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体だけでも

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 怯える凪に気付いた千紘は「怖がんなくて大丈夫だって。絶対に酷いことしないから」と顔を近付けて耳元で言った。
 これではどちらがセラピストかわかったもんじゃないと凪は思う。

「とりあえず……交互にシャワーで」

 そう呟いた。一緒にシャワーを浴びたらあの時の情景が更に蘇りそうで、快感を試すどころか下半身全てが恐怖で縮こまってしまう気がした。

「おっけー。じゃあ、凪先に行ってきなよ」

 千紘は、それさえも想像していたかのようにすんなりと頷いた。少し距離をとった千紘から逃げるようにしてそそくさと立ち上がり、凪は脱衣場へ駆け込んだ。
 ラブホテルの脱衣場には鍵がない。本来『致す関係』の2人が一緒に利用する場所なのだから鍵など必要ないのだが、前回もこんなふうに先にシャワーを浴びていたところに千紘が入ってきてあっという間に拘束されたのだ。

 できれば鍵がほしい。そう思いながら、そういえば初めて出会った時と同じシチュエーションだということに気付いた。これさえも誘導された気がして血の気が引いた。
 シャワーを浴びている時にまた乱入され、同じことが繰り返されるんじゃないか。そう考えたら、恐怖に震える。

 だ、大丈夫なはず……。無理矢理はしないって言った。今回は触らせてやるって言ってんだ。無理に拘束する必要は向こうにもないはず……。で、でもそもそもそういうプレイが好きだったら? ヤツの性癖に刺さってたとしたら……?

 凪は服も脱げずにその場に立ち尽くしていた。サディスティックな性癖を持つ人間は、嫌がる相手を無理矢理服従させることに快感を得る。そんな人間が存在していることも事実だ。
 もしも千紘がそういう人間だったら……考えれば考えるほど怖くなる。

 ただ、千紘から好意を感じたのも事実だった。多数の女性から好意を寄せられてきた凪にとって、それが本物かどうかは直感的にわかる。千紘の眼差しは恋愛感情によるもの。それはほぼ確信に近い。

 嫌われたくない。そう言った言葉もほぼ本音だろうと思えた。

 大丈夫……多分。……もしアイツが約束を破ったら……そん時は、写真をばら撒かれるのも覚悟で縁を切ろう。……つーか、警察行こ……。

 凪はそう考えながら、服の袖を捲った。
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