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脅しの存在

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 数歩前に進むと、凪の前に誰か立っていた。普段穏やかに会話をしている凪が誰かともめているのかと千紘は顔をしかめた。

「それ、営業妨害だろ」

 凪がそう続けたことで、千紘の疑問は更に深まる。営業妨害、という言葉からもしかしたら同業者か? 客の取り合いか? なんてことが頭を過ぎる。
 どちらにせよ、美容院の前で風俗の話なんて勘弁してくれよ。なんて千紘は息をついた。

「は? 誰だよ、お前。お前には関係ないだろ」

 凪の目の前にいた男が面倒くさそうに呟く。それを見た千紘が、今度は違和感に気付く。どうやらお互い顔見知りってわけではなさそうだ。しかし、だったら何をもめる必要があるのか。
 そこまで考えて千紘はようやく凪の目の前に立っている男の顔を確認した。

 その瞬間、千紘の目の色が変わる。すっと瞼を下げ、攻撃的な視線を向けた。
 千紘は何度か彼のカットを担当したことがあった。ヘアモデルの仕事をしているほど整った容姿の男性。たしか、年齢は自分と同じくらいだったはず。
 千紘のカットが気に入ったから、毎月予約を入れされてくれと何度も交渉されたのだ。さすがに彼だけを優遇することはできないし、ヘアモデルの仕事をするために他店でカットしてきたりする。だから、正直ちゃんと予約通り来るかどうかも怪しかった。

 当然丁重にお断りさせてもらったのだが、その次の予約時には来店しなかった。あの時、やっぱり来なくなったか。なんて思っただけだったが、今更ひょっこり何の用かと様子を窺った。

「関係あるわ。予約ってその時間を買ってんのと一緒なんだぞ。1件なくなっただけでどんだけ損失出ると思ってんだよ」

 凪が言う。彼が言うと、どうしてもセラピストの話に聞こえた。彼の仕事は60分いくらで施術をする。予約を取って彼の時間を買う。
 しかし、その対象者は女性のはず。なのに凪が話しているのは男性で、しかも以前千紘の客だった人物だ。

 なにか、おかしい……。千紘がそう思った瞬間、「だったら何? 他の客待たせるほど予約詰め込む方が悪くね? 次の予約が半年待ちとか1年待ちとか客ナメてるでしょ。ちょっとくらい減った方があの人も仕事しやすくなるし、他の客も予約取りやすくなるし、一石二鳥じゃん」そう言って男が高らかに笑った。

 千紘は目を大きく見開いた。凪のことを言ってるんじゃない。多分これは自分のこと……。そんなふうに気付いたら、一瞬で頭に血が昇った。

 何かおかしいと思ったら、客減らしてたのコイツか。と殺意すら芽生えた。
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