したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

文字の大きさ
227 / 243
新しい風

20

しおりを挟む
 帰宅してからも真白は暫く夢見心地だった。こんなに楽しいと思えたのは何年ぶりだっただろうかと思い返す。
 楽しいと思えた出来事にはいつも亜純がいた。そんな亜純も散々傷付けて、許されないまま逃げるように去ってしまった。

 今頃何してるかな……とふと考えた。依は亜純から離婚届を突きつけられていると言った。その後どうなったかわからないが、あの亜純が自分の意見を曲げることはないだろうと思えたし仮に離婚を踏みとどまったなら、真白の元に連絡がきただろうと思えた。
 真白は距離を取っても亜純の連絡先を消すことまではできなかった。優しい亜純のことだから、ちゃんと話がしたいと言ってくれるかもしれない。そんな淡い期待も抱いた。

 しかし、いつまで経っても既読はつかず、当然着信もなかった。真白は2ヶ月前、ようやく亜純の連絡先を消し、スマホも新規で変えた。
 亜純に対する罪悪感は消えない。この先ずっと恨まれ続けるだろう。それでもいつか自分と顔を合わせるかもしれないと不安になりながら暮らすよりはずっといいと思えた。

 きっとお互いに忘れることはできない。夫の依が近くにいる限り、亜純の中で真白の存在は消えない。それでも亜純がまた笑えるように、今度はお節介などなくても自分で幸せを掴んでくれたらいいなと思えた。

 同時に真白はふと思う。亜純のことを傷つけた自分がこんなに幸せな気持ちになっていいんだろうかと。好きな人の側から離れたのだって自分への戒めでもある。
 亜純がまだ傷付いて前に進めずにいるかもしれないのに、自分ばかりが楽しい日々を送っていいのかと苦しい気持ちになった。

 スマホが鳴って綾菜からのメッセージが届いた。

「今日は本当にありがとう! またすぐ会いたい」

 可愛い絵文字がつけられていて、綾菜の笑顔を思い出した。

「……私も会いたい」

 真白は呟きながら視界を滲ませた。また会ってもいいのか、突き放したらいいのかわからなかった。今突き放したら綾菜まで傷付けてしまう。せっかくこんな自分と仲良くなりたいと言ってくれたのに。
 でも綾菜の気持ちを受け入れたら、亜純の気持ちを踏みにじる気がした。

 真白はじっとスマホの画面を見ながら綾菜への返信をできずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...