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嫌いなアイツ

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 自信満々な千紘は、一瞬目を奪われるほど輝いて見えた。さすがカリスマと言われているだけあって、米山や今まで指名してきたどの美容師にもないオーラを感じた。

 う……。なんだよ、コイツ。一丁前に美容師みたいな顔しやがって。いや、美容師なのか……。

 凪はむーっと顔をしかめながら、ふいっと顔を背けた。そんな猫みたいな態度に千紘はふふっと笑みをこぼしながら襟足をタオルで拭うと、長い指先を使ってマッサージを開始した。
 頭皮は軽めに、首から肩にかけて解していく。肩は思っていた以上に凝っていた。

 体を駆使する仕事なだけに仕方がないことだとは思うが、相手をマッサージして自分が凝るなんて本末転倒だと千紘は思う。
 かく言う千紘も毎日何十人という客のカットをこなすため、指の使い過ぎで何度も関節炎を引き起こしていた。その都度注射を打ったり、手術してる暇なんかないと突っぱねて痛みに耐えたりと苦労を乗り越えてきたのだ。

 仕事内容が違うとはいえ、何かに特化した仕事というのはリスクが伴うのは当然のこと。千紘はそう思いながら、指先に力を入れた。

「はい、終わり」

「ん……」

 お前がやんのかと言っていたわりに、またしもうとうとと目を閉じていた凪。お泊まりコースで寝てきたと言っても所詮は客と一緒に寝るのだ。安眠など出来るわけもなく毎日寝不足だった。

「さて、カットしてくよ」

 まだゆっくりと瞬きしている凪を他所に、千紘はハサミを右手に取った。

「凪これから仕事?」

「うん。あと2時間ないくらいで」

 スマートフォンの画面を見れば既に2時間が経過していた。パーマもかけてカラーもしたのだから当然だ。

「おっけ。じゃあ、セットまでするから」

「あー、別に乱れるからいいんだけど……」

「身だしなみ重要でしょ。商品なんだから」

 そう言われれば凪はうっと顔を歪ませた。別にそこまでカッコつけなくても次もリピートしてくれる客なんだけどな……なんて思ったことは口にはしないが、凪は「まぁ……じゃあ、してく」と渋々頷いた。

 凪の髪色はまだ髪が濡れていることもあり、黒っぽく見えた。パーマも水を含んだ重みで緩く下がっている。色もパーマの強さも千紘に好き勝手され完成系が見えない凪は、カットも委ねる他なかった。
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