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プロローグ

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 湿った狭い空間には蒸気が立ち込め、むせ返るような甘ったるい香りに包まれていた。

 なんで……。なんで、こんな……。

 なぎは未だにこの状況が理解できなかった。体の腰あたりに存在するシャワーヘッドから出た生ぬるい湯が、大腿部を小刻みに刺激する。
 そこから真っ直ぐ伸びたシャワーポールには、凪の腕が交差された状態で括りつけられていた。いつの間に持ってきたのか、ソフトSMで使用するボンデージテープをグルグルと巻き付けられ、あっという間に拘束されてしまったのだ。

「だいぶ解れてきたね」

 凪の右耳には低い声。蒸気とはまた違った吐息が耳介を刺激し、奥の鼓膜を震わせる。あんな美女からこんな低音が出るなんて、誰が想像しただろうか。女性の体を知り尽くし、何十人もの女性を絶頂へと導いてきた凪が、初対面の男の手によって辱めを受けるはめになったのは青天の霹靂であった。

「まっ……、ヤダ! いやだっ!」

 じんわりと涙すら滲んでくる。ガッチリと腰を掴まれて、他人には触れさせたことのない後口を撫でられる。

「大丈夫。痛くしないってば。ゆっくり解そうね」

 凪よりも10cm以上背の高い男は、長い舌をゆっくり伸ばして赤く染まった凪の耳へと撫でるように這わせた。

「ふーっ! んんーっ」

「かーわい。必死に声抑えちゃって。ねぇかいくん……いや、凪。もう、俺からは逃げられないよ?」

「っ!? なんで本名知ってっ」

 凪は勢いよく顔を上げた。恐怖にも似た感情が渦巻き、瞳を揺らした。凪の目に映った男は、恐ろしいほど美しい顔をしていた。凪が女性と見間違えるほどに。

「知ってるよ。凪のことならなんでも知ってる」

「う、嘘だっ……」

「本当だよ。ずっとこうしたいって思ってたんだ。やっと念願叶った」

「やめろっ! 嫌だ! これ外せよ!」

 凪にはこの後訪れる展開など容易に見当がついた。だからこそ、今すぐ逃げなければと本能が叫ぶ。

「まだ悪態つく元気はあるみたいだね。まぁ……その内、喘ぐことしか出来なくなると思うけど」

「ふっざけんな! こんなことしてただじゃっ……んっ」

 突然訪れた快感に、凪はビクンと体を震わせ背中を大きく仰け反らした。前面にそそり立つ竿を包み込む大きな手。これが女性の手ならこうはならない。
 広範囲を掴まれて、上下に扱かれる。大腿部に当たっていた水圧が突如、凪の尿道口を刺激した。

「うぁっ……」

 息苦しささえ感じ、体の奥底からビリビリと痺れた。

「あー……凪、こっちもいけるんだ。色々楽しみだね。まだ、あと10時間以上もあるよ」

 男の声にゾワッと身の毛がよだつ。

 ああ……なんで新規で180分+お泊まりの予約なんて受け付けちゃったんだろ、俺。太客の可能性期待して、ドア開けたら絶世の美女がいた。そんなの、気を抜いてもおかしくないだろ。
 いや……おかしかったんだ。すらっとした長身も、全く喋らないことも、首元を覆ったままのマフラーも、手を隠した萌え袖も。

 全部、全部男だってことを隠すためのものだった。女風ユーザーが女装男子だったなんて、誰がそんなこと疑うかよ。

「ほら、もう指1本入っちゃった」

 低い声と共に訪れる圧迫感。息が止まるような違和感が凪の体を支配する。後悔しても、しきれないまま、凪は数十分前のことを思い出していた。

 
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