【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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豊潤な郷【39】

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ーー 一月後

 剣が体に馴染んできた頃、澪の動きは楊が思わず歓喜の息を溢す程、しなやかに時に力強く成長を遂げた。
 どうしても時期が合わなかった腕の動きも、今では何度やっても全く同じ動きが出きるほど完璧となった。まるで剣が澪に合わせているかのようにも見えた。

「どうでしょうか」

「うん。完璧だ。いいかい、剣舞は恐らくお前さんにしか舞うことができない。美しく艶やかに舞を披露する女人はいくらでも存在する。しかし、この国で剣を使って勇ましく、力強く舞う事ができるのはお前さんだけだ。私はこれを歩澄にも見せたことがない」

「え……」

「見せる必要も、覚えさせる必要もないからだよ。この剣はお前さんに預けるよ。その舞はいつか必要になる。その時を見極めるんだね」

「必要……? 舞がですか?」

「ああ。その時期を見極め、見事に扱えたなら……お前さんの目的を果たす日も近いかもしれないねぇ」

「あの……どうして剣舞が……?」

 澪は、顔をしかめて首を捻る。まるで未来予想図が見えているかのような楊の物言いに、不思議な感覚を抱いた。
 楊は時折こうして予言でもするかのような言葉を選ぶ。それが澪にはいつも不思議でならない。しかし、歩澄も重臣達もそれほど気にならない様子なのだ。それどころか面白いものでも見たかのような表情すら浮かべる。それでも澪には同じように振る舞う事などできそうになかった。

「お前さんが気にするのはそんなことじゃないよ。そろそろ歩澄が帰ってくるころだ。夢中で稽古に励んでいる内は寂しさも忘れていただろうが、今日で稽古も終わりだよ。匠閃郷の事も気になってくるだろう」

「は、はい……。先日歩澄様から文が届きました。復興は順調に進んでいる様子です。匠閃郷の比較的裕福な村人達も協力してくれているようで、毎日大勢の人が集まっては次々と家屋や水車が建て直されていくと書かれていました」

「はっは。さすがは匠閃郷だね。これが他の郷ならこうはいかないよ。何年かかるかわかったもんじゃない。村人達の殆どが職人だからね。仕事もなく生活も苦しく業を煮やしていた者達が活気に満ちて動き始めたら、そりゃ作業も進むだろうね」

「それは……村人達にとっても良いことなんですよね?」

「当たり前じゃないか。目的のない人間なんて廃人も同然さ。それが一度役割を与えてやり、一丸となれば水を得た魚のように力がみなぎるもの。村が復興を遂げれば、今後は自主的に村人達が自分達の生活をより良いものにしていくことを考え、行動していくだろうさ」

 相変わらず顎の髭を何度も触っている楊は、何故か嬉しそうだった。口角を上げ、そびえ立つ潤銘城を見上げていた。


 楊に礼を言ってその場を後にした澪は、その足で五平と琥太郎の元に向かった。同じ城内にいても、ここ暫くは顔を合わせることがなかった。
 琥太郎も五平も、稽古に打ち込んでいたからだ。澪が散々稽古が足りないと口煩く言ってきた二人だが、本人達は其なりに修行に励んでいた。
 秀虎の直臣達が更に稽古を強化させたことで、城全体の士気も高まっていた。加えて歩澄が澪が二人に目をかけているならばと、二人の強化も命じたのだ。それにより、師匠がいなかった二人にも秀虎が信頼する直臣が稽古につくようになり、朝から晩まで走り込んでは木刀を振るっていた。

 その様子を秀虎から聞かされていた澪は、己が剣舞を習得するまでの間、邪魔をせぬようにと自ら距離を置いていた。
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