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強者の郷【15】
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歩澄は胡座をかいた膝の上で頬杖をつき、「問題はない……か。しかし、王になるのであれば、その問題だらけの匠閃郷にも目を向けねばならぬのだぞ」と言った。
「何を言う。そこにはおめぇがいるじゃあねぇか。何のための統主だ。俺は王になっても統主制度を廃止する気なんてねぇ。てめぇの郷くらいてめぇらで何とかしろや」
「呆れた……。それならば今と変わらぬ。王をもつ意味がない。貴様は王となり、何がしたい?」
「あ? そりゃ、この国の王となりゃ、全てのものが手に入る。酒も女も全てな」
「ふ……それはどうだかな。少なくとも、私は他郷の統治を全て統主に丸投げする王など支持しない」
「何だと!?」
「悪いが、隣国との取引は私と隣国の王とでしていること。他国に関してもそうだ。潤銘郷の統治を丸投げし、美味しいところだけいただこうというのであれば、潤銘郷は洸烈郷との取引は今後一切しない」
「なっ……おめぇ、誰にものを言っている!?」
「貴様だ。王になるつもりがあるのなら、その考えを改めるのだな。各郷の利点を活かし、国として発展させていける能力のない者に、王が務まるものか」
「ぐっ……だったらこちらも言わせてもらう! 例えおめぇが王になっても手は貸さねぇぞ!」
「はっ……私が王になったあかつきには、従わせてみせるさ」
「なにぃ……」
怒りですっかり目が覚めたのか、目をギラギラと光らせ、歩澄に向ける。不穏な空気に空穏は息をのむ。煌明相手にここまで言うのはこの男くらいだと肝を冷やしていた。
澪はそのようなことを言ってしまっていいのかと動揺し、秀虎は覚悟を決めたように最悪の状況に備えて刀に手をかけた。
「王には私がなる。私利私欲のためだけに王位を目指す貴様とは、最初から求めているものが違うのだ。誇り高き潤銘郷は、そのような愚考など持ってはおらぬ。残念だが、今のお前では話にならん」
「言わせておけば……」
「伊吹が今後交流会を開くと言っていたな。それまでによく考えておけ」
「なんだと……そりゃ、あくまでも交流会だろうよ! そこで王位を決めようってんじゃねぇだろうな!」
「馬鹿め。考えを改めろと言ったのだ。今の貴様が王位につけば、間違いなくこの国は終わる。名ばかりの王と民から愚弄されたくなければ、王としてどのような能力が必要かくらいは考えておくのだな」
「ぐっ……」
現在名ばかりの統主として存在している煌明にとっては、歩澄の言葉は痛い程刺さる。
虚勢を張ってみせても、民からの信頼も他郷や、他国と取引する能力も歩澄の方が長けていることなど誰が見ても明白であった。
所詮力で他郷統主を捩じ伏せたところで、民がついてこなければ意味がない。民をも脅威で意のままにしたところで、他国に至ってはそうはいかない。どちらにせよ、他国から輸入している酒も衣類も歩澄がいなければ手に入らないのだ。
取引できているのも歩澄の能力と人脈故であることは、煌明にも理解できている。その男が従わないとすれば、歩澄が言うように国が滅びるのも時間の問題である。
「本日はこれで失礼させてもらう。正室にも会えたことだしな」
「てめぇ……覚えておけよ。俺に対しての非礼を」
「非礼? どちらがだ? 客人を放っておいて、歓迎したつもりか? 客人よりも酒を飲むなど聞いたこともないぞ。伊吹も貴様のような友をもつと大変だな」
「あぁ!? てめっ……洸烈郷ん中で俺様に向かって……本来死罪だぞ!」
「ほう? おかしなことを言う。だったらどうする? 私を捕らえるか? それとも一戦交えるか? 全面戦争となれば、こちらも兵を動かすが……」
「は! 上等だ! こうなりゃ洸烈郷と潤銘郷の戦争だ!」
顔を真っ赤にさせ、煌明は刀を抜いた。それに準ずるように、空穏、他の家来達も刀を抜いた。
「何を言う。そこにはおめぇがいるじゃあねぇか。何のための統主だ。俺は王になっても統主制度を廃止する気なんてねぇ。てめぇの郷くらいてめぇらで何とかしろや」
「呆れた……。それならば今と変わらぬ。王をもつ意味がない。貴様は王となり、何がしたい?」
「あ? そりゃ、この国の王となりゃ、全てのものが手に入る。酒も女も全てな」
「ふ……それはどうだかな。少なくとも、私は他郷の統治を全て統主に丸投げする王など支持しない」
「何だと!?」
「悪いが、隣国との取引は私と隣国の王とでしていること。他国に関してもそうだ。潤銘郷の統治を丸投げし、美味しいところだけいただこうというのであれば、潤銘郷は洸烈郷との取引は今後一切しない」
「なっ……おめぇ、誰にものを言っている!?」
「貴様だ。王になるつもりがあるのなら、その考えを改めるのだな。各郷の利点を活かし、国として発展させていける能力のない者に、王が務まるものか」
「ぐっ……だったらこちらも言わせてもらう! 例えおめぇが王になっても手は貸さねぇぞ!」
「はっ……私が王になったあかつきには、従わせてみせるさ」
「なにぃ……」
怒りですっかり目が覚めたのか、目をギラギラと光らせ、歩澄に向ける。不穏な空気に空穏は息をのむ。煌明相手にここまで言うのはこの男くらいだと肝を冷やしていた。
澪はそのようなことを言ってしまっていいのかと動揺し、秀虎は覚悟を決めたように最悪の状況に備えて刀に手をかけた。
「王には私がなる。私利私欲のためだけに王位を目指す貴様とは、最初から求めているものが違うのだ。誇り高き潤銘郷は、そのような愚考など持ってはおらぬ。残念だが、今のお前では話にならん」
「言わせておけば……」
「伊吹が今後交流会を開くと言っていたな。それまでによく考えておけ」
「なんだと……そりゃ、あくまでも交流会だろうよ! そこで王位を決めようってんじゃねぇだろうな!」
「馬鹿め。考えを改めろと言ったのだ。今の貴様が王位につけば、間違いなくこの国は終わる。名ばかりの王と民から愚弄されたくなければ、王としてどのような能力が必要かくらいは考えておくのだな」
「ぐっ……」
現在名ばかりの統主として存在している煌明にとっては、歩澄の言葉は痛い程刺さる。
虚勢を張ってみせても、民からの信頼も他郷や、他国と取引する能力も歩澄の方が長けていることなど誰が見ても明白であった。
所詮力で他郷統主を捩じ伏せたところで、民がついてこなければ意味がない。民をも脅威で意のままにしたところで、他国に至ってはそうはいかない。どちらにせよ、他国から輸入している酒も衣類も歩澄がいなければ手に入らないのだ。
取引できているのも歩澄の能力と人脈故であることは、煌明にも理解できている。その男が従わないとすれば、歩澄が言うように国が滅びるのも時間の問題である。
「本日はこれで失礼させてもらう。正室にも会えたことだしな」
「てめぇ……覚えておけよ。俺に対しての非礼を」
「非礼? どちらがだ? 客人を放っておいて、歓迎したつもりか? 客人よりも酒を飲むなど聞いたこともないぞ。伊吹も貴様のような友をもつと大変だな」
「あぁ!? てめっ……洸烈郷ん中で俺様に向かって……本来死罪だぞ!」
「ほう? おかしなことを言う。だったらどうする? 私を捕らえるか? それとも一戦交えるか? 全面戦争となれば、こちらも兵を動かすが……」
「は! 上等だ! こうなりゃ洸烈郷と潤銘郷の戦争だ!」
顔を真っ赤にさせ、煌明は刀を抜いた。それに準ずるように、空穏、他の家来達も刀を抜いた。
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