【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

文字の大きさ
228 / 275

強者の郷【26】

しおりを挟む
「そんな……でも、歩澄様は何も……それに私が正室なんて……」

「じゃあ聞くが、お前さんに何の問題がある? そもそも匠閃郷統主の娘でそれなりの身分があるんだ。お前さんが適切なのは目に見えている。それとも、歩澄の正室など荷が重いか? 一緒に国を統治する自信がないか? もとい、民を守るつもりなどないのかね? 
 それならとても残念だよ。お前さんは、全て覚悟の上で歩澄についていくと言ったのだと思っていたからね。意地でも歩澄を王にしたいのは、共に民を守りたいと思っているからだと私は思っていたのに」

「そ、それは……」

「お前さんがついていくと言った相手はそういう男だよ。正室として歩澄を支える覚悟がないのなら、飯事のような遊びはもうやめることだね」

「そんなこと思っていません!」

 澪は楊との距離を詰め、袖をぐっと掴んだ。

「だったら覚悟を決めなよ。洸烈郷の真相を私に尋ねにきたのは、少しでも歩澄の役に立ちたいからじゃないのかね? 伊吹に言われたんだろう? 朱々と紬は正室の器ではないと。それを確かめに洸烈郷に行けと」

「……はい」

「だったら、お前さんはどんな正室が統主の正室として相応しいと思う? その理想に自ら食らいついていくくらいじゃなきゃ、歩澄を王にすることなどできやしないよ。
 この国の王族は消滅したんだ。たった一人選ばれた統主がまた一から王位を築かねばならない。それがどんなに困難かそれくらいはわかるだろう?
 お前さんがするべき事は、紬のようにただ笑って統主の側にいることでも、朱々のように権力を己のものにすることでもない。王の正室として恥じない女人となることだ。そのために私はお前さんに剣舞も教えた」

「……そのために」

 澪はごくりと唾を飲み込む。手のひらにタコができる程、刀剣とは違った重さを持った剣を振った。あの剣の重さも、動きも体が全て覚えている。

「やはりわかってなかったか。使う時期を見極めろと私は言った。それは、今後を期待してのことだ。今現在の話をしているわけじゃない。そのずっとずっと先の話だよ。お前さんが王妃になった時のね」

 キィと音を立てて屋敷の扉が開いた。楊の背中越しに聞こえた言葉に、澪の全身には鳥肌が立った。
 それと同時に、洸烈郷に発つ前に伊吹が澪に言った言葉を思い出していた。

「私はそなたが歩澄のためにどこまでできるか期待してみることにした。……多くのことを学び、知恵を使え。それがなければ体を張れ」

 伊吹までもが、将来王妃として歩澄を支える女人になるまで成長しろと言っていたことにようやく気付いたのだ。
 おそらく歩澄の重臣達もそれを前提に澪と接していたのだろうと思うと、体の震えが止まらなかった。

 薬草の入っていた瓶を棚に片付けていく楊の横で、澪は己の両腕をぎゅっと抱き締めた。
 その様子を横目に、楊は口を開く。

「お前さんなら城の書庫に自由に出入りできるであろう。そこには各郷の歴史やこの国で起こった暴動、先代統主以前の政務の報告書などが揃っている。統治をするのはあくまでも歩澄だが、奴が何をしているのか、何を以て動いているのか、それを理解するべき頭がいる」

「楊様……」

「お前さんは体を動かしている方が得意なようだが、他の正室と同じようにしていたら歩澄は王にはなれないよ。お前さんにしかできないことを探してごらんよ。剣舞はあくまでもその一つだ。
 いいかい、忘れるんじゃないよ。お前さんは、統主の正室になるのではなく、王の正室となるんだ。そのためには、潤銘郷にだけ詳しくても意味がない。国全体で何が問題なのか、民達に何が必要なのか。ちゃんと考えてごらん。さすれば自ずと答えはでるさ。まずは統主達との茶会までに知恵を絞るんだね」

 澪を馬鹿にしたように見えた楊も、最終的にはわかりやすく今すべきことを諭した。澪は、楊のこういうところが憎み切れないのだと思いながらも感謝で胸がいっぱいになった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

処理中です...