【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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強者の郷【10】

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 惚れ惚れするような美しく無駄のない動きであった。楽器の音に合わせ、まるで朱々もその一部であるかのような動き。元々抜きん出た美貌も相まって余計に美しく見えた。

 最後まで見終えた澪は、何となく懐かしい気持ちになった。舞を踊ることを楽しいと感じた日もあった。あんなにも伽代を憎む前は、共に過ごす日々を幸せだと感じたこともあった。いつの間にか思い出せなくなっていた優しい頃の伽代の笑顔が蘇り、ほんの少しだけ泣きそうになる。
 それを我慢するかのように口をすぼめて長めに息を吐いた。

「どうかしたか?」

 その様子に気付いた歩澄が澪を気にかける。

「いえ。ほんの少し、昔を思い出しまして」

「匠閃郷の復興に行っている間、銀次から聞いた。お前の母親はただの町娘ではなかったのだな」

「……はい。匠閃郷一と呼ばれた芸者だったそうです。私には詳細はわかりません故、今では歩澄様の方が匠閃城について詳しいかもしれませんね」

 そう言って笑みを浮かべた澪はいつもと変わらず、歩澄はほっと息をついた。

「私もいつかお前の舞が見たいものだ」

「私の……ですか?」

「ああ」

「歩澄様がお望みであればいくらでも披露しますよ」

 ふふっと笑ってみせる澪。憲明は澪が幼い頃、先程の煌明のように舞を見せてくれとよくせがんだ。今になって思えば、あの頃の憲明は良き父親であった。
 伽代が変わらず、澪もあのまま女らしく成長していたならばあの幸せは続いたのだろうかと少しだけ疑問が沸いた。

「それは楽しみだ」

 本当に期待をしているのであろう目を向けられ、少々照れ臭くもあった。いつか披露する日が来たら、歩澄の前でだけは全力で舞を踊ってみせようと澪は思った。

 すっかり出来上がっている煌明は、手を叩いて朱々の舞を褒め称えた。舞を踊り終えて、煌明の隣に腰掛けた朱々の腰を引き寄せ、にんまりと笑った。
 その笑顔に秀虎も澪もゾッと背筋に悪寒が走ったが、歩澄だけはふっと笑みを溢す。

「お客様が見ています。旦那様、お戯れは後からですよ」

 朱々はそう言って右手の人差し指を、ゆっくり煌明の唇に押し当てた。それさえも優雅で、思わず吐息が溢れるほど。
 軽やかに身を翻して煌明から間をとった朱々。するとその刹那、障子が開いて一人の家来が朱々に近寄った。
 耳元で何かを囁いた瞬間、その美しい顔は、鬼の形相に変わった。

 血相を変えて家来と共に客間を出ていく朱々。障子が閉まったのを確認すると、歩澄は腰を上げた。

「……歩澄様?」

「朱々の後を追う」

「え……?」

「見たであろう、あの顔を」

 困惑する澪に、「後を追うのであれば私が」と更に秀虎が腰を上げた。

「よい。私が直接行って確かめる。お前達は煌明に勘づかれないよう、ここに残ってくれ。家来に何か聞かれたら厠に言ったとでも言っておけ」

 それだけ言い残して歩澄はさっと立ち上がって背を向けた。
 その背中を見送った二人は顔を見合わす。

「秀虎様には歩澄様の言う確証の意味がわかりますか?」

「いや……全く。ただ、あの正室には何か違和感は抱いた」

「私もです……でもそれが何かまでは……」

「気付けば儲けと歩澄様は言っていた。おそらく、その確証が得られれば、洸烈郷の弱味を握れるか、勝算が得られるか……だとは思うがな」

「え!? 朱々様をつけていったのにですか……」

「ああ。俺にも信じられないが、煌明様の強さの裏には朱々殿が関係しているということだ」

「はぁ……」

「歩澄様がお前のことで一喜一憂しているようにな」

「え!?」

 翠穣城まで澪を追って来た歩澄の様子を思い出し、澪は顔を赤らめた。
 両手で頬を覆う様子を見てふっと息を漏らすと「装飾品などと言っていたが、歩澄様が朱々殿に目を向けたとなるとあの二人には何かあるのだ」と秀虎は続けた。
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