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強者の郷【26】
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「そんな……でも、歩澄様は何も……それに私が正室なんて……」
「じゃあ聞くが、お前さんに何の問題がある? そもそも匠閃郷統主の娘でそれなりの身分があるんだ。お前さんが適切なのは目に見えている。それとも、歩澄の正室など荷が重いか? 一緒に国を統治する自信がないか? もとい、民を守るつもりなどないのかね?
それならとても残念だよ。お前さんは、全て覚悟の上で歩澄についていくと言ったのだと思っていたからね。意地でも歩澄を王にしたいのは、共に民を守りたいと思っているからだと私は思っていたのに」
「そ、それは……」
「お前さんがついていくと言った相手はそういう男だよ。正室として歩澄を支える覚悟がないのなら、飯事のような遊びはもうやめることだね」
「そんなこと思っていません!」
澪は楊との距離を詰め、袖をぐっと掴んだ。
「だったら覚悟を決めなよ。洸烈郷の真相を私に尋ねにきたのは、少しでも歩澄の役に立ちたいからじゃないのかね? 伊吹に言われたんだろう? 朱々と紬は正室の器ではないと。それを確かめに洸烈郷に行けと」
「……はい」
「だったら、お前さんはどんな正室が統主の正室として相応しいと思う? その理想に自ら食らいついていくくらいじゃなきゃ、歩澄を王にすることなどできやしないよ。
この国の王族は消滅したんだ。たった一人選ばれた統主がまた一から王位を築かねばならない。それがどんなに困難かそれくらいはわかるだろう?
お前さんがするべき事は、紬のようにただ笑って統主の側にいることでも、朱々のように権力を己のものにすることでもない。王の正室として恥じない女人となることだ。そのために私はお前さんに剣舞も教えた」
「……そのために」
澪はごくりと唾を飲み込む。手のひらにタコができる程、刀剣とは違った重さを持った剣を振った。あの剣の重さも、動きも体が全て覚えている。
「やはりわかってなかったか。使う時期を見極めろと私は言った。それは、今後を期待してのことだ。今現在の話をしているわけじゃない。そのずっとずっと先の話だよ。お前さんが王妃になった時のね」
キィと音を立てて屋敷の扉が開いた。楊の背中越しに聞こえた言葉に、澪の全身には鳥肌が立った。
それと同時に、洸烈郷に発つ前に伊吹が澪に言った言葉を思い出していた。
「私はそなたが歩澄のためにどこまでできるか期待してみることにした。……多くのことを学び、知恵を使え。それがなければ体を張れ」
伊吹までもが、将来王妃として歩澄を支える女人になるまで成長しろと言っていたことにようやく気付いたのだ。
おそらく歩澄の重臣達もそれを前提に澪と接していたのだろうと思うと、体の震えが止まらなかった。
薬草の入っていた瓶を棚に片付けていく楊の横で、澪は己の両腕をぎゅっと抱き締めた。
その様子を横目に、楊は口を開く。
「お前さんなら城の書庫に自由に出入りできるであろう。そこには各郷の歴史やこの国で起こった暴動、先代統主以前の政務の報告書などが揃っている。統治をするのはあくまでも歩澄だが、奴が何をしているのか、何を以て動いているのか、それを理解するべき頭がいる」
「楊様……」
「お前さんは体を動かしている方が得意なようだが、他の正室と同じようにしていたら歩澄は王にはなれないよ。お前さんにしかできないことを探してごらんよ。剣舞はあくまでもその一つだ。
いいかい、忘れるんじゃないよ。お前さんは、統主の正室になるのではなく、王の正室となるんだ。そのためには、潤銘郷にだけ詳しくても意味がない。国全体で何が問題なのか、民達に何が必要なのか。ちゃんと考えてごらん。さすれば自ずと答えはでるさ。まずは統主達との茶会までに知恵を絞るんだね」
澪を馬鹿にしたように見えた楊も、最終的にはわかりやすく今すべきことを諭した。澪は、楊のこういうところが憎み切れないのだと思いながらも感謝で胸がいっぱいになった。
「じゃあ聞くが、お前さんに何の問題がある? そもそも匠閃郷統主の娘でそれなりの身分があるんだ。お前さんが適切なのは目に見えている。それとも、歩澄の正室など荷が重いか? 一緒に国を統治する自信がないか? もとい、民を守るつもりなどないのかね?
それならとても残念だよ。お前さんは、全て覚悟の上で歩澄についていくと言ったのだと思っていたからね。意地でも歩澄を王にしたいのは、共に民を守りたいと思っているからだと私は思っていたのに」
「そ、それは……」
「お前さんがついていくと言った相手はそういう男だよ。正室として歩澄を支える覚悟がないのなら、飯事のような遊びはもうやめることだね」
「そんなこと思っていません!」
澪は楊との距離を詰め、袖をぐっと掴んだ。
「だったら覚悟を決めなよ。洸烈郷の真相を私に尋ねにきたのは、少しでも歩澄の役に立ちたいからじゃないのかね? 伊吹に言われたんだろう? 朱々と紬は正室の器ではないと。それを確かめに洸烈郷に行けと」
「……はい」
「だったら、お前さんはどんな正室が統主の正室として相応しいと思う? その理想に自ら食らいついていくくらいじゃなきゃ、歩澄を王にすることなどできやしないよ。
この国の王族は消滅したんだ。たった一人選ばれた統主がまた一から王位を築かねばならない。それがどんなに困難かそれくらいはわかるだろう?
お前さんがするべき事は、紬のようにただ笑って統主の側にいることでも、朱々のように権力を己のものにすることでもない。王の正室として恥じない女人となることだ。そのために私はお前さんに剣舞も教えた」
「……そのために」
澪はごくりと唾を飲み込む。手のひらにタコができる程、刀剣とは違った重さを持った剣を振った。あの剣の重さも、動きも体が全て覚えている。
「やはりわかってなかったか。使う時期を見極めろと私は言った。それは、今後を期待してのことだ。今現在の話をしているわけじゃない。そのずっとずっと先の話だよ。お前さんが王妃になった時のね」
キィと音を立てて屋敷の扉が開いた。楊の背中越しに聞こえた言葉に、澪の全身には鳥肌が立った。
それと同時に、洸烈郷に発つ前に伊吹が澪に言った言葉を思い出していた。
「私はそなたが歩澄のためにどこまでできるか期待してみることにした。……多くのことを学び、知恵を使え。それがなければ体を張れ」
伊吹までもが、将来王妃として歩澄を支える女人になるまで成長しろと言っていたことにようやく気付いたのだ。
おそらく歩澄の重臣達もそれを前提に澪と接していたのだろうと思うと、体の震えが止まらなかった。
薬草の入っていた瓶を棚に片付けていく楊の横で、澪は己の両腕をぎゅっと抱き締めた。
その様子を横目に、楊は口を開く。
「お前さんなら城の書庫に自由に出入りできるであろう。そこには各郷の歴史やこの国で起こった暴動、先代統主以前の政務の報告書などが揃っている。統治をするのはあくまでも歩澄だが、奴が何をしているのか、何を以て動いているのか、それを理解するべき頭がいる」
「楊様……」
「お前さんは体を動かしている方が得意なようだが、他の正室と同じようにしていたら歩澄は王にはなれないよ。お前さんにしかできないことを探してごらんよ。剣舞はあくまでもその一つだ。
いいかい、忘れるんじゃないよ。お前さんは、統主の正室になるのではなく、王の正室となるんだ。そのためには、潤銘郷にだけ詳しくても意味がない。国全体で何が問題なのか、民達に何が必要なのか。ちゃんと考えてごらん。さすれば自ずと答えはでるさ。まずは統主達との茶会までに知恵を絞るんだね」
澪を馬鹿にしたように見えた楊も、最終的にはわかりやすく今すべきことを諭した。澪は、楊のこういうところが憎み切れないのだと思いながらも感謝で胸がいっぱいになった。
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