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脅しの存在

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 ほんの少し和やかだったはずが、千紘の言葉でピリピリとした空気に変わる。
 その空気を割るようにして飲み物が運ばれてきた。

「お待たせしましたー!」

 それぞれ目の前に飲み物が置かれ、千紘が先にグラスを持つと「乾杯しよ、お疲れ様」と何事もなかったかのように言った。
 凪はまだモヤモヤと考えながら、グラスを合わせた。ゴツっと鈍い音がし、凪はちびちびと烏龍茶を口に運んだ。

 あー……。帰りたい。なんなんだよ、もう……。全部コイツのせいなのに。なんで乾杯して、一緒に飯食ったりなんかしなきゃなんないんだ。
 髪まで切ってもらって、下の心配までされて……もう二度と関わってほしくないのに。……写真が……。

 凪は、恨めしそうに千紘を睨んだ。そんな痛い視線でも、見つめられていることが嬉しくて千紘は笑みをこぼす。

「可愛いなぁ。本当に綺麗な顔してるよね」

 そこじゃない。凪はそんなツッコミを入れながら、どうせ俺の心情なんて理解できないんだろうと嘆く。

「顔目的かよ」

「顔好きなんだよね。タイプだよ」

「あーそ」

「でも、その口悪い所も好きだし、仕事に対して真面目なのも好きだし」

「お前、なんで俺のこと好きになったの?」

 凪は純粋に疑問だった。電話では教えてくれなかった。ほとんど接点がないにもかかわらず、自分にこんなにも執着してくる男。
 昔から言い寄られることは多かった凪だが、男からこんなにも熱烈にアプローチされたのは初めてだ。
 どうせ変態の片想いなんて、ストーカーのように一方的に理想を描いて勝手に美化して追い求めてるだけだろうと凪は鼻で笑う。

「うーんとね、好きになったのはね」

 千紘は懐かしそうに目を細めて、何かを思い出すかのように口元を緩めた。千紘が少し凪に興味を持ち出し、同時に千紘が絶対にいつかカットして下さいって言わせてやると闘志に燃えていた頃のことだった。
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