214 / 275
強者の郷【12】
しおりを挟む
「こんなところにいたのか。朱々よ、探したぞ」
「……旦那様」
声から察するに、煌明であった。郷を統治しているのが朱々であっても、煌明から漏れる殺気と強さは本物である。
「また舞を見せてくれ。家来達は皆、酒が弱くてつまらん」
「お客様をそっちのけでいらしたのですか?」
「む……歩澄は置き土産に更に酒をと家来に届ける手配に出ているそうでな……」
「まあ……そんなことまで統主自ら?」
歩澄は部屋の中で息を潜め、秀虎が上手く言ってくれたようだと安堵する。
「のう。そんなもの家来にさせればよいものを」
「……貴方はいつもそうやって自分では何もなさろうとしませんからね」
「む……? 何を怒っている?」
「少しは他の統主を見習ったらいかがですか! 村のことも郷のことも全てほったらかしで私に押し付けて! 貴方のしていることといったら専ら刀を振るうか大会を見るだけではありませんか!」
「そ、そのように怒鳴るでない……。俺もお前には苦労をかけていると……」
「思ってないでしょう! 先月もその前の月だってそう! 私に舞を見せろですって! 冗談じゃありませんよ!」
「す、すまない……。そ、そうだ! 反物を買ってやろう! 歩澄が来ていることだし、潤銘郷でしか手に入らない高価な……」
「その金はどこからですか? 私の管理している経費からですか? それとも……勇五郎じゃないでしょうね」
「な!? ゆ、ゆゆゆゆゆ勇五郎!? ち、違う! 決してそのような……」
「明らかに動揺してるじゃありませんか! あそこの娘に手を出したそうですね!」
「ご、誤解だ! な、なあ……朱々……そんなに怒らないでくれよう……」
ご機嫌取りを始めた煌明に、吹き出しそうになるのをぐっと堪える。歩澄は、おかしくて腹が捩れそうだった。
いつもはあんなにも威厳を放っている煌明は、実はただの飾りであった。腕が立つだけ、まともだがこれでは皇成や伊吹にも劣ると思うとおかしかった。
それに、匠閃郷に次いで貧富の差が激しい洸烈郷。朱々が統治していると言えど、大したことをしていないことなど目に見えている。
本来、統主は先代統主や世話役からみっちりと政に関して学び、幼い頃より郷を見て育つ。常に統主としてあるべき姿を叩き込まれているのだ。良家出身とはいえ、朱々のできることと言えば、銭勘定と民の不正を暴くことくらいであろう。
(洸烈郷は未だゴロツキやならず者が多い。そして貧しい村もな。これで統治した気になっているのだから笑わせてくれる。どちらにせよ、煌明が腕っぷしだけで頭のない男なら勝算などいくらでもある。それにあの態度……朱々には頭が上がらないのであろうな)
煌明と朱々の関係性が面白いほどわかり、酔って勘の鈍っている煌明と、憤りで冷静さを失っている朱々が言い争っている間に歩澄はさらりとその場を後にした。
ーー
その頃、澪は隣の空穏に歩澄はどこにいったのかと問いただされていた。
「いい加減にしないか。歩澄様は煌明様への手土産を手配しに行ったと言っているではないか」
呆れたように秀虎は溜め息をつく。こうもしつこい男は久方ぶりだとすっかり憔悴しきっていた。
「最初はそれを鵜呑みにしたが、それにしては遅すぎる! そもそも手土産の手配くらい貴方がしたらよかったのではないですか!?」
「何度も言ったであろう。統主への土産だ。不備があったら困る故、歩澄様自らいかれたのだ。皇成様へも伊吹様へも献上物はいつも歩澄様が行う」
全くの嘘だが、空穏を納得させるためには仕方がない。まだ解せぬと言った表情で歯を食い縛る空穏。
「空穏、もう戻ってくるってば」
「うるさい! そもそもあの男がお前をここに残して出ていくこと自体がおかしいんだ! 俺がいるんだぞ!?」
「今日は煌明様と朱々様に会いに来ただけなんだから……空穏こそ煌明様はいいの?」
「あ? 煌明様がなんだって」
「随分前にここを出ていったけど」
「え!?」
歩澄がいないことを煌明に報告し、秀虎からの情報を伝えたところまではいたはず。いつまで経っても戻らない歩澄に気付き、これはおかしいと問い詰めている内についむきになり、煌明がいなくなったことに気付いていなかったのだ。
「……旦那様」
声から察するに、煌明であった。郷を統治しているのが朱々であっても、煌明から漏れる殺気と強さは本物である。
「また舞を見せてくれ。家来達は皆、酒が弱くてつまらん」
「お客様をそっちのけでいらしたのですか?」
「む……歩澄は置き土産に更に酒をと家来に届ける手配に出ているそうでな……」
「まあ……そんなことまで統主自ら?」
歩澄は部屋の中で息を潜め、秀虎が上手く言ってくれたようだと安堵する。
「のう。そんなもの家来にさせればよいものを」
「……貴方はいつもそうやって自分では何もなさろうとしませんからね」
「む……? 何を怒っている?」
「少しは他の統主を見習ったらいかがですか! 村のことも郷のことも全てほったらかしで私に押し付けて! 貴方のしていることといったら専ら刀を振るうか大会を見るだけではありませんか!」
「そ、そのように怒鳴るでない……。俺もお前には苦労をかけていると……」
「思ってないでしょう! 先月もその前の月だってそう! 私に舞を見せろですって! 冗談じゃありませんよ!」
「す、すまない……。そ、そうだ! 反物を買ってやろう! 歩澄が来ていることだし、潤銘郷でしか手に入らない高価な……」
「その金はどこからですか? 私の管理している経費からですか? それとも……勇五郎じゃないでしょうね」
「な!? ゆ、ゆゆゆゆゆ勇五郎!? ち、違う! 決してそのような……」
「明らかに動揺してるじゃありませんか! あそこの娘に手を出したそうですね!」
「ご、誤解だ! な、なあ……朱々……そんなに怒らないでくれよう……」
ご機嫌取りを始めた煌明に、吹き出しそうになるのをぐっと堪える。歩澄は、おかしくて腹が捩れそうだった。
いつもはあんなにも威厳を放っている煌明は、実はただの飾りであった。腕が立つだけ、まともだがこれでは皇成や伊吹にも劣ると思うとおかしかった。
それに、匠閃郷に次いで貧富の差が激しい洸烈郷。朱々が統治していると言えど、大したことをしていないことなど目に見えている。
本来、統主は先代統主や世話役からみっちりと政に関して学び、幼い頃より郷を見て育つ。常に統主としてあるべき姿を叩き込まれているのだ。良家出身とはいえ、朱々のできることと言えば、銭勘定と民の不正を暴くことくらいであろう。
(洸烈郷は未だゴロツキやならず者が多い。そして貧しい村もな。これで統治した気になっているのだから笑わせてくれる。どちらにせよ、煌明が腕っぷしだけで頭のない男なら勝算などいくらでもある。それにあの態度……朱々には頭が上がらないのであろうな)
煌明と朱々の関係性が面白いほどわかり、酔って勘の鈍っている煌明と、憤りで冷静さを失っている朱々が言い争っている間に歩澄はさらりとその場を後にした。
ーー
その頃、澪は隣の空穏に歩澄はどこにいったのかと問いただされていた。
「いい加減にしないか。歩澄様は煌明様への手土産を手配しに行ったと言っているではないか」
呆れたように秀虎は溜め息をつく。こうもしつこい男は久方ぶりだとすっかり憔悴しきっていた。
「最初はそれを鵜呑みにしたが、それにしては遅すぎる! そもそも手土産の手配くらい貴方がしたらよかったのではないですか!?」
「何度も言ったであろう。統主への土産だ。不備があったら困る故、歩澄様自らいかれたのだ。皇成様へも伊吹様へも献上物はいつも歩澄様が行う」
全くの嘘だが、空穏を納得させるためには仕方がない。まだ解せぬと言った表情で歯を食い縛る空穏。
「空穏、もう戻ってくるってば」
「うるさい! そもそもあの男がお前をここに残して出ていくこと自体がおかしいんだ! 俺がいるんだぞ!?」
「今日は煌明様と朱々様に会いに来ただけなんだから……空穏こそ煌明様はいいの?」
「あ? 煌明様がなんだって」
「随分前にここを出ていったけど」
「え!?」
歩澄がいないことを煌明に報告し、秀虎からの情報を伝えたところまではいたはず。いつまで経っても戻らない歩澄に気付き、これはおかしいと問い詰めている内についむきになり、煌明がいなくなったことに気付いていなかったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる