216 / 228
強者の郷【14】
しおりを挟む
空穏は、拳をぐっと握りぶるぶると怒りに震える。
「祖父の力は偉大だった! 今後も継承していくべきだ!」
「勧玄は弟子をとらぬ主義だったのだろう? それを澪にだけ託したということは、特別な力だからではないのか? 悪いが私は澪にこれ以上不必要な殺生をさせるつもりはない。この強さのせいで澪がどれ程傷付いたか知らぬわけではあるまい」
「わかっている! そんなもの、俺の方が余程!」
お互いに加速していく口論に、澪が割って入る。
「二人共、お止め下さい! 私の人生は私が決めます! 勧玄様から授かった力も、必要な時にしか使いません! 歩澄様! 私は貴方についていくと決めたのですから、それ以上余計なことは言わなくてもよいのです! 空穏! 貴方は、身を弁えなさい! 潤銘郷統主に対して失礼が過ぎるでしょ! 謝りなさい!」
突然の澪の気迫に、歩澄と空穏はびくりと肩を震わせた。
「す、すまぬ……」
「わ、悪かったよ……」
二人は小さくなり、口論は終わりを告げた。二人が寄るとろくな事がないと澪は大きく溜め息をついた。
秀虎も先が思いやられると同じように息をついた。
(空穏は私を洸烈郷に連れていってこの力を何に使うつもりだったんだろう……まさか大会に出場させるつもりじゃないだろうに……)
口論を止めたものの、空穏が己を側に置いておきたい理由は色事だけではない気がしていた。
「そんなことよりも、貴様は煌明を探しにいかなくてよいのか? その辺で酔い潰れているかもしれぬぞ」
落ち着きを取り戻した歩澄は、空穏を一瞥して言った。
「わ、わかっております! 直ぐに煌明様を連れて戻ってきますからね!」
ぐっと下唇を噛んで立ち上がると、空穏は勢いよく背を向けて客間を出ていった。
周りの家来達は、あれほど二人が激しく口論していたにも関わらず、すっかり出来上がってしまい、大いに盛り上がっている。
「本当に変わった郷だな……毎日宴でもやっているのか」
歩澄が目頭を押さえる。澪はこそっと歩澄の耳元で「洸烈郷の秘密はわかったのですか?」と尋ねた。
「まあな。煌明は外弁慶のようだな」
「……外弁慶?」
「朱々に頭が上がらぬ情けない主だ」
秀虎と澪にしか聞こえない程の声で呟いた言葉に、二人は息を飲んだ。
「まさか……想像もつきません。あんなにも威張っていたのに……」
「あちらも本来の姿であることには変わりないだろう。奴の腕っぷしは本物だ。詳しくはここを離れてからにしておこう。誰が聞いているかわからぬ」
歩澄が目を閉じると、二人は固く頷いた。
神経を研ぎ澄まし、背後、天井へと気配を追うがどうやら忍につけられていることもなさそうだとようやく目を開ける。
暫くして戻ってきたのは煌明と空穏だけで、朱々の姿はなかった。歩澄は余程腹を立てているのだろうと先程の姿を思い出すと笑わずにはいられなかった。
「よう、歩澄よ。追加の酒を頼んだと聞いた」
「ああ。お前の好みそうなものを適当に用意させた。届くのは明日だがな」
「そうか。仕方がない。本日はうちの倉からあるったけ出そう」
「まだ飲むつもりか。そのように酔っていて、政務が務まるのか」
煌明が自ら動いていないことなど百も承知だが、それを悟られるわけにはいかない。あくまでも、来た時と同様同じ立場として接する必要があった。
「がっはっはっは! 問題ない! この俺様にかかれば、容易いものよ。洸烈郷には然程問題もない。匠閃郷とは違うのだ!」
煌明はそう陽気に振る舞うが、空穏はぐっと口を結び何かに耐えるようだった。空穏にとって匠閃郷も第二の故郷のようなもの。それを馬鹿にされるのは、いくら主といえど面白くはない。そこへきて、自ら統治などしていないのだから本来言いたいことは山ほどあった。
「祖父の力は偉大だった! 今後も継承していくべきだ!」
「勧玄は弟子をとらぬ主義だったのだろう? それを澪にだけ託したということは、特別な力だからではないのか? 悪いが私は澪にこれ以上不必要な殺生をさせるつもりはない。この強さのせいで澪がどれ程傷付いたか知らぬわけではあるまい」
「わかっている! そんなもの、俺の方が余程!」
お互いに加速していく口論に、澪が割って入る。
「二人共、お止め下さい! 私の人生は私が決めます! 勧玄様から授かった力も、必要な時にしか使いません! 歩澄様! 私は貴方についていくと決めたのですから、それ以上余計なことは言わなくてもよいのです! 空穏! 貴方は、身を弁えなさい! 潤銘郷統主に対して失礼が過ぎるでしょ! 謝りなさい!」
突然の澪の気迫に、歩澄と空穏はびくりと肩を震わせた。
「す、すまぬ……」
「わ、悪かったよ……」
二人は小さくなり、口論は終わりを告げた。二人が寄るとろくな事がないと澪は大きく溜め息をついた。
秀虎も先が思いやられると同じように息をついた。
(空穏は私を洸烈郷に連れていってこの力を何に使うつもりだったんだろう……まさか大会に出場させるつもりじゃないだろうに……)
口論を止めたものの、空穏が己を側に置いておきたい理由は色事だけではない気がしていた。
「そんなことよりも、貴様は煌明を探しにいかなくてよいのか? その辺で酔い潰れているかもしれぬぞ」
落ち着きを取り戻した歩澄は、空穏を一瞥して言った。
「わ、わかっております! 直ぐに煌明様を連れて戻ってきますからね!」
ぐっと下唇を噛んで立ち上がると、空穏は勢いよく背を向けて客間を出ていった。
周りの家来達は、あれほど二人が激しく口論していたにも関わらず、すっかり出来上がってしまい、大いに盛り上がっている。
「本当に変わった郷だな……毎日宴でもやっているのか」
歩澄が目頭を押さえる。澪はこそっと歩澄の耳元で「洸烈郷の秘密はわかったのですか?」と尋ねた。
「まあな。煌明は外弁慶のようだな」
「……外弁慶?」
「朱々に頭が上がらぬ情けない主だ」
秀虎と澪にしか聞こえない程の声で呟いた言葉に、二人は息を飲んだ。
「まさか……想像もつきません。あんなにも威張っていたのに……」
「あちらも本来の姿であることには変わりないだろう。奴の腕っぷしは本物だ。詳しくはここを離れてからにしておこう。誰が聞いているかわからぬ」
歩澄が目を閉じると、二人は固く頷いた。
神経を研ぎ澄まし、背後、天井へと気配を追うがどうやら忍につけられていることもなさそうだとようやく目を開ける。
暫くして戻ってきたのは煌明と空穏だけで、朱々の姿はなかった。歩澄は余程腹を立てているのだろうと先程の姿を思い出すと笑わずにはいられなかった。
「よう、歩澄よ。追加の酒を頼んだと聞いた」
「ああ。お前の好みそうなものを適当に用意させた。届くのは明日だがな」
「そうか。仕方がない。本日はうちの倉からあるったけ出そう」
「まだ飲むつもりか。そのように酔っていて、政務が務まるのか」
煌明が自ら動いていないことなど百も承知だが、それを悟られるわけにはいかない。あくまでも、来た時と同様同じ立場として接する必要があった。
「がっはっはっは! 問題ない! この俺様にかかれば、容易いものよ。洸烈郷には然程問題もない。匠閃郷とは違うのだ!」
煌明はそう陽気に振る舞うが、空穏はぐっと口を結び何かに耐えるようだった。空穏にとって匠閃郷も第二の故郷のようなもの。それを馬鹿にされるのは、いくら主といえど面白くはない。そこへきて、自ら統治などしていないのだから本来言いたいことは山ほどあった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
198
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる