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強者の郷【19】
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それからというもの王族は朱々に近寄りもしなかった。朱々はせっかく掴んだ機会が水の泡となり、腸が煮えくり返るようだった。
然れど煌明さえも逃せば、王妃への道は絶たれる。ただの貴族で終わるくらいなら少しでも上へと思い、煌明のもとへ嫁いだのだ。
そんな策略があることを先代統主が掴むのも時間の問題であった。
朱々を何とか追い出そうとしたところ、不穏な動きがあると朱々の侍女が先に告げ口をした。
朱々の美貌は、侍女達の間でも羨望の眼差しを向けられ話題となった。そんな侍女達の味方を増やそうと高価な白粉を分けてやったこともある。
先代統主の古傷は時折むず痒くなるため、眠っている時など知らず知らずの内に自ら掻きむしってしまっていた。その度に出血を繰り返し、皮膚薬を塗り込んでいたのだ。
それを知った朱々は、己を慕っている侍女達を上手く使い、以前ならず者の男から貰った液体を傷に効く万能薬だと偽り、先代統主の治療薬に混ぜさせていた。
この液体は、生きた鼠の血と唾液から抽出したもので、傷口に塗り込めばすぐに体内に菌が回る。
最初は疑われぬよう、本物の化膿薬を渡し、効果が出てきたところでその中に仕込ませていたのだ。
菌は血流に乗って脳へいき、そこで繁殖を繰り返した。高熱を出し、化膿した口の手当てが行われた。先代統主は一命をとりとめたものの、脳への障害が残り廃人のように口が聞けぬ状態となった。
目は一点を見つめたまま、口から涎を垂れ流し、排泄さえ自ら処理できなくなった。
その状況を目の当たりにした煌明は、初めて人前で泣き崩れた。先代統主は煌明の支えであった。学問を疎かにしていた煌明の代わりとなって指揮をとってきた人物であり、己に最初の剣術を教えた者。
父でありながらも統主として尊敬し、年に一度の勧玄の大会は一緒になって観戦しに行ったものだ。勧玄のような英雄になりたいと言った煌明を笑ったが、立派な統主になればそれもいずれ付いてくると励ましたのも他でもない先代統主であった。
変わり果てた姿を受け入れられなかった煌明は三日三晩泣き続けた。朱々の計らいによるものだとは知る由もない煌明は、朱々に励まされ、慰められ、言われるがまま政務を引き継ぐこととなった。
しかしそれも朱々が取り仕切るようになり、先代統主が命を下せぬ状態になった今、重臣達も朱々に口出し出来ぬようになっていた。
先代統主の重臣達は、一緒になって朱々を疑っていた故、何とか追い出そうと目論んだが、用意周到な朱々に先を越され、証拠も出なかった。
それから二年が経ち、王が暗殺されたことで王族は滅びた。実質各郷の統主が最高位となり、朱々はあの時第二王子のもとへ嫁がなくてよかったと心底安心した。それと同時に、剣術だけなら誰にも負けない煌明が一番王位に近いのではないかと思い始めていた。
王妃の称号を得るためには、何がなんでも煌明の寵愛を独占する必要があった。それ故、側室の存在を許すこともなければ、他の女に目を向けることすら許さない。
それを己に対する愛情であると信じて疑わない煌明は、初めて己に愛情を向けてくれた朱々に危害を加えさせるわけにはいかなかった。
然れど煌明さえも逃せば、王妃への道は絶たれる。ただの貴族で終わるくらいなら少しでも上へと思い、煌明のもとへ嫁いだのだ。
そんな策略があることを先代統主が掴むのも時間の問題であった。
朱々を何とか追い出そうとしたところ、不穏な動きがあると朱々の侍女が先に告げ口をした。
朱々の美貌は、侍女達の間でも羨望の眼差しを向けられ話題となった。そんな侍女達の味方を増やそうと高価な白粉を分けてやったこともある。
先代統主の古傷は時折むず痒くなるため、眠っている時など知らず知らずの内に自ら掻きむしってしまっていた。その度に出血を繰り返し、皮膚薬を塗り込んでいたのだ。
それを知った朱々は、己を慕っている侍女達を上手く使い、以前ならず者の男から貰った液体を傷に効く万能薬だと偽り、先代統主の治療薬に混ぜさせていた。
この液体は、生きた鼠の血と唾液から抽出したもので、傷口に塗り込めばすぐに体内に菌が回る。
最初は疑われぬよう、本物の化膿薬を渡し、効果が出てきたところでその中に仕込ませていたのだ。
菌は血流に乗って脳へいき、そこで繁殖を繰り返した。高熱を出し、化膿した口の手当てが行われた。先代統主は一命をとりとめたものの、脳への障害が残り廃人のように口が聞けぬ状態となった。
目は一点を見つめたまま、口から涎を垂れ流し、排泄さえ自ら処理できなくなった。
その状況を目の当たりにした煌明は、初めて人前で泣き崩れた。先代統主は煌明の支えであった。学問を疎かにしていた煌明の代わりとなって指揮をとってきた人物であり、己に最初の剣術を教えた者。
父でありながらも統主として尊敬し、年に一度の勧玄の大会は一緒になって観戦しに行ったものだ。勧玄のような英雄になりたいと言った煌明を笑ったが、立派な統主になればそれもいずれ付いてくると励ましたのも他でもない先代統主であった。
変わり果てた姿を受け入れられなかった煌明は三日三晩泣き続けた。朱々の計らいによるものだとは知る由もない煌明は、朱々に励まされ、慰められ、言われるがまま政務を引き継ぐこととなった。
しかしそれも朱々が取り仕切るようになり、先代統主が命を下せぬ状態になった今、重臣達も朱々に口出し出来ぬようになっていた。
先代統主の重臣達は、一緒になって朱々を疑っていた故、何とか追い出そうと目論んだが、用意周到な朱々に先を越され、証拠も出なかった。
それから二年が経ち、王が暗殺されたことで王族は滅びた。実質各郷の統主が最高位となり、朱々はあの時第二王子のもとへ嫁がなくてよかったと心底安心した。それと同時に、剣術だけなら誰にも負けない煌明が一番王位に近いのではないかと思い始めていた。
王妃の称号を得るためには、何がなんでも煌明の寵愛を独占する必要があった。それ故、側室の存在を許すこともなければ、他の女に目を向けることすら許さない。
それを己に対する愛情であると信じて疑わない煌明は、初めて己に愛情を向けてくれた朱々に危害を加えさせるわけにはいかなかった。
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