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体だけでも

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 凪に恐怖はなかった。ただ、驚いている内にどんどん快感に飲まれ、知らず知らずの内に耽溺した。
 それは千紘も同じだった。獣のように貪り合い、何度も体を重ねた。行為は初めて凪を抱いた時と変わらないのに、首に回された手と時折腰の辺りをガッチリ足でホールドする凪の行動があの時とはまるで違った。

 一頻り欲を吐き出し、すっかり空っぽになると、2人両手を伸ばして仰向けで寝転んだ。動と静。瞬きも忘れるほどに同時にやってきた賢者タイムである。
 気力も性欲も失い、ただただ気怠い時間が流れる。何もしたくなくて、何も考えたくなかった。
 満たされたはずなのに、体は放っておいてほしいと言わんばかりに全く力が入らなかった。

 お互い10分ほど黙ったままだった。ついさっきまで、凪の喘ぎ声が部屋を揺らし、千紘の荒い息遣いが熱気を高めていたというのに。

「……満足した?」

 先に口を開いたのは千紘だった。凪はぼーっとしながら、千紘の言葉を受け取った。内容を理解するのに十数秒要した。

「あー……多分」

「なに、多分って」

「わかんね。体、ヤバい……」

「俺も。体力全部持ってかれた」

「あー、それだわ」

 凪が言いたかったことが千紘の一言でピンときて、虚ろな目で天井を見ながら呟いた。暖色の蛍光のせいで、天井の壁紙の模様まではわからないが、ぼんやりと見える微かな凹凸を目で追った。

「凪、もっとって言ってたね」

「覚えてない」

「嘘だね。俺のこと求めてた」

「勘違いだろ」

「勘違いなんかするわけない。嫌がることはしないって約束した」

「……お前、途中から欲に負けたろ」

「凪こそ。俺のこと嫌いなはずなのに俺を性の捌け口にした」

 2人仰向けのまま、視線だけを横に向けた。その視線がかち合うと、お互いバツが悪そうに直ぐに天井に視線を戻した。
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