ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

雪村こはる

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諦めること

02

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 客が起きたらあと3時間半。そう逆算する。24時間中のたったの3時間半。なのにとてつもなく長い時間に感じた。延長したいって言われたら事務所でやらなきゃならない仕事があるって言おう。そう決めてソファーに腰掛けた。

 同じベッドに潜り込んで恋人のように頭を撫でてやる気になんてとてもなれなかった。ただでさえ今日を迎えるまでに他の客が3日貸切したことによって連絡が滞り癇癪を起こしたのだ。
 DMだけのやり取りだが、「もう会わない」「もう予約しない」なんて文章が並んでいた。今までの凪なら当然のように機嫌をとって宥めて予約確定をさせてきた。

 しかし、なんだか急に面倒くさくなって「嫌な思いさせてごめんね。今までありがとう」と送ってしまっていた。もう去るものは追わない。それでいい気がした。
 今まで金だと思って必死につなぎ止めておいた。口座の残高を見れば貯金は2千万を優に超えていて、暫く稼がなくてもいいんじゃないかなんて思えてきた。

 幼少期が貧乏だったからか、凪はそこまで散財するわけではない。自分をブランディングするためにそこそこいい所に住んでいい物を身につけてはいるが、自分の価値を高めるためであって物欲のためではなかった。

 客が洗練された凪を見て、勝手に価値のある男だと思い込む。すると金を払わなければ会えない男なのだと納得する他ない。
 今眠っている女も昔はそうだったはずなのに、付き合いが長くなるにつれて手に入るものだと勘違いしだす。結局突き放した凪に泣いて縋った女はDMで散々文句を叩きつけた挙句予約を取って会いにきたのだ。
 そうしなければ、その空いた時間は他の女のモノになるとわかっているから。

 そんな虚しい時間を金で買うことでしか、同じ空間は手に入れられない。凪の顔を見た途端に泣き出した女を慰めて楽しい振りをしてデートをしたのだ。疲れないわけがない。
 女はなんて面倒な生き物なんだ。俺のことが好きだっていうなら、もっと思いやりをもって接してくれればいいのに。
 そう思った瞬間に思い浮かんだのは千紘の顔だった。
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