?」
歩澄は更に皇成の隣にいた頼寿に目を向けた。
「こ、心より反省しております。私が至らないばかりに千依殿を危険な役目へと追いやってしまった……」
頼寿は慌てて畳に額を擦らせてそう言った。
「至らない? まるで千依が自らの意思で間者になったような口振りだな」
歩澄は冷静にそう言った。
「そ、それは……」
(まずい……。俺が千依に潤銘郷を探らせたことが公になれば、俺の首が刎ねられる)
皇成から、歩澄が千依の首を持ってきたと聞かされた時、頼寿はこの世のものとは思えぬ恐怖を感じた。冷酷非道な神室歩澄は躊躇なく人を殺める。
ただでさえ、嫁に出すのを渋っていたのだ。秀虎の妹を利用したとあれば、歩澄だけでなく秀虎に殺されたとておかしくはない。
頼寿は、何とか命だけは助けてもらおうと思い付く限りの言い訳を頭に浮かべた。しかし、頼寿が言葉を発するよりも先に「秀虎、千依は打ち首になる前の宵、お前に何と言った?」と歩澄の声が聞こえた。
その瞬間、ぶわっと頼寿の全身の毛穴が開いた。
「はい、歩澄様。私は兄妹としての最後の宵、事実を問いただしました。真実を隠すことは頼寿のためにならぬと。そこでようやく白状致しました。頼寿に軍義の内容を密告するよう命じられたと」
秀虎は、静かにそう言った。皇成と頼寿は目を泳がせ、手に汗を握る。周りの家来達は、万が一歩澄が刀を抜いた時に備え、ぐっと奥歯を噛み締めた。
「だ、そうだ。それは真か、頼寿」
「それは……」
「嘘を吐けばこの場で斬る」
「の、のう……神室の。そのような物騒なことを言わず、良好な関係を築こうではないか」
皇成は、頼寿を庇うように額に汗を滲ませながら言った。頼寿が粗相をすれば当たり散らすこともあるが、皇成にとっても頼寿は身を挺して己を守る従順な家来である。易々と殺させるわけにはいかなかった。
「良好な関係とな。……私も当初はそのつもりでいた。しかし、駒にするためだけに千依を娶り、間者として潤銘郷へ戻し、挙げ句燈獅子を囮にして我等の首をとろうと目論む始末。奇襲をかけられてもおかしくはないこの状況でまだしらを切るか」
ドッと歩澄の殺気が膨れ上がり、皇成と頼寿はひぃっと小さな悲鳴を上げた。
「も、申し訳ございません! 全て白状致します! 千依殿には、私めが命を下しました! 全ては皇成様を、栄泰郷を守るためでございます! どうか私だけの命で勘弁いただけないでしょうか」
このままでは、自分諸共皇成まで殺されてしまう。そう危惧した頼寿は、ようやく事の重大さを受け入れ、尚も頭を下げた。
「お前、千依とお前の命が同等と申すか?」
歩澄は、青碧の瞳を妖しく光らせた。
「そ、そのようなことは……」
「此度の件、一歩間違えば潤銘郷と栄泰郷の戦争となっていてもおかしくはなかったのだ。王の座を狙うという安易な名目で私の首をとろうというのならかまわん。いつでも襲撃してくるがいい」
歩澄の言葉に皇成と頼寿はぴくりと反応し、顔を上げた。
「しかし、双方の民を巻き込んでみろ。ただではおかぬ」
更に殺気を強めた歩澄に、皇成と頼寿は跳び上がった。
千依のことを言っているのだと、皇成にも理解ができた。前回、あの場では何とか誤魔化すこともできたが、燈獅子のことも嘘だと気付かれ、もう逃げ場はないとようやく観念した。
「頼寿は?」
歩澄は更に皇成の隣にいた頼寿に目を向けた。
「こ、心より反省しております。私が至らないばかりに千依殿を危険な役目へと追いやってしまった……」
頼寿は慌てて畳に額を擦らせてそう言った。
「至らない? まるで千依が自らの意思で間者になったような口振りだな」
歩澄は冷静にそう言った。
「そ、それは……」
(まずい……。俺が千依に潤銘郷を探らせたことが公になれば、俺の首が刎ねられる)
皇成から、歩澄が千依の首を持ってきたと聞かされた時、頼寿はこの世のものとは思えぬ恐怖を感じた。冷酷非道な神室歩澄は躊躇なく人を殺める。
ただでさえ、嫁に出すのを渋っていたのだ。秀虎の妹を利用したとあれば、歩澄だけでなく秀虎に殺されたとておかしくはない。
頼寿は、何とか命だけは助けてもらおうと思い付く限りの言い訳を頭に浮かべた。しかし、頼寿が言葉を発するよりも先に「秀虎、千依は打ち首になる前の宵、お前に何と言った?」と歩澄の声が聞こえた。
その瞬間、ぶわっと頼寿の全身の毛穴が開いた。
「はい、歩澄様。私は兄妹としての最後の宵、事実を問いただしました。真実を隠すことは頼寿のためにならぬと。そこでようやく白状致しました。頼寿に軍義の内容を密告するよう命じられたと」
秀虎は、静かにそう言った。皇成と頼寿は目を泳がせ、手に汗を握る。周りの家来達は、万が一歩澄が刀を抜いた時に備え、ぐっと奥歯を噛み締めた。
「だ、そうだ。それは真か、頼寿」
「それは……」
「嘘を吐けばこの場で斬る」
「の、のう……神室の。そのような物騒なことを言わず、良好な関係を築こうではないか」
皇成は、頼寿を庇うように額に汗を滲ませながら言った。頼寿が粗相をすれば当たり散らすこともあるが、皇成にとっても頼寿は身を挺して己を守る従順な家来である。易々と殺させるわけにはいかなかった。
「良好な関係とな。……私も当初はそのつもりでいた。しかし、駒にするためだけに千依を娶り、間者として潤銘郷へ戻し、挙げ句燈獅子を囮にして我等の首をとろうと目論む始末。奇襲をかけられてもおかしくはないこの状況でまだしらを切るか」
ドッと歩澄の殺気が膨れ上がり、皇成と頼寿はひぃっと小さな悲鳴を上げた。
「も、申し訳ございません! 全て白状致します! 千依殿には、私めが命を下しました! 全ては皇成様を、栄泰郷を守るためでございます! どうか私だけの命で勘弁いただけないでしょうか」
このままでは、自分諸共皇成まで殺されてしまう。そう危惧した頼寿は、ようやく事の重大さを受け入れ、尚も頭を下げた。
「お前、千依とお前の命が同等と申すか?」
歩澄は、青碧の瞳を妖しく光らせた。
「そ、そのようなことは……」
「此度の件、一歩間違えば潤銘郷と栄泰郷の戦争となっていてもおかしくはなかったのだ。王の座を狙うという安易な名目で私の首をとろうというのならかまわん。いつでも襲撃してくるがいい」
歩澄の言葉に皇成と頼寿はぴくりと反応し、顔を上げた。
「しかし、双方の民を巻き込んでみろ。ただではおかぬ」
更に殺気を強めた歩澄に、皇成と頼寿は跳び上がった。
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