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気持ちは変わるもの

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「お前、何照れてんの」

 対して凪は、眉をひそめた。整った顔をしてる、肉体美でもあると散々褒めてやったのに、なにを今更照れることがあるのだと不思議でならなかった。

「いや、まさかこのタイミングで言われるとは……」

 口元を手で覆って言う千紘に片眉を上げた凪は「ふーん。褒められ慣れてそうなお前でも照れたりすんのな」と言った。

「え? 好きな人に褒められたら普通照れない?」

「ああ……うん、そうかも。って、お前ここ店内……」

 凪は呆れたように言う。自然に会話していたが、ここは千紘の職場であり、2人はあくまでも美容師と客なのだ。
 それなのに好きだのデートの約束だの、褒められて赤面だの、周りのスタッフや客から見たらおかしな光景である。

 凪自身も数ヶ月前には顔見知りであったことすら隠したかったし、ドライヤーの音に頼って会話をしたことも、声をひそめたこともあったというのに、今自然と千紘と会話をしていることに驚いた。

「もう他のスタッフも俺たち仲良しだって知ってるもん」

 千紘は眉を下げて目を潤ませて、子犬のような顔で凪を見た。たった今、赤面していたかと思うとすぐにコロッと表情が変わる。

「仲良しってなんだよ。仲良くなんかないだろ」

「えー、さっきアシスタントの子に仲良しですねって言われたよ」

「誰だよ、そのアシスタント。どうしたら仲良く見えるんだよ」

「まあ、特別扱いしてるしね」

「特別扱い? ……成田ブースに入れないとか?」

 凪は、ははっと笑う。凪が通されるのは、いつも米山が担当していた時と同じ千紘の客以外が使用している席と同じだ。
 凪は一度も成田ブースに入ったことがなかった。

「成田ブースって言うのやめてよね。俺、その呼び方好きじゃないんだから」

「でも他のスタッフは皆そう呼んでる」

「そうね……」

 千紘がうーん、と考えながら前屈みになると凪の耳元で「あそこは俺が芋洗い式にカットするのを他のお客さんに見せないためにあるんだ」と冗談ぽく言えば、凪はおかしそうにぶはっと吹き出した。
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