【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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強者の郷【11】

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 歩澄は、気付かれないよう気配を消して朱々と家来の後を追った。
 普段から腕の立つ男達と刀を交えている歩澄にとっては、朱々を追うことなど容易かった。
 洸烈城の作りは、昔ながらの匠閃城と似ていた。長い木の廊下を進む。庭には松の木が植えてあり、樹齢が長いことを思わせる立派なものであった。
 松脂の香りがする中、適度な間を取り追いかける。足音が止まったところでさっと柱の影に身を隠すと聞き耳を立てた。

「一体どこの女だっていうの!?」

(……女?)

 歩澄は顔をしかめる。朱々の甲高い声は続いた。

「最近どうにもおかしいと思ったら、やっぱりあの人!」

「そ、それが……何やら側室に迎えるなどという噂もあるようでして……」

「側室!? なんて図々しいんだい! どこの女よ! 連れてきな!」

 乱れるような大声に、歩澄はぶるっと鳥肌が立った。

(……女とは恐ろしいな。側室をとるかとらないかであのように憤怒するとは……。匠閃城が廃城となっていくわけだ……)

「そ、それが勇五郎のとこの娘だそうで……」

「勇五郎!? って、そりゃあ質屋の娘じゃないか!」

「は、はい! あの斯くも美しいと評判のけいでございます……」

「おだまり! 誰が美しいって!? わたくしとその女とどっちが美しいって言うんだい!」

「そ、それはもちろん奥方様にございます!」

「ふん! そりゃそうだろうね。私はね、この美貌を保つのにはそれなりの努力をしてんのさ! たかだか金貸しの娘に絆されてるなんてあの馬鹿亭主……」

 ギリギリと歯を食い縛る音まで聞こえてきそうで、歩澄は口を塞いで笑いを堪えた。

(馬鹿亭主とな……恐れられている洸烈郷統主が馬鹿亭主と呼ばれては仕舞いだな)

「し、しかし、奥方様! 金貸しの勇五郎といや、有名ですよ。そ、側室へとなればそれなりの財が……」

「馬鹿だね! お前も大馬鹿者だよ! 娶るとなりゃ、こっちが結納金を弾むに決まってんだろうが! 由緒正しき家柄の娘だって気に入らないのに金貸しの娘なんて言語道断だよ! 汚れた血が甲斐家に入ってくるなんて私は許さないよ!」

「それは……そうですが……それでも金貸しと縁ができれば今後もそれなりに財を得やすくなるかと……」

「財なんかどうだっていいんだよ! 言っておくけどここは洸烈郷だよ! 金にばかり執着している潤銘郷とは違うんだ! 年貢だって昨年から増やしたし、うちが管理してる金貸しからの譲渡もあるんだ! そんなところに頼らなきゃならないほどうちは落ちぶれちゃいないよ!」

(結構な言われようだ。金にばかり執着しているとな……)

 歩澄は、益々面白いといった具合に、頬を緩めた。

「そんなことよりも、そんな女にこの洸烈城の経費を使われちゃたまったもんじゃないよ! 自分で金の管理も政もできないくせに! 腕っぷしばかりの統主が聞いて呆れるよ!」

 その言葉に歩澄ははっと顔を上げた。

「側室を迎えるってんならね、私は今後一切政には手を出さないよ!」

「そ、それは困ります……! こ、煌明様の独裁的なお考えでは、直ぐに郷が滅びてしまいます!」

「そうだろうね! まったく……私はね、財も郷も手に入ると聞いたからここに嫁いだんだよ! こんなに郷の管理もできない出来損ないだなんて思ってもみなかった! 
 私には寄ってくるいい男なんてわんさかいたんだよ! それを蹴ってここに嫁いだんだ! わかるかい! こんなにも郷の経済を回して、民達の相談事に耳を傾けて、実質郷を統治してんのが誰だかわかってんのかい!? あんな男、私だけ愛していればいいのよ! 他の女を側に置こうなんて……」

 歩澄はにやりと口角を上げた。

(そういうことか……。名ばかりの統主だったわけだな。政に関与していたのは煌明ではなく、朱々の方であったか。ともすれば、今後王となってもこの女が指揮をとるというわけか……。っ……)

 歩澄は咄嗟に気配を感じて、近くの部屋に入り込んだ。禍々しい空気が近付いてきたのだ。
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