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諦めること

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「ちょっ」

 凪は驚いて、やめろと千紘の胸板を押した。抵抗する凪を見て、千草が微笑ましそうに頬を緩めた。

「好きな子か。じゃあ、千紘の片想いだ?」

「今はね」

 千紘は、片想いだと言いきられたのが面白くないのか、更に唇を尖らせた。凪は、今はという言葉を否定しようともがくが、完全に千紘にホールドされて仕方なく諦めた。

「そう。上手くいくといいね」

「ね。俺もそう思ってる」

 本人がそこにいるのが見えていないのかと思えるような兄弟の会話に凪は顔をしかめた。それから、千紘の腕の間から千草の容姿を改めて見つめた。

 千紘と同じくらい柔らかい雰囲気だが、イメージは全く違った。ミルクティー色でウルフカットの千紘は中性的な印象だが、千草は黒髪で凪よりも短い。さらっとセットをして前髪もセンターで分けていることから清潔感は十分あるが、千紘よりも男性っぽさがあった。

 口元は千紘と似てはいるが、目の作りはかなり違うようだった。幅の狭い二重に、三白眼。笑った雰囲気は柔らかいものの、普通にしていると目力を感じた。
 スタイルは千紘同様スラリと綺麗だが、筋肉がしっかりとついているのが服の上からでもわかる。
 身長も千紘と同じくらいありそうで、凪は恐らく自分よりも高いだろうと思った。

 控えめに言ってもかなりのイケメンだった。落ち着いた大人の雰囲気が、女性ウケしそうで凪は久しぶりにこんなに整った容姿の男に出会った気がした。

 一般人でこんだけのイケメンがいたら、そりゃセラピストに求められるレベルも上がるよな……。
 技術だけじゃ売上を作れないのがこの仕事の難しいところだし。

 凪は、休職しようとしているにもかかわらず無意識にそんなことを考えた。

「千紘、どうするの? 今日やめとく?」

 千草はギュッとくっついてる2人を見て尋ねた。

「俺、もう帰るんで……」

 千紘の言葉を待つまでもなく、凪がそう答えた。
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