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強者の郷【16】
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「歩澄様! どうするつもりですか!」
澪が慌てて歩澄の袖を引っ張る。
「よいではないか。お前もたっぷり暴れるといい。洸烈城は壊し甲斐があるぞ」
「壊し甲斐?」
「我々が大人しくここで捕まる理由などない。存分に暴れて、城ごと破壊してしまえばいいさ」
さらりと言ってのけた歩澄に、煌明の家来達は顔を青くさせた。
その様子を見た澪は、歩澄には何か考えがあるのだろうとにやりと笑い「そうですか……歩澄様がそうおっしゃるのでしたら……。私も近頃体が鈍っていたところです。歩澄様、勧玄様の技で嵐雷冥壊というものをご存知ですか?」と言いながら、万浬を抜いた。
膝を曲げ、体勢を低く、低くとった澪。その虎が獲物を狙うような構えは、大剣豪勧玄の幻を見せた。
勧玄は洸烈郷の英雄である。神剣闘技大会では、いくつもの技を披露しており、その中でも嵐雷冥壊は観客をも震え上がらせた恐ろしい技であった。
その名の通り、まるで嵐による落雷でも起こったかのように、地面に強烈な衝撃が走り、砂埃と疾風とで視界が真っ暗になったかと思えば、辺り一面更地と化す。雨を凌ぐための屋根も、丈夫な土と石で作られた外壁も全て粉々にするほどの威力であった。
それでいて対戦相手以外に怪我人を出さないのは、勧玄の技術故である。
しかしそれは大会でのこと。殺生をしたら負け。その制約がある以上、死人を出すわけにはいかぬ。まして英雄、勧玄のこと。自ら助けた民を危険に曝すはずがなかった。一度に多勢を吹き飛ばすにはもってこいの技であるが、大会でその技を見せるのは、勧玄が観客を喜ばせるための余興に過ぎなかった。それが、戦場で使用するとなれば話は違う。
潤銘郷の人間以外は、誰一人庇う必要がないのだ。故に、刀を当てないよう配慮しなくて良い分、存分に暴れられるというもの。
その技名を聞いただけで、煌明の家来達は震え上がった。空穏もぎょっと目を見開き、煌明さえも怯んだ。
「聞いたことがある。何でも鋼鉄の壁さえも砂に変えるほどの威力だとか」
「はい。人肉など一瞬で吹き飛びます故、人間相手にこの技を使ったことなどありませんでしたが……歩澄様のお命がかかっているのであれば仕方がありませんね……。多くの殺生は気が引けますが……どうか、皆様安らかにお眠り下さいまし……」
眉を下げ、申し訳なさそうに柔らかな声で澪は囁く。目の前で勧玄の技を見たことのある洸烈郷の人間に、一瞬で死を連想させるには十分であった。
澪の手中にあるのは、まさしく懐かしの万浬であり、刃が妖しく光る。
「歩澄様、秀虎様、お側を離れませぬようお願いします。当たれば骨も残りません」
歩澄は、自ら言っておきながらじんわりと手に汗を握る。秀虎も背中に嫌な汗が伝った。
「空穏は……自分で避けてね……」
それだけ言うと、澪は刀を円を描くようにゆっくりと頭上まで持ってきた。
「脅しのつもりか……。ふん……城などいくらでも建て直してくれる! てめぇの技で死んだら死んだ奴が悪いのだ!」
余程己の強さに自信があるのか、直ぐに構えた煌明は、にぃっと余裕の表情で笑った。
歩澄は横目でその顔を確認すると「良いのだな。家来諸共城は吹き飛び、皆死ぬぞ」と言った。
澪が慌てて歩澄の袖を引っ張る。
「よいではないか。お前もたっぷり暴れるといい。洸烈城は壊し甲斐があるぞ」
「壊し甲斐?」
「我々が大人しくここで捕まる理由などない。存分に暴れて、城ごと破壊してしまえばいいさ」
さらりと言ってのけた歩澄に、煌明の家来達は顔を青くさせた。
その様子を見た澪は、歩澄には何か考えがあるのだろうとにやりと笑い「そうですか……歩澄様がそうおっしゃるのでしたら……。私も近頃体が鈍っていたところです。歩澄様、勧玄様の技で嵐雷冥壊というものをご存知ですか?」と言いながら、万浬を抜いた。
膝を曲げ、体勢を低く、低くとった澪。その虎が獲物を狙うような構えは、大剣豪勧玄の幻を見せた。
勧玄は洸烈郷の英雄である。神剣闘技大会では、いくつもの技を披露しており、その中でも嵐雷冥壊は観客をも震え上がらせた恐ろしい技であった。
その名の通り、まるで嵐による落雷でも起こったかのように、地面に強烈な衝撃が走り、砂埃と疾風とで視界が真っ暗になったかと思えば、辺り一面更地と化す。雨を凌ぐための屋根も、丈夫な土と石で作られた外壁も全て粉々にするほどの威力であった。
それでいて対戦相手以外に怪我人を出さないのは、勧玄の技術故である。
しかしそれは大会でのこと。殺生をしたら負け。その制約がある以上、死人を出すわけにはいかぬ。まして英雄、勧玄のこと。自ら助けた民を危険に曝すはずがなかった。一度に多勢を吹き飛ばすにはもってこいの技であるが、大会でその技を見せるのは、勧玄が観客を喜ばせるための余興に過ぎなかった。それが、戦場で使用するとなれば話は違う。
潤銘郷の人間以外は、誰一人庇う必要がないのだ。故に、刀を当てないよう配慮しなくて良い分、存分に暴れられるというもの。
その技名を聞いただけで、煌明の家来達は震え上がった。空穏もぎょっと目を見開き、煌明さえも怯んだ。
「聞いたことがある。何でも鋼鉄の壁さえも砂に変えるほどの威力だとか」
「はい。人肉など一瞬で吹き飛びます故、人間相手にこの技を使ったことなどありませんでしたが……歩澄様のお命がかかっているのであれば仕方がありませんね……。多くの殺生は気が引けますが……どうか、皆様安らかにお眠り下さいまし……」
眉を下げ、申し訳なさそうに柔らかな声で澪は囁く。目の前で勧玄の技を見たことのある洸烈郷の人間に、一瞬で死を連想させるには十分であった。
澪の手中にあるのは、まさしく懐かしの万浬であり、刃が妖しく光る。
「歩澄様、秀虎様、お側を離れませぬようお願いします。当たれば骨も残りません」
歩澄は、自ら言っておきながらじんわりと手に汗を握る。秀虎も背中に嫌な汗が伝った。
「空穏は……自分で避けてね……」
それだけ言うと、澪は刀を円を描くようにゆっくりと頭上まで持ってきた。
「脅しのつもりか……。ふん……城などいくらでも建て直してくれる! てめぇの技で死んだら死んだ奴が悪いのだ!」
余程己の強さに自信があるのか、直ぐに構えた煌明は、にぃっと余裕の表情で笑った。
歩澄は横目でその顔を確認すると「良いのだな。家来諸共城は吹き飛び、皆死ぬぞ」と言った。
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